夏椿の天使~あの日に出会った旋律

夏目奈緖

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 ギシ……。

 ぐったりした体を投げ出すようにして、ベッドに寝転がった。シーツのひんやりした感触が気持ちいい。頬をすり寄せて目を閉じると、温かいものが顔に触れた。黒崎の唇だ。優しく押し当てられて、さらに肌を滑っていく。そして、労わるように左足を撫でられた。大好きな人の手の温もりを感じている。

「……激しすぎたか?」
「ううん、平気……」
「たまにはいいだろう?」
「すけべじじい……」 

 絡み合っている視線は余韻を残している。ゆっくりと近づいてくる唇を受け止めた後、黒崎が覆いかぶさってきた。熱くて堪らなかった体温が、今は落ち着いている。

「あんたと同じ体温になったみたい。暑くないもん……」
「たしかにそうだな。平熱が高くなった。抱いていて思う」
「イチャついている間はそうだよ……」
「そんなに燃えているのか?努力の甲斐があった」
「バカヤロウ~」
「……叩くな」

 笑いながら手首を掴まれた後、左手の甲にキスをされた。左の額の傷跡にも。どちらも撮影でクローズアップされた箇所だ。仙頭さんから魅力的だと言われたことが忘れられない。ちっとも嫌ではなかった。

「……悠人君とは会場で待ち合わせだったな?」
「そうだよ。美容院でエクステを外してくるそうだよ~。シャンプーが面倒くさいし、けっこう痛いんだって」
「……裕理が洗っているそうだ。大きな子供だ」
「仲がよくていいじゃん~」

 これからは自由にヘアスタイルを作りたいから、髪の毛を伸ばすそうだ。俺はどうしようか?女の子に間違われることが無くなったから、伸ばしてみたいとは思う。

「このままの長さでいいかなー?」
「高校生の時は長めが似合っていたが……。イメージが変わった」
「自分じゃ分からないんだよ。どんな感じ?」
「……妖怪だ」
「なんだよ~っ。伊吹お兄ちゃんとグルなのかよ?」
「……イケメンだ。綺麗なお兄さんに変わっていくだろう」
「女の子にモテるかな?今は年代層が高めなんだ」
「それは変化ないはずだ」
「そっか……」

 今更だ。モテても仕方がない。それは分かっているが、女の子からキャーッと言われてみたい。ご近所さんからはイケメンだと声を掛けられている。母と同じ年代の人達だ。それを聞いて落ち着くから、何ともいえない。

「……モテてどうする?俺は見られたくない。これでも我慢している」
「言わなくなっていたのに?」
「……言わないだけだ。腹がたつ」
「うへへー。可愛いね」
「……本気で言っている」
「そっか。機嫌を直してよ~~」

 思いきり強くキスをしてやった。そのままゴロリと寝返りを打ち、黒崎を見上げる形になった。触れるか触れない距離で囁かれた。二回目はどうだ?と。今夜の予定を考えると避けた方がいい。

 黒崎が冗談で言っているのは分かっているから、いいよと返事をしてやった。その結果、本気にするぞと眉をひそめられた。クラクラするような、甘い眼差しを向けられながら。

 少し寝ておけと囁かれて、シーツを肩までかけられた。リラックスしてパーティー会場に行けるようにと。背中を叩いてくれている優しいリズムを感じながら、目を閉じた。
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