夏椿の天使~あの日に出会った旋律

夏目奈緖

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 バタン。

 車から降りた後、足早に門へ向かった。警備担当者へは、ステージ機材の運び出しに来た、IKUエンタテイメントの遠藤だと名乗った。無線で知らせを受けていて、スムーズに入ることができた。

 カツカツ……。

 佐久弥が履いているブーツの足音が響いている。自然と隣り合って歩いているから、そのままで自己紹介をした。

「……改めまして。佐伯久弥です。悠人から黒崎君のことを聞いています。8月のミライのステージを観ました」
「……ありがとうございます。黒崎夏樹です」
「俺のことは呼び捨てにしてください」
「いえ、そういうわけには。俺のことは呼び捨てにしてください」
「お互いに呼び捨てで。夏樹、よろしく」

 テレビで観た時は近寄りがたいイメージだったのに、実物は正反対だ。いいタイミングだから、理久のことを聞いてみよう。

「……佐伯君っていう友達がいるんだ。サエキ酒造さんの関係なんだけど。もしかして親戚かなって思ったんだ」
「ああ、理久のことか。弟だよ。聞いているよ。黒崎製菓のインターンシップに参加させてもらった」
「一緒のグループだったよ」
「そうだったのかー。その節はお世話になりました」
「あ、いえ、そんな……」

 いきなり大人の雰囲気に変わり、ぺこりと頭を下げられてしまった。腰が低いというか、年齢不詳だと思う。5歳ぐらい年上だろうか?

「あの……」
「どうしたの?」
「年齢を聞いてもいいかな?」
「31歳だよ。裕理とは同級生だから」
「ヒャーーーッ。もっと若く見えたんだ。ああ、ごめんね……」

 思わず声をあげてしまった。幸いにも、この辺りが行きかう運営スタッフで賑やかだ。こっちを向く人もいない。失礼な反応をしたから焦っていると、悠人が佐久弥の腰を叩いた。

「この人、なーんにも考えていないから若いそうだよー?ベテルギウスの植本さんが言ってた」
「そうか?これでも思慮深い男だ。少年には理解できないかー?」
「うるさいよー。なつきー。何かツッコんでよ」
「……理久と似ているね。空気を読んでいるけど、読まないふりができるんだ。考えていないようで、じつは考えているんだよ」
「へえ、ストレートに言うんだな。似ているかも知れない。……ここで別れるよ。審査員だけど、俺は裏方だから、票は入れないからね」
「どうして?」
「この仕事を受けたのは春だった。まだ君達と知り合う前だよ。いろいろ言うやつがいるから、審査員の裏方をやる。……他の参加者のことを気にしないようにな。いいステージをしろよ!」
「分かった。また後でね!」
「ありがとう。頑張るよ」
「じゃあなー」

 佐久弥が手を振って、違う方向へ曲がった。自分達も控え室に向かう道中、迷子になってしまった。近くを通っていたスタッフさんに道を尋ねて、なんとか控え室に着いた。
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