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12時。
シャルロットキッチンで昼ご飯を食べている。黒崎から連絡があり、30分後に来ると言っていた。それまでの間、理久が付き合ってくれている。
レタスとハムのサンドイッチを食べていると、理久が具材を観察し始めた。食べ物で遊んでいなくて、本気で観察している。ハムの厚さ、レタスの水分量、食感などをメモしている。
「理久はメカが好きだよね。どうしてメモはアナログなの?」
「書く方が早いからだよ。必要なら画像に残して保存するんだ」
「なるほど。研究者タイプだねえ……」
森本や聡太郎も同じことを言っていた。アナログな方法で観察する時は、アナログな方法で記録を取るのが便利だと。さらに、パンを折りたたんで食べ始めた。水分量を知るためだという。
「こっちの方が瑞々しいねー」
「話しかけても平気?」
「うん。うんうん……うん……」
「うんうん……」
話しかけない方がいいだろう。きっと右から左へ突き抜けていく。これには自分も覚えがある。このサラダのドレッシングが美味しい。りんごペーストを使っているはずだ。そう思いながら自分でも作ってみたいと思っていると、理久が顔を上げた。屈託のない笑顔を浮かべている。
「いいアイデアが浮かんだ?」
「ううん。お兄ちゃんから聞いたよ。バンドメンバーになるんだよね?」
「知ってたんだね?」
「うん。正式発表は先だって聞いたよ。もう練習を始めるんだよね?」
「そうなんだよ。今月末に佐久弥と打ち合わせに入るんだ。ボーカルレッスンを続けているよ」
悠人は佐久弥とよく会っているそうだ。スケジュールが急に空いたときに連絡が入り、俺とはタイミングが合わなくて、なかなか会えない。二月の音合わせの時が最後だ。ざっくばらんな人だと分かったが、こんなに日が経つと、初対面のように感じるかもしれない。早く会いたい。それを理久に言うと、それはそうだねと言って頷いてくれた。
「今日、お兄ちゃんと会わない?」
「忙しいだろー?無理は……」
「無理じゃないよ。ご飯を食べているよって連絡したら、合流したいって。ほら……」
「ええ?」
理久から佐久弥から入ったラインを見せてもらった。“今から合流する。夏樹君と話したいから”というメッセージが入っている。心の準備が出来ていないから、ビックリした。
「お願いだってさーー。俺からもお願い!」
「もちろんOKだよ!でもね、心の準備ができないよ~。うっうっ」
「泣かなくていいよー。そんなに大した人じゃないし」
「それはないだろー」
「あ、お兄ちゃーん!こっちだよーー」
「ええ?」
すると、パーカーのフードを被った男性が、こっちに手を振りながら歩いてきた。そして、俺たちのテーブルまでやって来ると、にこっと笑った気配がした。佐久弥だった。
「こんにちはーー。久しぶりだな!」
「こんにちは!」
「座ってもいい?」
「もちろんだよ。どうぞ……」
「……ごめんね。レコーディングに時間がかかって、こんな顔だよ」
理久の隣に佐久弥が座った。そして、被っているフードを取って、メニューを見始めた。いかにも寝起きという顔をしている。まぶたが腫れぼったくて、全体的にぼーっとしている。笑った顔が理久と似ている。
「……アメリカン珈琲とプレーンマフィンを」
「……かしこまりました」
店員さんへオーダーを済ませた後、佐久弥が椅子の背にもたれかかった。そして、首をコキコキと鳴らして、大あくびをした。コンテストで会った時と同じ雰囲気だから、ホッとした。どうしても、ディアドロップでの近寄りがたいイメージが先に思い浮かぶ。
「はあ。やっと落ち着いたーー。急にごめんね?近くにいたから」
「気にしないでください。会いたかったので」
「こーら。敬語はやめてくれ。コンテストの日に決めただろ?俺のことも呼び捨てにしてくれ」
「でも……」
「どうしたんだー?君らしくないなー?」
佐久弥が顔を覗きこんできた。そして、笑った。彼はよく笑うそうだ。冗談も言うし、元気なタイプだと聞いた。悠人からそう聞かされても、先に付いているイメージが抜けない。しかし、教えてもらった通りの光景が目の前にあり、理久のことを嫌がらせて笑っている。これも悠人から聞いたとおりだ。
「お兄ちゃん。やめてよーー」
「なんだー?食べ物で遊ぶな。ちゃんと食べろ」
「それはおしぼりだって」
「豆腐かと思った。それが美味そうだー。お兄ちゃんがもらう」
「それはとっておきのポテト……」
「ひゅまい……。んんーー」
佐久弥が理久を苛めている。オシボリで顔を拭き、ポテトを奪い取って食べている。そして、家の中にいるような寝起き状態で、弟のことをからかって遊んでいる。まるで伊吹のように見えてホッとした。
「リラックスできたのかー?そのサンドイッチも美味そうだ。同じ物を頼むよ。すみませーーん」
「はい!おうかがいします」
「10品目の野菜サンドをお願いします。ミネストローネスープ、チキン3本、2人にはマスカットゼリーを」
「かしこまりました」
「あの。佐久弥……、あ、ごめん」
「敬語はナシだぞーー。……どうぞ気にしないで下さいねー」
周りにいるお客さんが、彼が佐久弥だと気づいた様子だ。本人が笑うと、周りの人が俺達の方を向いた。佐久弥だと囁き合っているグループがいる。佐久弥が女性たちに軽く手を振って会釈をした。応援していますという声には、ありがとうございますと、いかにも大人といった感じで答えている。
シャルロットキッチンで昼ご飯を食べている。黒崎から連絡があり、30分後に来ると言っていた。それまでの間、理久が付き合ってくれている。
レタスとハムのサンドイッチを食べていると、理久が具材を観察し始めた。食べ物で遊んでいなくて、本気で観察している。ハムの厚さ、レタスの水分量、食感などをメモしている。
「理久はメカが好きだよね。どうしてメモはアナログなの?」
「書く方が早いからだよ。必要なら画像に残して保存するんだ」
「なるほど。研究者タイプだねえ……」
森本や聡太郎も同じことを言っていた。アナログな方法で観察する時は、アナログな方法で記録を取るのが便利だと。さらに、パンを折りたたんで食べ始めた。水分量を知るためだという。
「こっちの方が瑞々しいねー」
「話しかけても平気?」
「うん。うんうん……うん……」
「うんうん……」
話しかけない方がいいだろう。きっと右から左へ突き抜けていく。これには自分も覚えがある。このサラダのドレッシングが美味しい。りんごペーストを使っているはずだ。そう思いながら自分でも作ってみたいと思っていると、理久が顔を上げた。屈託のない笑顔を浮かべている。
「いいアイデアが浮かんだ?」
「ううん。お兄ちゃんから聞いたよ。バンドメンバーになるんだよね?」
「知ってたんだね?」
「うん。正式発表は先だって聞いたよ。もう練習を始めるんだよね?」
「そうなんだよ。今月末に佐久弥と打ち合わせに入るんだ。ボーカルレッスンを続けているよ」
悠人は佐久弥とよく会っているそうだ。スケジュールが急に空いたときに連絡が入り、俺とはタイミングが合わなくて、なかなか会えない。二月の音合わせの時が最後だ。ざっくばらんな人だと分かったが、こんなに日が経つと、初対面のように感じるかもしれない。早く会いたい。それを理久に言うと、それはそうだねと言って頷いてくれた。
「今日、お兄ちゃんと会わない?」
「忙しいだろー?無理は……」
「無理じゃないよ。ご飯を食べているよって連絡したら、合流したいって。ほら……」
「ええ?」
理久から佐久弥から入ったラインを見せてもらった。“今から合流する。夏樹君と話したいから”というメッセージが入っている。心の準備が出来ていないから、ビックリした。
「お願いだってさーー。俺からもお願い!」
「もちろんOKだよ!でもね、心の準備ができないよ~。うっうっ」
「泣かなくていいよー。そんなに大した人じゃないし」
「それはないだろー」
「あ、お兄ちゃーん!こっちだよーー」
「ええ?」
すると、パーカーのフードを被った男性が、こっちに手を振りながら歩いてきた。そして、俺たちのテーブルまでやって来ると、にこっと笑った気配がした。佐久弥だった。
「こんにちはーー。久しぶりだな!」
「こんにちは!」
「座ってもいい?」
「もちろんだよ。どうぞ……」
「……ごめんね。レコーディングに時間がかかって、こんな顔だよ」
理久の隣に佐久弥が座った。そして、被っているフードを取って、メニューを見始めた。いかにも寝起きという顔をしている。まぶたが腫れぼったくて、全体的にぼーっとしている。笑った顔が理久と似ている。
「……アメリカン珈琲とプレーンマフィンを」
「……かしこまりました」
店員さんへオーダーを済ませた後、佐久弥が椅子の背にもたれかかった。そして、首をコキコキと鳴らして、大あくびをした。コンテストで会った時と同じ雰囲気だから、ホッとした。どうしても、ディアドロップでの近寄りがたいイメージが先に思い浮かぶ。
「はあ。やっと落ち着いたーー。急にごめんね?近くにいたから」
「気にしないでください。会いたかったので」
「こーら。敬語はやめてくれ。コンテストの日に決めただろ?俺のことも呼び捨てにしてくれ」
「でも……」
「どうしたんだー?君らしくないなー?」
佐久弥が顔を覗きこんできた。そして、笑った。彼はよく笑うそうだ。冗談も言うし、元気なタイプだと聞いた。悠人からそう聞かされても、先に付いているイメージが抜けない。しかし、教えてもらった通りの光景が目の前にあり、理久のことを嫌がらせて笑っている。これも悠人から聞いたとおりだ。
「お兄ちゃん。やめてよーー」
「なんだー?食べ物で遊ぶな。ちゃんと食べろ」
「それはおしぼりだって」
「豆腐かと思った。それが美味そうだー。お兄ちゃんがもらう」
「それはとっておきのポテト……」
「ひゅまい……。んんーー」
佐久弥が理久を苛めている。オシボリで顔を拭き、ポテトを奪い取って食べている。そして、家の中にいるような寝起き状態で、弟のことをからかって遊んでいる。まるで伊吹のように見えてホッとした。
「リラックスできたのかー?そのサンドイッチも美味そうだ。同じ物を頼むよ。すみませーーん」
「はい!おうかがいします」
「10品目の野菜サンドをお願いします。ミネストローネスープ、チキン3本、2人にはマスカットゼリーを」
「かしこまりました」
「あの。佐久弥……、あ、ごめん」
「敬語はナシだぞーー。……どうぞ気にしないで下さいねー」
周りにいるお客さんが、彼が佐久弥だと気づいた様子だ。本人が笑うと、周りの人が俺達の方を向いた。佐久弥だと囁き合っているグループがいる。佐久弥が女性たちに軽く手を振って会釈をした。応援していますという声には、ありがとうございますと、いかにも大人といった感じで答えている。
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