夏椿の天使~あの日に出会った旋律

夏目奈緖

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 さっきご飯を食べてきたばかりだというのに、目の前にあるカフェのことが気になった。入口には数人の女性客が立っていて、同じロゴの紙袋を持っている。きっとこの店のものだろう。

「黒崎さん。テイクアウトのスイーツがあるみたいだよ。入ってもいい?」
「生菓子だったらどうする?明日の朝は食えないだろう?」
「焼き菓子を買うよ」
「この店を知っているのか?」
「ううん。初めてだよ。入り口に小さな黒板があるだろ?マフィンのイラストがあるんだ。ほらね?」
「……夜目が利かないくせに、こういうものなら見えるのか。コンタクトを着けても、大して視力は良くないだろう?」
「スイーツ男子の勘だよ。わずかに漏れている匂いと店の佇まい、出てきたお客さんの表情で分かるものがあるんだ」
「夏樹。黒崎製菓の……」
「んー?なにー?」
「何でもない。入ろうか……」

 黒崎が何かを言いかけた。黒崎製菓という言葉が出たのなら、仕事がらみだろう。さっそく店内に入り、奥のショーケースの前に立った。予想どおりに焼き菓子が並んでいる。隣のケースには生菓子がある。

「わあ~、美味しそうだよ」
「……けっこう種類があるな。どれでも好きなものを選んでいい。これとこれ、これもお願いします」
「えー?こんなに?」
「どれも日持ちがする、どうせすぐに消費するだろう。これも、あっちも……」

 選んでいいと言ったくせに、さっさと買うものを店員さんへ告げている。しかも、俺の好むものばかりだ。あっという間に紙袋へ入れられて、さっさとお会計を済ませていた。俺はといえば生菓子を眺めて、次に来た時の目星をつけていた。

「夏樹、行くぞ」
「もう少し……」
「おいていくぞ」
「あ……待ってよーー」
「風邪を引くだろう?そろそろ帰る」
「もっとイルミネーションを見たいんだよ~」
「だめだ。鼻水を出しているくせに」
「なんで知っているんだよ?」
「鼻声だからだ」

 肩を抱かれてしまえば、言うことを聞くしかない。こうなればテコでも動かないからだ。無用な喧嘩をしないために、しぶしぶ、店を出て帰路についた。
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