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ピン!指先で頬を弾かれてしまった。期待したものが外れた。食べ終わったなら行くぞと言い、黒崎が立ち上がった。そして、素っ気なく手を引かれて、俺も立ち上がった。
「なんで機嫌が悪いんだよ?」
「……ああいう目で見るな」
「ええ?」
「……誘うな」
「どんな目をしてたんだよー?この間から言っているよね?新技を……」
「……カンガルーがいるぞ。サバンナエリアだ」
「うひゃひゃひゃ~、いたっ」
照れている黒崎へ笑いかけると、マスクの紐を引っ張られて離された。パチッと音を立てて弾かれた。その腕に追いすがって言い返した。
「あんたこそ意地悪の新技を編み出しているよ」
「うるさい。必要にかられてだ」
「ウーーーッ」
マスク越しにでも分かるぐらいに、唇を尖らせて威嚇してやった。そんな俺を見て、黒崎が意地悪そうに笑った。その直後に後ろから抱きつかれた。とても温かくて、優しい気持ちになった。
後ろから抱きつかれたままで、そばにあるカンガルーコーナーの方を向いた。三頭が移動したり食べたりしている。さらに、一頭のカンガルーが柵のそばまで来た。
「可愛いねー。あなたたちどうしたのー?って聞かれているみたい」
「そうか」
「話しかけられている感じだよ。多分。ええ?マズイねーー」
見ていたのがいけなかったのか?オスのカンガルーが突進して来たから、慌てて距離を取った。ファイティングポーズをして、こっちを見ている。誤解を解くのは難しいだろうから、ここままコーナーを離れた。
「おい、歩きづらいぞ」
「寒いんだよ」
「うそつけ。暑いと言っていただろう」
「ふふん。いまは寒いんだよ~」
「大人デートだろう?」
「大人デートじゃん」
「……違いない。こっちだ」
「うん」
ちょうど向かいから歩いてきた女の子が俺たちを見て、お父さんの手を引き始めた。困っている顔をしている。どうしたのだろう。すると、俺が黒崎から何かされているのだと思ったらしい。お父さんに俺のことを助けてあげてと言っている。
「大丈夫だよー。仲良しだからね~」
すぐに誤解を解いた。黒崎が離れていった。なんだか可愛らしくて、やめておけばいいのに、イジッてしまった。その結果、本当に苛められてしまった。
「黒崎さんっ。やめてよー」
「うるさい。おいていくぞ。キリンを見たいんだろう?」
「うん。手をつないでよ」
「後にする……」
「さっきは抱きついていただろ?」
「はいはい」
意外と優しく手を握られた。わざと体重を掛けながら木製の階段をあがり、バルコニーからキリンを眺めた。広い敷地内には水辺や木陰があり、シマウマとキリンが共存している。たまにこっちを見ている姿は、何か珍しいものを見ているかのようだ。
「飼育員さんが来たよ。おやつタイムだってさ」
「慣れているもんだな。差し出されるのを待っているぞ」
「ねえー、小さいのが来たよ。うひゃひゃー、ズボンを引っ張ってるよ」
小さなシマウマが悪戯をしている。飼育員さんのズボンの裾を噛んで引っ張った。俺たちと同じように、周りからも笑い声が聞こえてきた。このまま寄り添うようにして立っていると、囁き声が聞こえてきた。
「イケメン……」
「何かの撮影?」
「カメラがないわよ?」
「そうねえ……。すごーい」
「はあ……」
「来てよかった~」
そんな囁き声を気にすることはなく、黒崎が遠くの方を眺めている。ときどきこっちを向くたびに悲鳴があがっているから面白くない。見られたくない。
「黒崎さん。向こうを見てよ」
「……何があるんだ?」
「うん。そっち」
「何もないぞ?」
「木があるよ」
「……どうしたんだ?」
「あんたが珍しいものに見えているんだよ。キリンを見ずに、あんたのことを見ているんだ」
「放っておけ。そのうち見慣れる」
「黒崎さんは慣れているだろうけどさ……」
「見られたくないのか。それならこうしよう」
「え?ええ?」
そっと黒崎の顔が近くに来た。頬にキスをされたことがすぐに分からなくて、見つめ合うことで認識できた。まだ眼差しが甘い。目を逸らされない。これは本気だと、感極まって声を上げた。
「……これでいい。黙ってもらえた」
「そ、そういう事なの?」
「そうだ。それ以外にない」
「うっうっ。今日ぐらいはいいじゃん~」
「それはできない」
「ひっく、うっうっ。いたっ」
嘘泣きをしても無駄だった。マスクの紐を引っ張られて離されるという、子供じみた意地悪をされてしまった。離れる前に肩を抱かれて、近くの水辺の方を見ろと促された。
「夏樹、向こうのカバを見てみろ。好きだろう?」
「んー?特に好きってわけじゃないよ?」
「高校生の時に持っていたバッグの柄だ。プリントされていたぞ」
「あれはカバじゃないよ。妖精だよ。フィンランドで生まれたキャラクターだよ!」
「妖精だったのか」
「うひゃひゃ~。オッサン、いい加減にしろよ」
「……なんだと?」
「ふふん。すぐに怒り出すのも、オジサンの証拠だよ~」
黒崎の攻撃から身を守るために、さっと後ずさりをした。誰かに当たりそうだからと抱き寄せられて、バルコニーの端へ連れて行かれた。さっとマフラーを巻き直されて、胸がキュンとした。
「なんで機嫌が悪いんだよ?」
「……ああいう目で見るな」
「ええ?」
「……誘うな」
「どんな目をしてたんだよー?この間から言っているよね?新技を……」
「……カンガルーがいるぞ。サバンナエリアだ」
「うひゃひゃひゃ~、いたっ」
照れている黒崎へ笑いかけると、マスクの紐を引っ張られて離された。パチッと音を立てて弾かれた。その腕に追いすがって言い返した。
「あんたこそ意地悪の新技を編み出しているよ」
「うるさい。必要にかられてだ」
「ウーーーッ」
マスク越しにでも分かるぐらいに、唇を尖らせて威嚇してやった。そんな俺を見て、黒崎が意地悪そうに笑った。その直後に後ろから抱きつかれた。とても温かくて、優しい気持ちになった。
後ろから抱きつかれたままで、そばにあるカンガルーコーナーの方を向いた。三頭が移動したり食べたりしている。さらに、一頭のカンガルーが柵のそばまで来た。
「可愛いねー。あなたたちどうしたのー?って聞かれているみたい」
「そうか」
「話しかけられている感じだよ。多分。ええ?マズイねーー」
見ていたのがいけなかったのか?オスのカンガルーが突進して来たから、慌てて距離を取った。ファイティングポーズをして、こっちを見ている。誤解を解くのは難しいだろうから、ここままコーナーを離れた。
「おい、歩きづらいぞ」
「寒いんだよ」
「うそつけ。暑いと言っていただろう」
「ふふん。いまは寒いんだよ~」
「大人デートだろう?」
「大人デートじゃん」
「……違いない。こっちだ」
「うん」
ちょうど向かいから歩いてきた女の子が俺たちを見て、お父さんの手を引き始めた。困っている顔をしている。どうしたのだろう。すると、俺が黒崎から何かされているのだと思ったらしい。お父さんに俺のことを助けてあげてと言っている。
「大丈夫だよー。仲良しだからね~」
すぐに誤解を解いた。黒崎が離れていった。なんだか可愛らしくて、やめておけばいいのに、イジッてしまった。その結果、本当に苛められてしまった。
「黒崎さんっ。やめてよー」
「うるさい。おいていくぞ。キリンを見たいんだろう?」
「うん。手をつないでよ」
「後にする……」
「さっきは抱きついていただろ?」
「はいはい」
意外と優しく手を握られた。わざと体重を掛けながら木製の階段をあがり、バルコニーからキリンを眺めた。広い敷地内には水辺や木陰があり、シマウマとキリンが共存している。たまにこっちを見ている姿は、何か珍しいものを見ているかのようだ。
「飼育員さんが来たよ。おやつタイムだってさ」
「慣れているもんだな。差し出されるのを待っているぞ」
「ねえー、小さいのが来たよ。うひゃひゃー、ズボンを引っ張ってるよ」
小さなシマウマが悪戯をしている。飼育員さんのズボンの裾を噛んで引っ張った。俺たちと同じように、周りからも笑い声が聞こえてきた。このまま寄り添うようにして立っていると、囁き声が聞こえてきた。
「イケメン……」
「何かの撮影?」
「カメラがないわよ?」
「そうねえ……。すごーい」
「はあ……」
「来てよかった~」
そんな囁き声を気にすることはなく、黒崎が遠くの方を眺めている。ときどきこっちを向くたびに悲鳴があがっているから面白くない。見られたくない。
「黒崎さん。向こうを見てよ」
「……何があるんだ?」
「うん。そっち」
「何もないぞ?」
「木があるよ」
「……どうしたんだ?」
「あんたが珍しいものに見えているんだよ。キリンを見ずに、あんたのことを見ているんだ」
「放っておけ。そのうち見慣れる」
「黒崎さんは慣れているだろうけどさ……」
「見られたくないのか。それならこうしよう」
「え?ええ?」
そっと黒崎の顔が近くに来た。頬にキスをされたことがすぐに分からなくて、見つめ合うことで認識できた。まだ眼差しが甘い。目を逸らされない。これは本気だと、感極まって声を上げた。
「……これでいい。黙ってもらえた」
「そ、そういう事なの?」
「そうだ。それ以外にない」
「うっうっ。今日ぐらいはいいじゃん~」
「それはできない」
「ひっく、うっうっ。いたっ」
嘘泣きをしても無駄だった。マスクの紐を引っ張られて離されるという、子供じみた意地悪をされてしまった。離れる前に肩を抱かれて、近くの水辺の方を見ろと促された。
「夏樹、向こうのカバを見てみろ。好きだろう?」
「んー?特に好きってわけじゃないよ?」
「高校生の時に持っていたバッグの柄だ。プリントされていたぞ」
「あれはカバじゃないよ。妖精だよ。フィンランドで生まれたキャラクターだよ!」
「妖精だったのか」
「うひゃひゃ~。オッサン、いい加減にしろよ」
「……なんだと?」
「ふふん。すぐに怒り出すのも、オジサンの証拠だよ~」
黒崎の攻撃から身を守るために、さっと後ずさりをした。誰かに当たりそうだからと抱き寄せられて、バルコニーの端へ連れて行かれた。さっとマフラーを巻き直されて、胸がキュンとした。
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