夏椿の天使~あの日に出会った旋律

夏目奈緖

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 ステージから降りると、スタッフからお菓子の入った紙袋を渡された。参加のお礼だという。早瀬さんと黒崎がやってきて、健闘を称えてくれた。

「ゆうとくーん、カッコよかったぞ」
「ヘヘヘ。いつもキックをしてるからね」
「……夏樹。こわい顔のボスだったのか?」
「ここに居る人が一番こわいけどね。いたっ」

 いつの間にか観客の子供たちが集まっていた。月夜のレンジャーと順番に写真を撮っている。俺たちも撮ってもらい、会場を後にした。

「じゃあね!」
「またね~」

 お邪魔虫にならないように、悠人たちと別れた。この動物園で売っているお菓子が人気だと、悠人から教えてもらった。いくつか並んだショップの前に、そのお菓子の名前を見つけた。

「ありがとうございましたー」
「ありがとう」

 紙の容器に入っているのは、ひと口サイズのホットケーキのようなものだ。甘さ控えめの素朴な味で美味しい。黒崎も食べた。

「美味しいだろ?」
「ああ、美味い。もっと食いたい」
「へえー、珍しいね。……すみません。もう一袋、お願いします。これ、温かいうちに食べた方がいいですよね?……そうなんだ。冷めると固くなるんだ。ありがとう~」

 ベンチに並んで腰かけて、目の前に広がっている水辺のフラミンゴを眺めた。熱帯植物に囲まれている。綺麗に掃除されているから、コケや植物の匂いがいい。

 お菓子をつまみながら、ペットボトルのお茶を飲んだ。よっぽど気に入ったようで、黒崎がパクパクと食べている。

「ネットで似たようなレシピを探してみるよ。気に入ったんだ」
「シャルロットキッチン二号店でも出したい。新しい路線で菓子を出すか……」
「いいねえ。和菓子っぽいものがないもんね。大人向けのチョコレート菓子はあっても、懐かしいものがないし」
「そうか。なるほど……」

 黒崎がスマホでメモを取り始めた。類似版も検索している。いくつかヒットして、画面を見せられた。それは見た目だけが似ているもので、食感は違うように思った。

「この系統のお菓子だろー?ウーン……。これを覚えておいて、帰ってから作ってみるよ。たぶん、小麦粉と砂糖、シンプルな材料のはずなんだ。卵でふっくら?ちがうなあ。ベーキングパウダーかな?」
「大学の定期試験の後でかまわない」
「りょーかい。気晴らしになるから楽しそうだよ。コツコツやるのが好きだし」
「メニュー開発に向いているな。楽しみか?」
「うんっ。理久君はマニアックだから、誰も考えないメニューを生み出しそうだよ。如月はアンパンマニアだし。俺は……、うーん」
「九条ねぎマニアだ……」

 黒崎から頬をツンツンと突かれた。身じろいでもやめないから、お返しに指へ軽く食いついた。さらに歯で阻止して離してやらなかった。やめろと言いつつも笑っている。

「黒崎さん。お腹空いただろ?お昼ご飯の店へ行こうか?」
「もっと後で構わない。ここへ来てからも食べた」
「たしかに食べたけどさ。しっかり食べたい派だろ。んん、ここじゃ……」

 黒崎から頬に手を添えられた。ここでキスをするというのだろう。しかし、そうならなかった。
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