夏椿の天使~あの日に出会った旋律

夏目奈緖

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 ……黒崎と申します。
 ……如月です。……佐伯です。

 自己紹介を兼ねてのミーティングに参加中だ。今回のチームメンバーは6名だ。女の子が一人しかいない。本人が心細いのではと心配している。大学で女の子との会話のコツをつかんだから、積極的に話しかけようと決めた。

 枝川さんが司会進行役をしている。今回のリーダーであり、サブは平田さんだと説明を受けた。何かあれば二人に相談することと、注意事項も聞いた。

「資料はメールで送信します。プラン提出も同様に願います。……誰が、どういう意図で、いつ発信した情報なのか注意が必要です。必ず日付と氏名を記録してください。……個人間でのやり取りは禁止します。オフィスのミーティングで行っていただきます」
「……はい」
「……はい」

 配られた資料に目を通した後、テキパキと説明されていく。8月末にはメニューが出来ているという計画だ。そして、それを構成する段階は、10月末で終了だ。今回の課題を各自で考えてアイデアを出し、平田さん宛にメールで提出することになった。2週間後に次のミーティングがある。

「ミーティングを終了します。お疲れ様でした」
「お疲れ様でしたーー」

 挨拶をかわし合って席を立った。メンバー達とは同じ大学生だし、好きな分野が同じだから、打ち解けるのが早かった。

 まだ11時半だ。黒崎は仕事中だ。帰る時には声を掛けろと言われたものの、役員室のデスクで数人と話している。とても声はかけられない。

(どうしようかな……)

 ミーティング室のそばに立っている。ここにいても邪魔になるからと出ようとすると、社員さんと話している如月が手を振ってきた。それに応えていると、理久が隣に来た。

「理久君。トイレに行っていたの?」
「……そうだよ。黒崎君こそ、どうしたのー?」
「黒崎さんに声をかけて帰りたいけど、話をしているからさ。様子を見ているんだよ……」
「そうなんだー?」

 理久が黒崎のデスクの方を見た。メンバーが別の場所にバラけ始めている。話が終わったのかな?そう思いながら見ていると、理久が早足で役員室へ向かった。そして、大きく手を振って、黒崎のことを呼び始めた。

「黒崎常務ーー。黒崎君がーー」
「わああ~。あんな大声で……」
「じょーーむーー!」
「理久君。いいから……」
「このタイミングを逃したら、いつまでも同じだよ?話せないなら、そう言ってくれるからね」
「そっか……」

 それはそうだと納得していると、さっと手を引かれて、役員室に連れて行かれた。社員さんから笑われている。可愛いという言葉までもらったので、顔が熱くなった。

 おずおおずと役員室へ到着した。黒崎が意地悪そうに笑っている。理久は意に返していない様子だ。深く考えない性格だと本人が言っているが、堂々としているということだ。彼は物怖じせずに言いたいことを口にする。それに引き換え、俺の方はモジモジして恥ずかしい。すると、黒崎がそばにやって来た。

「……黒崎君。佐伯君。おつかれさま」
「お疲れ様です!常務と話したいそうです」
「ありがとう。見ての通り、この子は引っ込み思案なところがある。どうか引っ張ってやってほしい」
「はい。僕で良かったら」
「……黒崎君。後で連絡をするから、シャルロットキッチンで待っていてくれ」
「はい、分かりました」

 俺が頷くと、理久が笑った。良いことを考えたそうだ。

「黒崎君!一緒に待っているよ。寂しいよね?」
「理久君、いいから……」
「……佐伯君、助かるよ。この子は一人にすると危なっかしい」
「はい。失礼しまーす。ほら、行くよー!」
「わああ~~」

 理久から強引に手を引かれた。社員さんが笑いながら手を振ってくれたけれど、とても応える余裕はない。せめて笑顔だけでも浮かべた。

 理久は堂々と手を振り返して歩いている。オフィスを出るときには、ありがとうございました、失礼します!と大きな声で言った。それを聞いた人達から、ドッと笑い声が立った。
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