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2組のカップルが羨ましくなり、黒崎の隣に座った。しかし、そっぽを向いて相手をしてくれない素振りだ。だから顔を覗き込んでアピールをした。
「黒崎さーんっ」
「美味い饅頭だ」
「食べさせてよ~」
「……自分で食べろ」
「アーーーン」
「……バカヤロウ」
「いひゃーーっ」
大きな口を開けると、舌先をつまんで引っ張られてしまった。しかし、すぐに離してもらえて、ズルズルと移動して距離を取った。家と外での態度に差がありすぎる。素っ気ないうえに、意地悪度が増している状態だ。面白くないから、悠人のところへ行った。俺の頭を撫でてくれた。
「よしよしー」
「ゆうとー。優しい人はいいねえ」
「黒崎さんは優しいだろ?」
「時と場合による……」
「はいはい。これでも食べて機嫌を直しなよ!」
「美味しいね~」
ここの近くにあるカフェの焼き菓子をもらった。そして、恨みがましく黒崎のことを見つめた。
悠人が追加の飲み物をリビングへ運んだ。その様子を眺めていると、早瀬さんが悠人のことを感心していた。いつもとは違うそうだ。
「いつもあんな感じだろ?テキパキと……」
「普段よりも素早い。かっこいいところを見せたいそうだ」
「黒崎さんにもそうなってもらいたいよ。そうだー、洗剤を持ってきたんだ」
「ありがとう。楽しみにしていた」
洗剤が入っている紙袋をリビングに置いてある。取りに行こうとすると、先に黒崎が立ち上がった。わりと重さがあるからだという。俺の下唇を引っ張るくせに、俺には重い荷物を持たせたくない人だ。早瀬さんが笑っているのに、黒崎は平然としている。
「はははー。圭一さんはドン引きされてもオッケーだからね。さあ、洗剤を見ようか。……過去も流せるシリーズだね。うちでは『黒歴史』を使っているよ」
「新商品を使ったら良かったから、持ってきたんだ」
「面白い商品名だね。食器洗い洗剤が……『学生時代』か。さっそく使ってみる」
スポンジに洗剤液をつけると、甘酸っぱいラズベリーの匂いがした。そんなに強く香らない。悠人がそばに立って匂いを嗅いだ。
「ラズベリーの匂いだね。甘酸っぱいよ」
「なるほど。だから学生時代なのか」
「『女の影』っていう洗剤もあるんだよ。黒崎さんの過去もね。ザザーー」
「……おい。聞こえだぞ」
「聞き流してよ~」
思い切り唇を尖らせて言い返してやった。黒崎は蔵之介さん達と話しているから、攻撃される心配がない。
悠人は匂いフェチな面があるから、こういう系統の洗剤が好きなはずだ。興味深そうに全てのキャップを開けて、鼻をピクピクさせている。しかし、ある洗剤の匂いで顔をしかめた。樹木系の匂いがする『あの人』という洗剤だ。
「なつきー、これは苦手だよ」
「好みが分かれるんだよ。成分の優しさがウリなんだ」
「……どんな匂いだ?」
早瀬さんが洗剤を受け取り、鼻を近づけた。とくに嫌な匂いではないという。好きでもないし、嫌いでもないといったところだ。
「悠人君。これは濃縮されているからだよ。使えば大して分からない」
「この洗剤の熱烈なファンがいるんだよ」
「なるほど。湿布の匂いに似ているからだろう」
「そうだよ。あえて口にしなかったんだ。黒崎さんが怒るから。おじさんの匂いに似ていると思わない?」
「たしかに似ている。はははー」
「哀愁が漂う寂しそうな背中に、インスパイヤされた商品なんだよ。……これはね。こういうストーリー仕立てなんだ。年上の人に憧れて好きになったけど、数年後に『何であの人のことを好きになったんだろう?』って振り返る話だよ。そういう思いが込められているわけだよ」
「ふむふむ。すでに終わった恋だよね?俺と裕理さんも。あああーー」
悠人が肩を落とした。早瀨さんとのことを心配しているのだろうか。それとも、早瀨さんと佐久弥のことを気にしているのだろうか。俺がいくら諭しても気休めでしかない。早瀬さんにお任せしよう。そう思って早瀨さんに声をかけようとすると、悠人のことを笑いながら抱きしめていた。そのアツアツぶりに当てられて、顔から湯気が出そうだ。
「黒崎さーんっ」
「美味い饅頭だ」
「食べさせてよ~」
「……自分で食べろ」
「アーーーン」
「……バカヤロウ」
「いひゃーーっ」
大きな口を開けると、舌先をつまんで引っ張られてしまった。しかし、すぐに離してもらえて、ズルズルと移動して距離を取った。家と外での態度に差がありすぎる。素っ気ないうえに、意地悪度が増している状態だ。面白くないから、悠人のところへ行った。俺の頭を撫でてくれた。
「よしよしー」
「ゆうとー。優しい人はいいねえ」
「黒崎さんは優しいだろ?」
「時と場合による……」
「はいはい。これでも食べて機嫌を直しなよ!」
「美味しいね~」
ここの近くにあるカフェの焼き菓子をもらった。そして、恨みがましく黒崎のことを見つめた。
悠人が追加の飲み物をリビングへ運んだ。その様子を眺めていると、早瀬さんが悠人のことを感心していた。いつもとは違うそうだ。
「いつもあんな感じだろ?テキパキと……」
「普段よりも素早い。かっこいいところを見せたいそうだ」
「黒崎さんにもそうなってもらいたいよ。そうだー、洗剤を持ってきたんだ」
「ありがとう。楽しみにしていた」
洗剤が入っている紙袋をリビングに置いてある。取りに行こうとすると、先に黒崎が立ち上がった。わりと重さがあるからだという。俺の下唇を引っ張るくせに、俺には重い荷物を持たせたくない人だ。早瀬さんが笑っているのに、黒崎は平然としている。
「はははー。圭一さんはドン引きされてもオッケーだからね。さあ、洗剤を見ようか。……過去も流せるシリーズだね。うちでは『黒歴史』を使っているよ」
「新商品を使ったら良かったから、持ってきたんだ」
「面白い商品名だね。食器洗い洗剤が……『学生時代』か。さっそく使ってみる」
スポンジに洗剤液をつけると、甘酸っぱいラズベリーの匂いがした。そんなに強く香らない。悠人がそばに立って匂いを嗅いだ。
「ラズベリーの匂いだね。甘酸っぱいよ」
「なるほど。だから学生時代なのか」
「『女の影』っていう洗剤もあるんだよ。黒崎さんの過去もね。ザザーー」
「……おい。聞こえだぞ」
「聞き流してよ~」
思い切り唇を尖らせて言い返してやった。黒崎は蔵之介さん達と話しているから、攻撃される心配がない。
悠人は匂いフェチな面があるから、こういう系統の洗剤が好きなはずだ。興味深そうに全てのキャップを開けて、鼻をピクピクさせている。しかし、ある洗剤の匂いで顔をしかめた。樹木系の匂いがする『あの人』という洗剤だ。
「なつきー、これは苦手だよ」
「好みが分かれるんだよ。成分の優しさがウリなんだ」
「……どんな匂いだ?」
早瀬さんが洗剤を受け取り、鼻を近づけた。とくに嫌な匂いではないという。好きでもないし、嫌いでもないといったところだ。
「悠人君。これは濃縮されているからだよ。使えば大して分からない」
「この洗剤の熱烈なファンがいるんだよ」
「なるほど。湿布の匂いに似ているからだろう」
「そうだよ。あえて口にしなかったんだ。黒崎さんが怒るから。おじさんの匂いに似ていると思わない?」
「たしかに似ている。はははー」
「哀愁が漂う寂しそうな背中に、インスパイヤされた商品なんだよ。……これはね。こういうストーリー仕立てなんだ。年上の人に憧れて好きになったけど、数年後に『何であの人のことを好きになったんだろう?』って振り返る話だよ。そういう思いが込められているわけだよ」
「ふむふむ。すでに終わった恋だよね?俺と裕理さんも。あああーー」
悠人が肩を落とした。早瀨さんとのことを心配しているのだろうか。それとも、早瀨さんと佐久弥のことを気にしているのだろうか。俺がいくら諭しても気休めでしかない。早瀬さんにお任せしよう。そう思って早瀨さんに声をかけようとすると、悠人のことを笑いながら抱きしめていた。そのアツアツぶりに当てられて、顔から湯気が出そうだ。
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