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11-10(夏樹視点)
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19時半。
リビングの中をうろうろしながら、黒崎の帰りを待っている。テラス窓から門の外を眺めては、今日の段取りを確認して納得した。ちゃんとできている。
「部屋は温まってる。お風呂の用意、着替えもOK。ビールも冷やしてある。晩ご飯もできた……」
これで準備完了だ。あとは玄関先まで、迎えに行くだけだ。黒崎のお気に入りのエプロンを付けようかと思いつつも、こんな時にはやめた方がいいと判断した。
「ワンワン!」
「帰って来たの?」
アンが玄関へ走って行った。テラス窓から外を見る前に、自分も玄関へ向かった。
ガチャ!
ドアを開くと、木々の向こうの門の辺りが明るくなっていた。お馴染みのタクシーのランプが見えている。そして、タクシーが走り去って行く音と、門が開かれる音が重なった。
「黒崎さーーん!」
「寒いから入っておけ」
「おーーい」
「おい、そっちは……」
黒崎を目がけてダイブしたつもりなのに、到達することが出来なかった。足元の小石につまづき、そばにあった植え込みに足を突っ込んでしまった。
「わわ~~っ」
「夏樹!」
植え込みのおかげで地面に転ばなくて済んだ。抱きかかえるようにして助けてもらった後、抱きしめられた。そして、そのまま抱きかかえるようにして玄関へ連れて行かれて、温かいリビングへ入れられた。
すると、部屋の中からふわっとした珈琲の匂いがして、心なしか黒崎の表情が和らいだ。帰って来た時に、落ち着ける場所があれば大違いだ。自分もそうだ。背中に手をまわして抱き返した。
「黒崎さん?どうしたの?」
「なんでもない」
「おかえりなさい」
「ただいま。ビールの飲み放題が楽しみだった」
「今夜だけだよ?」
「そばにいてくれるだけで十分だ。無理をしているだろう?強がらなくてもいい」
「甘えたいだろー?愚痴を言ってよ。常務なんかやめてやるーっとかさ……」
「そんなセリフを、どこで覚えてきた?テレビか?」
「一般的なセリフだよ。黒崎さんは言わないもんね」
黒崎の口から愚痴を聞いたことがない。料理が美味しくない、スーツにシワがある、そんな文句なら口にしているけれど、仕事のことでは言わない人だ。ストレスが溜まっていると心配している。
「そうでもないぞ?」
「聞いたことないよー?」
「お前には言わない。カッコつけているからだ」
「かっこ悪くてもいいってば~。ストレスが溜まったら、それこそ変な方へいくじゃん。黒崎さんは変なことしないだろうけど。体を壊すよ」
「そうか……」
「そうだよ!」
ぎゅっとしがみついた。こんな時はもっと近づきたいと思う。黒崎はそんな気分ではないだろう。昔のことを気にしている。偉そうなくせに、繊細な部分のある人だと知っている。だからこそ、愚痴を言わないことが心配だ。
「黒崎さん。ありがとう」
「夏樹……」
「大好きだよ。んんーーっ」
今度は唇へ吸い付いてやった。大げさに音を立てて離すと仕返しをされた。強い力で抱き寄せられて、奪うようなキスをされた。ありがとう。その囁き声つきだった。
リビングの中をうろうろしながら、黒崎の帰りを待っている。テラス窓から門の外を眺めては、今日の段取りを確認して納得した。ちゃんとできている。
「部屋は温まってる。お風呂の用意、着替えもOK。ビールも冷やしてある。晩ご飯もできた……」
これで準備完了だ。あとは玄関先まで、迎えに行くだけだ。黒崎のお気に入りのエプロンを付けようかと思いつつも、こんな時にはやめた方がいいと判断した。
「ワンワン!」
「帰って来たの?」
アンが玄関へ走って行った。テラス窓から外を見る前に、自分も玄関へ向かった。
ガチャ!
ドアを開くと、木々の向こうの門の辺りが明るくなっていた。お馴染みのタクシーのランプが見えている。そして、タクシーが走り去って行く音と、門が開かれる音が重なった。
「黒崎さーーん!」
「寒いから入っておけ」
「おーーい」
「おい、そっちは……」
黒崎を目がけてダイブしたつもりなのに、到達することが出来なかった。足元の小石につまづき、そばにあった植え込みに足を突っ込んでしまった。
「わわ~~っ」
「夏樹!」
植え込みのおかげで地面に転ばなくて済んだ。抱きかかえるようにして助けてもらった後、抱きしめられた。そして、そのまま抱きかかえるようにして玄関へ連れて行かれて、温かいリビングへ入れられた。
すると、部屋の中からふわっとした珈琲の匂いがして、心なしか黒崎の表情が和らいだ。帰って来た時に、落ち着ける場所があれば大違いだ。自分もそうだ。背中に手をまわして抱き返した。
「黒崎さん?どうしたの?」
「なんでもない」
「おかえりなさい」
「ただいま。ビールの飲み放題が楽しみだった」
「今夜だけだよ?」
「そばにいてくれるだけで十分だ。無理をしているだろう?強がらなくてもいい」
「甘えたいだろー?愚痴を言ってよ。常務なんかやめてやるーっとかさ……」
「そんなセリフを、どこで覚えてきた?テレビか?」
「一般的なセリフだよ。黒崎さんは言わないもんね」
黒崎の口から愚痴を聞いたことがない。料理が美味しくない、スーツにシワがある、そんな文句なら口にしているけれど、仕事のことでは言わない人だ。ストレスが溜まっていると心配している。
「そうでもないぞ?」
「聞いたことないよー?」
「お前には言わない。カッコつけているからだ」
「かっこ悪くてもいいってば~。ストレスが溜まったら、それこそ変な方へいくじゃん。黒崎さんは変なことしないだろうけど。体を壊すよ」
「そうか……」
「そうだよ!」
ぎゅっとしがみついた。こんな時はもっと近づきたいと思う。黒崎はそんな気分ではないだろう。昔のことを気にしている。偉そうなくせに、繊細な部分のある人だと知っている。だからこそ、愚痴を言わないことが心配だ。
「黒崎さん。ありがとう」
「夏樹……」
「大好きだよ。んんーーっ」
今度は唇へ吸い付いてやった。大げさに音を立てて離すと仕返しをされた。強い力で抱き寄せられて、奪うようなキスをされた。ありがとう。その囁き声つきだった。
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