夏椿の天使~あの日に出会った旋律

夏目奈緖

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 ガーー、ガチャン!

 ありがとうございましたと言い、ドライバーさんから宅配便を受け取った。定期購読を申し込んでいる絵本の会社からの物だ。今月から取り始めた。

 さっそくリビングに持って行き、段ボール箱を開けた。入っていたのは2冊の絵本だ。パンフレットと、申し込み初回限定の色鉛筆セットもある。昔からあるメーカーの人気商品だ。

「今月は……。マリー・ルイーズだ!」

 好きな絵本作家のひとりで、原画展にも行ったことがある。ヨーロッパで人気が高く、日本で取り扱っていない作品が多い。海外作品コースを申し込んだから、お目にかかれないものが多そうで期待している。

 一旦読みだすと時間を忘れてしまう。寝る前にしよう。パンプレットを整理していると、ある見出しに目が留まった。絵本のストーリー公募が始まったようだ。

「……あなたの作品を読んでもらいませんか?……へえー。出してみようかな?」

 絵本好きが高じて、絵本向けのストーリーを書いている。もう10作品ある。黒崎が2作品にイラストを描いてくれた。うちの家族にしか見せていない。

「応募のフォーマットは……。イラストは?なるほど……」

 これも寝る前にチェックしよう。段ボールを解体していると、アンがプチプチシートを咥えて走って行った。走るだけならいいが、ボロボロにして散らかしてしまう。油断してしまった。

 すばしっこいアンを追いかけるのは大変だ。アンがテーブルの下へ隠れた後、足の間をすり抜けて廊下へ出た。そして、カチャカチャと爪の音を立てて走って行く。その後を追いかけると、玄関のスリッパ立てにぶつかって倒された。洗面所のマットも落ちている。そして、プチプチシートを破って、その辺に落としていった。

「アンー、やめてよーー」
「……」
「いっぱい遊んだだろー?」
「……」

 追いかけごっこと認識しているようだ。これ以上やらないほうがいい。

 もう諦めてキッチンに入った。すると、アンがシートを咥えたままで見上げてきた。手を伸ばせば奪い取れる距離だ。そっと手を伸ばすと、尻尾を振って後ずさりをした。さらに距離を詰めると、テーブルの下に隠れた。

「遊ばないからねー?これから晩ご飯の支度をするから」

 すでに散らかっている。まとめて掃除しよう。そう思い直して、カウンターへ食材を置いた。リクエストの九条ネギの酢味噌和えのこと思い出し、そのネギが手元にないことに気づいた。収穫はしている。

「あれ?九条ネギがないなあ……。忘れてきたんだ……」

 宅急便が来たから忘れていた。荷物を受け取った時には持っていた。リビングには見当たらない。廊下にも落ちていない。

「……外かなあ?」

 ガチャ。玄関ドアを開けて、周辺をキョロキョロと眺めたが、ネギの姿は見当たらない。諦めて靴を履いて外に出た。 

 後ろからアンも出てきた。例のシートは放置しているようだ。歩いてきたルートを辿っていくと、門へ向かう小道の間に、グリーンの細長いものがあるのを見つけた。間違いなく九条ネギだろう。

「あったあった、よかった~」

 ネギを拾い上げた後、玄関へと踵を返した。そして、左側へバランスを崩してしまった。

「わあ~っ」

 悲鳴をあげたところで遅かった。そばにある溝に左足を突っ込んだ。草の上に尻もちをついたから、大したことはない。さっさと立ち上ろうとすると、アンが門の外へ向かって吼えた。

「ワン!ワン!ワン!」
「大丈夫だよ……。ほらね?ネギも」

 寝転がって腕を伸ばしていると、門の側から声をかけられた。

「夏樹君!大丈夫!?すぐに行くわよ!」
「大変……」
「大丈夫です!転んだだけ……」

 その声の主は佳代子さんと山崎さんだった。ちょうど門の外にいたようで、慌てて助けに来てくれた。アンからは頬を舐められて、そのお返しに、彼女のモコモコの毛並みを撫でた。俺達はいいコンビだ。バタバタやって助け合い、黒崎のことを取り合いしている。

 すると、佳代子さんたちの他にも人が集まってきた。真っ赤な顔になりつつお礼を言うと、心配そうにされてしまった。
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