253 / 348
21-4
しおりを挟む
2組のカップルが羨ましくなり、黒崎の隣に座った。しかし、そっぽを向いて相手をしてくれない素振りだ。だから顔を覗き込んでアピールをした。
「黒崎さーんっ」
「美味い饅頭だ」
「食べさせてよ~」
「……自分で食べろ」
「アーーーン」
「……バカヤロウ」
「いひゃーーっ」
大きな口を開けると、舌先をつまんで引っ張られてしまった。しかし、すぐに離してもらえて、ズルズルと移動して距離を取った。家と外での態度に差がありすぎる。素っ気ないうえに、意地悪度が増している状態だ。面白くないから、悠人のところへ行った。俺の頭を撫でてくれた。
「よしよしー」
「ゆうとー。優しい人はいいねえ」
「黒崎さんは優しいだろ?」
「時と場合による……」
「はいはい。これでも食べて機嫌を直しなよ!」
「美味しいね~」
ここの近くにあるカフェの焼き菓子をもらった。そして、恨みがましく黒崎のことを見つめた。
悠人が追加の飲み物をリビングへ運んだ。その様子を眺めていると、早瀬さんが悠人のことを感心していた。いつもとは違うそうだ。
「いつもあんな感じだろ?テキパキと……」
「普段よりも素早い。かっこいいところを見せたいそうだ」
「黒崎さんにもそうなってもらいたいよ。そうだー、洗剤を持ってきたんだ」
「ありがとう。楽しみにしていた」
洗剤が入っている紙袋をリビングに置いてある。取りに行こうとすると、先に黒崎が立ち上がった。わりと重さがあるからだという。俺の下唇を引っ張るくせに、俺には重い荷物を持たせたくない人だ。早瀬さんが笑っているのに、黒崎は平然としている。
「はははー。圭一さんはドン引きされてもオッケーだからね。さあ、洗剤を見ようか。……過去も流せるシリーズだね。うちでは『黒歴史』を使っているよ」
「新商品を使ったら良かったから、持ってきたんだ」
「面白い商品名だね。食器洗い洗剤が……『学生時代』か。さっそく使ってみる」
スポンジに洗剤液をつけると、甘酸っぱいラズベリーの匂いがした。そんなに強く香らない。悠人がそばに立って匂いを嗅いだ。
「ラズベリーの匂いだね。甘酸っぱいよ」
「なるほど。だから学生時代なのか」
「『女の影』っていう洗剤もあるんだよ。黒崎さんの過去もね。ザザーー」
「……おい。聞こえだぞ」
「聞き流してよ~」
思い切り唇を尖らせて言い返してやった。黒崎は蔵之介さん達と話しているから、攻撃される心配がない。
悠人は匂いフェチな面があるから、こういう系統の洗剤が好きなはずだ。興味深そうに全てのキャップを開けて、鼻をピクピクさせている。しかし、ある洗剤の匂いで顔をしかめた。樹木系の匂いがする『あの人』という洗剤だ。
「なつきー、これは苦手だよ」
「好みが分かれるんだよ。成分の優しさがウリなんだ」
「……どんな匂いだ?」
早瀬さんが洗剤を受け取り、鼻を近づけた。とくに嫌な匂いではないという。好きでもないし、嫌いでもないといったところだ。
「悠人君。これは濃縮されているからだよ。使えば大して分からない」
「この洗剤の熱烈なファンがいるんだよ」
「なるほど。湿布の匂いに似ているからだろう」
「そうだよ。あえて口にしなかったんだ。黒崎さんが怒るから。おじさんの匂いに似ていると思わない?」
「たしかに似ている。はははー」
「哀愁が漂う寂しそうな背中に、インスパイヤされた商品なんだよ。……これはね。こういうストーリー仕立てなんだ。年上の人に憧れて好きになったけど、数年後に『何であの人のことを好きになったんだろう?』って振り返る話だよ。そういう思いが込められているわけだよ」
「ふむふむ。すでに終わった恋だよね?俺と裕理さんも。あああーー」
悠人が肩を落とした。早瀨さんとのことを心配しているのだろうか。それとも、早瀨さんと佐久弥のことを気にしているのだろうか。俺がいくら諭しても気休めでしかない。早瀬さんにお任せしよう。そう思って早瀨さんに声をかけようとすると、悠人のことを笑いながら抱きしめていた。そのアツアツぶりに当てられて、顔から湯気が出そうだ。
「黒崎さーんっ」
「美味い饅頭だ」
「食べさせてよ~」
「……自分で食べろ」
「アーーーン」
「……バカヤロウ」
「いひゃーーっ」
大きな口を開けると、舌先をつまんで引っ張られてしまった。しかし、すぐに離してもらえて、ズルズルと移動して距離を取った。家と外での態度に差がありすぎる。素っ気ないうえに、意地悪度が増している状態だ。面白くないから、悠人のところへ行った。俺の頭を撫でてくれた。
「よしよしー」
「ゆうとー。優しい人はいいねえ」
「黒崎さんは優しいだろ?」
「時と場合による……」
「はいはい。これでも食べて機嫌を直しなよ!」
「美味しいね~」
ここの近くにあるカフェの焼き菓子をもらった。そして、恨みがましく黒崎のことを見つめた。
悠人が追加の飲み物をリビングへ運んだ。その様子を眺めていると、早瀬さんが悠人のことを感心していた。いつもとは違うそうだ。
「いつもあんな感じだろ?テキパキと……」
「普段よりも素早い。かっこいいところを見せたいそうだ」
「黒崎さんにもそうなってもらいたいよ。そうだー、洗剤を持ってきたんだ」
「ありがとう。楽しみにしていた」
洗剤が入っている紙袋をリビングに置いてある。取りに行こうとすると、先に黒崎が立ち上がった。わりと重さがあるからだという。俺の下唇を引っ張るくせに、俺には重い荷物を持たせたくない人だ。早瀬さんが笑っているのに、黒崎は平然としている。
「はははー。圭一さんはドン引きされてもオッケーだからね。さあ、洗剤を見ようか。……過去も流せるシリーズだね。うちでは『黒歴史』を使っているよ」
「新商品を使ったら良かったから、持ってきたんだ」
「面白い商品名だね。食器洗い洗剤が……『学生時代』か。さっそく使ってみる」
スポンジに洗剤液をつけると、甘酸っぱいラズベリーの匂いがした。そんなに強く香らない。悠人がそばに立って匂いを嗅いだ。
「ラズベリーの匂いだね。甘酸っぱいよ」
「なるほど。だから学生時代なのか」
「『女の影』っていう洗剤もあるんだよ。黒崎さんの過去もね。ザザーー」
「……おい。聞こえだぞ」
「聞き流してよ~」
思い切り唇を尖らせて言い返してやった。黒崎は蔵之介さん達と話しているから、攻撃される心配がない。
悠人は匂いフェチな面があるから、こういう系統の洗剤が好きなはずだ。興味深そうに全てのキャップを開けて、鼻をピクピクさせている。しかし、ある洗剤の匂いで顔をしかめた。樹木系の匂いがする『あの人』という洗剤だ。
「なつきー、これは苦手だよ」
「好みが分かれるんだよ。成分の優しさがウリなんだ」
「……どんな匂いだ?」
早瀬さんが洗剤を受け取り、鼻を近づけた。とくに嫌な匂いではないという。好きでもないし、嫌いでもないといったところだ。
「悠人君。これは濃縮されているからだよ。使えば大して分からない」
「この洗剤の熱烈なファンがいるんだよ」
「なるほど。湿布の匂いに似ているからだろう」
「そうだよ。あえて口にしなかったんだ。黒崎さんが怒るから。おじさんの匂いに似ていると思わない?」
「たしかに似ている。はははー」
「哀愁が漂う寂しそうな背中に、インスパイヤされた商品なんだよ。……これはね。こういうストーリー仕立てなんだ。年上の人に憧れて好きになったけど、数年後に『何であの人のことを好きになったんだろう?』って振り返る話だよ。そういう思いが込められているわけだよ」
「ふむふむ。すでに終わった恋だよね?俺と裕理さんも。あああーー」
悠人が肩を落とした。早瀨さんとのことを心配しているのだろうか。それとも、早瀨さんと佐久弥のことを気にしているのだろうか。俺がいくら諭しても気休めでしかない。早瀬さんにお任せしよう。そう思って早瀨さんに声をかけようとすると、悠人のことを笑いながら抱きしめていた。そのアツアツぶりに当てられて、顔から湯気が出そうだ。
0
あなたにおすすめの小説
異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる
七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。
だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。
そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。
唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。
優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。
穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。
――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。
希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう
水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」
辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。
ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。
「お前のその特異な力を、帝国のために使え」
強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。
しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。
運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。
偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!
魔王の息子を育てることになった俺の話
お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。
「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」
現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません?
魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL
BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。
BL大賞エントリー中です。
王様のナミダ
白雨あめ
BL
全寮制男子高校、箱夢学園。 そこで風紀副委員長を努める桜庭篠は、ある夜久しぶりの夢をみた。
端正に整った顔を歪め、大粒の涙を流す綺麗な男。俺様生徒会長が泣いていたのだ。
驚くまもなく、学園に転入してくる王道転校生。彼のはた迷惑な行動から、俺様会長と風紀副委員長の距離は近づいていく。
※会長受けです。
駄文でも大丈夫と言ってくれる方、楽しんでいただけたら嬉しいです。
【完結】ホットココアと笑顔と……異世界転移?
甘塩ます☆
BL
裏社会で生きている本条翠の安らげる場所は路地裏の喫茶店、そこのホットココアと店主の笑顔だった。
だが店主には裏の顔が有り、実は異世界の元魔王だった。
魔王を追いかけて来た勇者に巻き込まれる形で異世界へと飛ばされてしまった翠は魔王と一緒に暮らすことになる。
みたいな話し。
孤独な魔王×孤独な人間
サブCPに人間の王×吸血鬼の従者
11/18.完結しました。
今後、番外編等考えてみようと思います。
こんな話が読みたい等有りましたら参考までに教えて頂けると嬉しいです(*´ω`*)
異世界で聖男と呼ばれる僕、助けた小さな君は宰相になっていた
k-ing /きんぐ★商業5作品
BL
病院に勤めている橘湊は夜勤明けに家へ帰ると、傷ついた少年が玄関で倒れていた。
言葉も話せず、身寄りもわからない少年を一時的に保護することにした。
小さく甘えん坊な少年との穏やかな日々は、湊にとってかけがえのない時間となる。
しかし、ある日突然、少年は「ありがとう」とだけ告げて異世界へ帰ってしまう。
湊の生活は以前のような日に戻った。
一カ月後に少年は再び湊の前に現れた。
ただ、明らかに成長スピードが早い。
どうやら違う世界から来ているようで、時間軸が異なっているらしい。
弟のように可愛がっていたのに、急に成長する少年に戸惑う湊。
お互いに少しずつ気持ちに気づいた途端、少年は遊びに来なくなってしまう。
あの時、気持ちだけでも伝えれば良かった。
後悔した湊は彼が口ずさむ不思議な呪文を口にする。
気づけば少年の住む異世界に来ていた。
二つの世界を越えた、純情な淡い両片思いの恋物語。
序盤は幼い宰相との現実世界での物語、その後異世界への物語と話は続いていきます。
取り残された隠者様は近衛騎士とは結婚しない
二ッ木ヨウカ
BL
一途な近衛騎士×異世界取り残され転移者
12年前、バハール王国に召喚された形代柚季は「女王の身代わり要員」として半引きこもり生活をしていたが、ある日婚活を始めることに。
「あなたを守りたい」と名乗りを上げてきたのは近衛騎士のベルカント。
だが、近衛騎士は女王を守るための職。恋愛は許されていないし、辞める際にもペナルティがある。
好きだからこそベルカントを選べず、地位目当てのホテル経営者、ランシェとの結婚を柚季は決める。
しかしランシェの本当の狙いは地位ではなく――
大事だから傷つけたくない。
けれど、好きだから選べない。
「身代わりとなって、誰かの役に立つことが幸せ」そう自分でも信じていたのに。
「生きる」という、柔らかくて甘い絶望を呑み込んで、
一人の引きこもりが「それでもあなたと添い遂げたい」と言えるようになるまで。
優しい檻に囚われて ―俺のことを好きすぎる彼らから逃げられません―
無玄々
BL
「俺たちから、逃げられると思う?」
卑屈な少年・織理は、三人の男から同時に告白されてしまう。
一人は必死で熱く重い男、一人は常に包んでくれる優しい先輩、一人は「嫌い」と言いながら離れない奇妙な奴。
選べない織理に押し付けられる彼らの恋情――それは優しくも逃げられない檻のようで。
本作は織理と三人の関係性を描いた短編集です。
愛か、束縛か――その境界線の上で揺れる、執着ハーレムBL。
※この作品は『記憶を失うほどに【https://www.alphapolis.co.jp/novel/364672311/155993505】』のハーレムパロディです。本編未読でも雰囲気は伝わりますが、キャラクターの背景は本編を読むとさらに楽しめます。
※本作は織理受けのハーレム形式です。
※一部描写にてそれ以外のカプとも取れるような関係性・心理描写がありますが、明確なカップリング意図はありません。が、ご注意ください
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる