夏椿の天使~あの日に出会った旋律

夏目奈緖

文字の大きさ
216 / 348

17-12(夏樹視点)

しおりを挟む
 20時半。

 鉄板焼き店を出た後、せっかくだからどこかに行きたいと話して、羽柴アイランドに寄った。四方を運河に挟まれた人工の島のような場所だ。今、その島の湾沿いの遊歩道を散歩している。ここには2カ月だけ住んでいた。今は早瀬さんと悠人が住んでいるのに、まだ2回しか遊びに来ていない。

「ここに住んでいたのが、もっと昔に思えるよ。二か月しか住んでいなかったけど……」
「そうだったな」
「今日は弱音を吐いてよかった。俺が何も言わないから、あんたが家のことを話してくれないんだと思う。一緒に悩んでいこうよ。本当に因縁だらけの家なのー?」
「どうしてそう思う?」
「身内の数が多いからだよ。声が大きいものがち勝ちだって思いがちなんだよ。全員がそうかなのかは、裏付けが取れないけど。リーダーがビシッと立っておけばいいんじゃない?」
「なるほど。親父から、お前に立ってほしいと言われたら立つのか?」
「もちろんだよ。門番として仁王立ちするよ」
「そうか……」
「なんで笑うんだよ~。あんたはラスボスでいればいいんだよ」
「俺が馬鹿だった。門番の役目を全うしてくれ。こんな答えが返ってくるとは思わなかった。お前から逃げてもいいか?」
「俺から逃げて、どうするんだよ~。追いかけてきたのは、あんたの方だろ?」
「……気の迷いだ」
「バカヤロー!トリャーー!」

 悠人の真似をしてケリを入れた。黒崎が笑いながら避けたから、今度はダイブしてやった。すると、いつもの要求を口にする前に抱かかえられた。黒崎の肩にすがりつくと、ふわっと体が軽くなった。

 湾に浮かんだ遊覧船と、対岸に建つビル群からの灯りが見える。遊歩道の小さな外灯もある。向こうに見えるのは、ライトアップされた大きな橋だ。クルクルと回るたびに景色が変化していく。目まぐるしくても、しっかりと抱きついているから平気だ。

「わあーー、いっけーー!」
「……目が回る」
「あんたが柱だよ。俺のことをブンブン振り回しているんだよ?」
「お前が振り回している」
「ううん、あんたが輪っかの中心だよ。俺が木馬。木馬が逃げたら、メリーゴーランドが止まるよ?バレンタインデーのイベントみたいに……」

 抱きついたままで地面を蹴った。強引に回転していると、黒崎がヤル気を出して馬鹿力を発揮した。その結果、2人でヨロけてしまい、そばの茂みに転がりそうになった。

「わーーい!」
「うるさい……」
「ふふん。……え?」
「向こうへ行くか」
「うん……」

 ここには先客がいたようだ。茂みの方に大きな木があり、その下でイチャついているカップルがいた。そして、聞き覚えのある声がして驚いた。悠人と早瀬さんの声だったからだ。聞いてはいけない。黒崎から肩を引かれて退散した。

「行くぞ……」
「うん……。わあーーー」

 小さな段差につまづいてしまった。慌てて口を閉じても間に合わず、2人に気づかれてしまった。悠人が慌てている。なるべく見ないようにして声をかけた。

「何も見ていないからね。気にしてないよ。じゃあね!」
「早く行くぞ……」

 黒崎から抱きかかえられるようにして、茂みから退散した。2人がいる方向からは、悠人が早瀨さんに怒っている声が聞こえている。ここで仲裁に行くと、ますます怒るだろう。聞かなかったふりをして、そそくさと歩道へ出た。

 夜空には満月が浮かんでいた。パンケーキみたいだねと呟くと、びよーんと頬をつねられた。お返しに耳たぶを引っ張ってやった。そして、今回は喧嘩をせずに手を繋ぎ合い、南の方向にある我が家へ出発した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

孤毒の解毒薬

紫月ゆえ
BL
友人なし、家族仲悪、自分の居場所に疑問を感じてる大学生が、同大学に在籍する真逆の陽キャ学生に出会い、彼の止まっていた時が動き始める―。 中学時代の出来事から人に心を閉ざしてしまい、常に一線をひくようになってしまった西条雪。そんな彼に話しかけてきたのは、いつも周りに人がいる人気者のような、いわゆる陽キャだ。雪とは一生交わることのない人だと思っていたが、彼はどこか違うような…。 不思議にももっと話してみたいと、あわよくば友達になってみたいと思うようになるのだが―。 【登場人物】 西条雪:ぼっち学生。人と関わることに抵抗を抱いている。無自覚だが、容姿はかなり整っている。 白銀奏斗:勉学、容姿、人望を兼ね備えた人気者。柔らかく穏やかな雰囲気をまとう。

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

人気アイドルグループのリーダーは、気苦労が絶えない

タタミ
BL
大人気5人組アイドルグループ・JETのリーダーである矢代頼は、気苦労が絶えない。 対メンバー、対事務所、対仕事の全てにおいて潤滑剤役を果たす日々を送る最中、矢代は人気2トップの御厨と立花が『仲が良い』では片付けられない距離感になっていることが気にかかり──

職業寵妃の薬膳茶

なか
BL
大国のむちゃぶりは小国には断れない。 俺は帝国に求められ、人質として輿入れすることになる。

不幸体質っすけど、大好きなボス達とずっと一緒にいられるよう頑張るっす!

タッター
BL
 ボスは悲しく一人閉じ込められていた俺を助け、たくさんの仲間達に出会わせてくれた俺の大切な人だ。 自分だけでなく、他者にまでその不幸を撒き散らすような体質を持つ厄病神な俺を、みんな側に置いてくれて仲間だと笑顔を向けてくれる。とても毎日が楽しい。ずっとずっとみんなと一緒にいたい。 ――だから俺はそれ以上を求めない。不幸は幸せが好きだから。この幸せが崩れてしまわないためにも。  そうやって俺は今日も仲間達――家族達の、そして大好きなボスの役に立てるように―― 「頑張るっす!! ……から置いてかないで下さいっす!! 寂しいっすよ!!」 「無理。邪魔」 「ガーン!」  とした日常の中で俺達は美少年君を助けた。 「……その子、生きてるっすか?」 「……ああ」 ◆◆◆ 溺愛攻め  × 明るいが不幸体質を持つが故に想いを受け入れることが怖く、役に立てなければ捨てられるかもと内心怯えている受け 完結しました。 たまに番外編更新予定です。

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

旦那様と僕

三冬月マヨ
BL
旦那様と奉公人(の、つもり)の、のんびりとした話。 縁側で日向ぼっこしながらお茶を飲む感じで、のほほんとして頂けたら幸いです。 本編完結済。 『向日葵の庭で』は、残酷と云うか、覚悟が必要かな? と思いまして注意喚起の為『※』を付けています。

処理中です...