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17-6(夏樹視点)
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午前10時半。
シャルロットキッチンに着くと、奥のテーブル席に案内された。大きな観葉植物がつい立てのようになり、ゆっくり過ごせる感じだからだ。
全席100人の店内には、料理の写真を撮ったり、観光雑誌を広げたりしている女性客が占めている。ここにしかない店だから、観光スポットになっているようだ。
「観光の人が多いね。ここしか店舗がないからだね。雑誌とかネットサイトでも紹介されているよ。商品を使ったデザートがウリだって」
「シャルロットシリーズは子供の頃から知っている人が多い」
「チョコはスイーツ好きには人気だよ。俺は苦手だけど……」
「珍しいと思う。どうしてだ?」
「ネバってする感じが苦手なんだ。口どけって言うけど、あんまりねえ……」
「なるほど。あっさり味のチョコがあればいいのか?」
「うんうん。珈琲っぽくて、スッキリした感じがいい」
「開発部門で新しいものを作ろうとしている。甘いだけでなくて、苦みが強いわけでもない。お前が言っていることに近い」
「へえー。あったらいいな。あ、きたきた」
「やっと笑顔になったか」
「ごめん……」
「温かいうちに食べろ」
「うん」
リンゴとビスケットのプディングと、珈琲が運ばれて来た。ほんのり湯気が立ち、寒かった体が早くも温かくなった。リンゴのいい匂いがする。ひと口食べると、ふんわりした感触と甘さ控えめの味が広がった。自分の好みの甘さだ。
「美味しいよ~。全部が甘さ控えめにしているよね?」
「さすがはスイーツ男子だ。よく分かったな」
「この系統が甘さ控えめなら、全部がそうだよ。白玉ぜんざいもそうだよ」
「親父が好きだ。そうだろう」
「2種類ぐらい食べている人が多いもんね。これなら入るんだよ。ハーフサイズがあるといいなあ。作るのが難しいけど」
「メニュー開発に向いている」
「よかった。得意分野でやれるのはラッキーだよ」
「俺も良かった。気晴らしになるだろう。外へ行けないからな」
「ありがとう」
黒崎からフォローされている。何も言わなくても伝わっているし、沈んだ気持ちを軽い空気にするのが、彼らしい。さすがは15歳の年の差だ。自分もそうなれるだろうか?結婚後は対等に思っていたのに。食べながら考えていると、頬をつねられてしまった。黒崎が苦笑している。後ろ向きな事を考えていることがバレているようだ。
「珍しく後ろ向きになっているぞ?」
「うん。焦っているよ」
「その気持ちは理解できる。俺もそうだった。当たり前のことが出来なかった。そのうち気にならなくなる。図々しくなるからだ。今でも図々しいが……」
「なんだよっ。黒崎さんと一緒にいると、そうなるんだよ」
「その調子だ。もっと泣いてもいいぞ?水分補給が可能だ。いくらでも泣け」
「その包容力に騙されたよ……」
「お前に叱られるからだ。もっと優しい言い方をしろと」
「そうだね。優しくなったよ」
「そうか。食わないのか?さっきから進んでいないぞ」
「食べてるよ?ほら、半分までいったもん」
「普段はバクバクいくだろうが。白玉ぜんざいを頼んでやろう。ここのほうじ茶と緑茶は美味いぞ」
「まだ食べ切っていないよ。後にする」
「……もう行くぞ」
「ええ?追加オーダーするって言ったじゃん」
「バクバクいけ。心配だ」
「考え事をしてたからだよ。……ありがとう」
黒崎が店員さんへ声をかけた。持ち帰りするから用意してくれと頼んでいる。スイーツ以外もあるようだ。しかも、俺の好きそうな料理ばかりだ。
「それから、アップルパイ3つ。プリン2つ。キチンサラダ。ポークローストを」
「……かしこまりました。レジにてお渡しでよろしいでしょうか」
最近になり、テイクアウト可の料理を増したそうだ。評判がよくて、問い合わせが多かったと聞いている。なんだか楽しくなってきた。メニュー開発が面白そうだ。ほっこりした気分で珈琲を飲んでいると、黒崎が手を伸ばしてきた。そして、スッと左手を握られて、もみ込むようにされた。
「少しは温かくなったか?」
「うん。体はポカポカしてるよ。手が冷たいのはいつものことだよ」
「しばらく、親父の車で通学しないか?」
「それは申し訳ないよ。お義父さんだって仕事があるのに」
「遠回りにはならない。親父もそう言っている。落ち着くまでだ」
「それだと、ずっと乗っていくことになるよ。大学ぐらいは自力で行きたい。駅のトイレには入らないようにするよ」
「そうか。様子を見よう」
「うん……」
大学前の駅まで直行している。駅のトイレを使わないのは、具合が悪くなっても気づかれないからだ。大学のトイレに行くときですら、悠人達が近くで待ってくれている。彼らの方からそうすると言われて、素直に甘えた。
「情けないよ。今日は気弱だよ。もうすぐ20歳になるのに。恥ずかしいよ……」
「俺は慣れている。さあ、出よう」
先に立った黒崎から促されて席を立った。
お会計の間に商品を受け取った。その紙袋には、シャルロットのハンカチが入っていた。今月のプレゼントだった。この子は唇を尖らせていない、新しいバージョンだ。黒崎が描いたものだろう。今の気持ちにぴったりだと思った。
シャルロットキッチンに着くと、奥のテーブル席に案内された。大きな観葉植物がつい立てのようになり、ゆっくり過ごせる感じだからだ。
全席100人の店内には、料理の写真を撮ったり、観光雑誌を広げたりしている女性客が占めている。ここにしかない店だから、観光スポットになっているようだ。
「観光の人が多いね。ここしか店舗がないからだね。雑誌とかネットサイトでも紹介されているよ。商品を使ったデザートがウリだって」
「シャルロットシリーズは子供の頃から知っている人が多い」
「チョコはスイーツ好きには人気だよ。俺は苦手だけど……」
「珍しいと思う。どうしてだ?」
「ネバってする感じが苦手なんだ。口どけって言うけど、あんまりねえ……」
「なるほど。あっさり味のチョコがあればいいのか?」
「うんうん。珈琲っぽくて、スッキリした感じがいい」
「開発部門で新しいものを作ろうとしている。甘いだけでなくて、苦みが強いわけでもない。お前が言っていることに近い」
「へえー。あったらいいな。あ、きたきた」
「やっと笑顔になったか」
「ごめん……」
「温かいうちに食べろ」
「うん」
リンゴとビスケットのプディングと、珈琲が運ばれて来た。ほんのり湯気が立ち、寒かった体が早くも温かくなった。リンゴのいい匂いがする。ひと口食べると、ふんわりした感触と甘さ控えめの味が広がった。自分の好みの甘さだ。
「美味しいよ~。全部が甘さ控えめにしているよね?」
「さすがはスイーツ男子だ。よく分かったな」
「この系統が甘さ控えめなら、全部がそうだよ。白玉ぜんざいもそうだよ」
「親父が好きだ。そうだろう」
「2種類ぐらい食べている人が多いもんね。これなら入るんだよ。ハーフサイズがあるといいなあ。作るのが難しいけど」
「メニュー開発に向いている」
「よかった。得意分野でやれるのはラッキーだよ」
「俺も良かった。気晴らしになるだろう。外へ行けないからな」
「ありがとう」
黒崎からフォローされている。何も言わなくても伝わっているし、沈んだ気持ちを軽い空気にするのが、彼らしい。さすがは15歳の年の差だ。自分もそうなれるだろうか?結婚後は対等に思っていたのに。食べながら考えていると、頬をつねられてしまった。黒崎が苦笑している。後ろ向きな事を考えていることがバレているようだ。
「珍しく後ろ向きになっているぞ?」
「うん。焦っているよ」
「その気持ちは理解できる。俺もそうだった。当たり前のことが出来なかった。そのうち気にならなくなる。図々しくなるからだ。今でも図々しいが……」
「なんだよっ。黒崎さんと一緒にいると、そうなるんだよ」
「その調子だ。もっと泣いてもいいぞ?水分補給が可能だ。いくらでも泣け」
「その包容力に騙されたよ……」
「お前に叱られるからだ。もっと優しい言い方をしろと」
「そうだね。優しくなったよ」
「そうか。食わないのか?さっきから進んでいないぞ」
「食べてるよ?ほら、半分までいったもん」
「普段はバクバクいくだろうが。白玉ぜんざいを頼んでやろう。ここのほうじ茶と緑茶は美味いぞ」
「まだ食べ切っていないよ。後にする」
「……もう行くぞ」
「ええ?追加オーダーするって言ったじゃん」
「バクバクいけ。心配だ」
「考え事をしてたからだよ。……ありがとう」
黒崎が店員さんへ声をかけた。持ち帰りするから用意してくれと頼んでいる。スイーツ以外もあるようだ。しかも、俺の好きそうな料理ばかりだ。
「それから、アップルパイ3つ。プリン2つ。キチンサラダ。ポークローストを」
「……かしこまりました。レジにてお渡しでよろしいでしょうか」
最近になり、テイクアウト可の料理を増したそうだ。評判がよくて、問い合わせが多かったと聞いている。なんだか楽しくなってきた。メニュー開発が面白そうだ。ほっこりした気分で珈琲を飲んでいると、黒崎が手を伸ばしてきた。そして、スッと左手を握られて、もみ込むようにされた。
「少しは温かくなったか?」
「うん。体はポカポカしてるよ。手が冷たいのはいつものことだよ」
「しばらく、親父の車で通学しないか?」
「それは申し訳ないよ。お義父さんだって仕事があるのに」
「遠回りにはならない。親父もそう言っている。落ち着くまでだ」
「それだと、ずっと乗っていくことになるよ。大学ぐらいは自力で行きたい。駅のトイレには入らないようにするよ」
「そうか。様子を見よう」
「うん……」
大学前の駅まで直行している。駅のトイレを使わないのは、具合が悪くなっても気づかれないからだ。大学のトイレに行くときですら、悠人達が近くで待ってくれている。彼らの方からそうすると言われて、素直に甘えた。
「情けないよ。今日は気弱だよ。もうすぐ20歳になるのに。恥ずかしいよ……」
「俺は慣れている。さあ、出よう」
先に立った黒崎から促されて席を立った。
お会計の間に商品を受け取った。その紙袋には、シャルロットのハンカチが入っていた。今月のプレゼントだった。この子は唇を尖らせていない、新しいバージョンだ。黒崎が描いたものだろう。今の気持ちにぴったりだと思った。
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