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19-1 メニュー開発・佐伯兄弟
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5月10日、金曜日。午前0時半。
夜食づくりの手を止めて、キッチンの時計に視線を向けた。そろそろ黒崎が帰る頃だ。今夜は飲み会だ。帰るのは0時半ぐらいになりそうだと言っていた。ちゃんと電話を入れてくれている。
「るるるー。丸ごとぜんぶー、黒崎さんは俺のものーーオーイエーー」
湯豆腐の出汁が温まる間に歌った。マイクにしたのはうちわ4号だ。喧嘩をしたら5号目を作る予定だったのに、最近は言い合いをしなくなった。その分だけ、次は大きな喧嘩になると予想している。黒崎宛のメッセージカードの束を大事に保管して、うちわ作りの準備はできている。
「よーし。出来上がり~」
ダイニングテーブルへ土鍋を置いた。作り置きの筑前煮、厚焼き玉子、ほうれん草のゴマ和えも並べた。黒崎は会食では酒ばかり飲んでいる。お腹を空かせているのは毎度のことだ。昼ご飯で摂ったカロリーは、そう容易く彼の体を満たしきれない。今日は飲み会だから、何か食べただろうか。
「いちばんの栄養は俺かな……。ヒョーーッ、あつい!」
興奮して手元が狂ってしまった。土鍋のふちに指先が触れて熱かった。水道で洗い流して冷やしていると、外で物音がした。黒崎が帰宅したようだ。
「アン、パパが帰ってきたよー。ん?寝てるのか……」
アンがソファーで寝息を立てていた。いつもなら一目散に玄関へ向かうのに。リクと庭で走り回っていたから疲れているのだろう。起こさないように、そっと玄関へ向かった。
玄関へ行くと、黒崎が靴を脱いでいた。そして、ダイブして抱き付こうとして足をとめた。お酒くさいからだ。ここまで匂いがするのは久しぶりだ。しかも、酔っている。
「……夏樹、ただいま」
「おかえり、飲んできたねえ?」
「今夜は飲み会だったからな」
「会食とどういう違いがあるの?くっさーーい!」
「仕事の話をしないのが飲み会だ。会食はビジネスの話題が出る」
黒崎の背中を押してリビングへ連れて行った。毎度のことながら、豪快にスーツを脱ぎ始めた。酔っていない時は控えめだが、今日のような日は散乱する。スーツの上着、ズボン、ネクタイ、シャツが派手に散らばった。
「わああ……。あんなところに飛ばすなよ~」
「これも、これも、はあ、すっきりした」
「黒崎さん!下着まで脱ぐなよ!」
「いまさらだ。いいだろう」
「どこの親父だよ~っ」
笑い声を立てて抱きついてきた。黒崎の肩越しには、ダイニングの土鍋が見えている。湯気がモウモウと立っているから気になる。スイッチを切りたくて、黒崎の背中を叩いた。
「黒崎さーん。IHコンロのスイッチを切りたいから離れてよ。煮えすぎるよ」
「このまま行こう……」
「ええ?こら……」
俺のことを抱いたままで歩き始めた。しっかりと腕を回されているから離れることが出来ず、引きずられるようにして移動した。後ろが見えない状態で歩いているから怖い。
「黒崎さん~。怖いってば」
「俺がいるから怖くないぞ」
「かえって恐ろしいよ~」
「どういう意味だ?こんなに大事にしているのに」
「あんた、酔ってるだろ?よっと……」
IHコンロのスイッチを切った。まだ抱きつかれたままだ。離れようとしない。おまけに頬ずりまでされた。普段なら嬉しくても、今はちっとも有難くない。
「ヒゲがチクチクするんだよ~」
「さすがに伸びている時間だぞ。知っているだろう」
「頬っぺたを舐めるなよ。ドレッシングじゃないんだよ~」
「お前はハチミツだ。髪の色も似てきた。薄茶色の……」
「んん……」
酒くさい人から濃厚なキスを受け取った。すると、エスカレートした悪い手が、エプロンに忍び込んできた。こんなことをしていると先に進まない。黒崎は明日仕事だし、俺も初出勤という日を迎える。
それは、黒崎製菓での新メニュー開発チームへの参加だ。初日の今日は、メンバーとの顔合わせを兼ねたミーティングに参加する。お互いに早く寝た方がいい。黒崎の体を引きはがした。
「今日は初出勤なんだよ~。あと8時間後だよ」
「分かっている……」
「ナーバスになっているの?」
「そんなわけあるか。風呂に入ってくる」
「黒崎さん……」
どうやら当たりだったようだ。あれほどへばりついていたのに、あっさりと体を離したからだ。俺の頭を撫でた後、リビングを出て行こうとした。
これからお風呂に入るのだろう。さっさと入ってほしいが、このままの気持ちでいてほしくない。気持ちを浮上させてから、お風呂でリラックスしてもらいたい。
「黒崎さん。んーーー」
「酒くさいのは嫌なんだろう?」
「拗ねるなよ。んーー」
軽いキスをしてあげると、黒崎が笑い声を立てた。これで心置きなくバスルームへ連れて行ける。背中に両手を回して叩いた後、彼の策略にハマったことが分かった。
カウンターに体を押し付けて退路を阻み、濃厚なキスを仕掛けてきた。耳を舐めたり、首筋に軽く歯を立てたりされた。もう降参すると言うと、あっさり離してもらえた。せめてもの仕返しに、耳たぶを引っ張って、バスルームへ促した。
夜食づくりの手を止めて、キッチンの時計に視線を向けた。そろそろ黒崎が帰る頃だ。今夜は飲み会だ。帰るのは0時半ぐらいになりそうだと言っていた。ちゃんと電話を入れてくれている。
「るるるー。丸ごとぜんぶー、黒崎さんは俺のものーーオーイエーー」
湯豆腐の出汁が温まる間に歌った。マイクにしたのはうちわ4号だ。喧嘩をしたら5号目を作る予定だったのに、最近は言い合いをしなくなった。その分だけ、次は大きな喧嘩になると予想している。黒崎宛のメッセージカードの束を大事に保管して、うちわ作りの準備はできている。
「よーし。出来上がり~」
ダイニングテーブルへ土鍋を置いた。作り置きの筑前煮、厚焼き玉子、ほうれん草のゴマ和えも並べた。黒崎は会食では酒ばかり飲んでいる。お腹を空かせているのは毎度のことだ。昼ご飯で摂ったカロリーは、そう容易く彼の体を満たしきれない。今日は飲み会だから、何か食べただろうか。
「いちばんの栄養は俺かな……。ヒョーーッ、あつい!」
興奮して手元が狂ってしまった。土鍋のふちに指先が触れて熱かった。水道で洗い流して冷やしていると、外で物音がした。黒崎が帰宅したようだ。
「アン、パパが帰ってきたよー。ん?寝てるのか……」
アンがソファーで寝息を立てていた。いつもなら一目散に玄関へ向かうのに。リクと庭で走り回っていたから疲れているのだろう。起こさないように、そっと玄関へ向かった。
玄関へ行くと、黒崎が靴を脱いでいた。そして、ダイブして抱き付こうとして足をとめた。お酒くさいからだ。ここまで匂いがするのは久しぶりだ。しかも、酔っている。
「……夏樹、ただいま」
「おかえり、飲んできたねえ?」
「今夜は飲み会だったからな」
「会食とどういう違いがあるの?くっさーーい!」
「仕事の話をしないのが飲み会だ。会食はビジネスの話題が出る」
黒崎の背中を押してリビングへ連れて行った。毎度のことながら、豪快にスーツを脱ぎ始めた。酔っていない時は控えめだが、今日のような日は散乱する。スーツの上着、ズボン、ネクタイ、シャツが派手に散らばった。
「わああ……。あんなところに飛ばすなよ~」
「これも、これも、はあ、すっきりした」
「黒崎さん!下着まで脱ぐなよ!」
「いまさらだ。いいだろう」
「どこの親父だよ~っ」
笑い声を立てて抱きついてきた。黒崎の肩越しには、ダイニングの土鍋が見えている。湯気がモウモウと立っているから気になる。スイッチを切りたくて、黒崎の背中を叩いた。
「黒崎さーん。IHコンロのスイッチを切りたいから離れてよ。煮えすぎるよ」
「このまま行こう……」
「ええ?こら……」
俺のことを抱いたままで歩き始めた。しっかりと腕を回されているから離れることが出来ず、引きずられるようにして移動した。後ろが見えない状態で歩いているから怖い。
「黒崎さん~。怖いってば」
「俺がいるから怖くないぞ」
「かえって恐ろしいよ~」
「どういう意味だ?こんなに大事にしているのに」
「あんた、酔ってるだろ?よっと……」
IHコンロのスイッチを切った。まだ抱きつかれたままだ。離れようとしない。おまけに頬ずりまでされた。普段なら嬉しくても、今はちっとも有難くない。
「ヒゲがチクチクするんだよ~」
「さすがに伸びている時間だぞ。知っているだろう」
「頬っぺたを舐めるなよ。ドレッシングじゃないんだよ~」
「お前はハチミツだ。髪の色も似てきた。薄茶色の……」
「んん……」
酒くさい人から濃厚なキスを受け取った。すると、エスカレートした悪い手が、エプロンに忍び込んできた。こんなことをしていると先に進まない。黒崎は明日仕事だし、俺も初出勤という日を迎える。
それは、黒崎製菓での新メニュー開発チームへの参加だ。初日の今日は、メンバーとの顔合わせを兼ねたミーティングに参加する。お互いに早く寝た方がいい。黒崎の体を引きはがした。
「今日は初出勤なんだよ~。あと8時間後だよ」
「分かっている……」
「ナーバスになっているの?」
「そんなわけあるか。風呂に入ってくる」
「黒崎さん……」
どうやら当たりだったようだ。あれほどへばりついていたのに、あっさりと体を離したからだ。俺の頭を撫でた後、リビングを出て行こうとした。
これからお風呂に入るのだろう。さっさと入ってほしいが、このままの気持ちでいてほしくない。気持ちを浮上させてから、お風呂でリラックスしてもらいたい。
「黒崎さん。んーーー」
「酒くさいのは嫌なんだろう?」
「拗ねるなよ。んーー」
軽いキスをしてあげると、黒崎が笑い声を立てた。これで心置きなくバスルームへ連れて行ける。背中に両手を回して叩いた後、彼の策略にハマったことが分かった。
カウンターに体を押し付けて退路を阻み、濃厚なキスを仕掛けてきた。耳を舐めたり、首筋に軽く歯を立てたりされた。もう降参すると言うと、あっさり離してもらえた。せめてもの仕返しに、耳たぶを引っ張って、バスルームへ促した。
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