夏椿の天使~あの日に出会った旋律

夏目奈緖

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28-12

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 21時半。

 ステージから降りた後、悠人から支えられて、ステージサイドに戻ってきた。佐久弥が大きなタオルを持ってきて、体を包んでくれた。それは毛布だった。それだけ体が冷えているのか?汗をかいているのに。頭からかぶった水と両目から溢れてこぼれる涙でグチャグチャだ。

 どれが汗で、水で涙なのか?一度に体験したから分かったことは、どれも塩っぱくないことだ。こんなことは初めてだ。

 パチパチパチ!

 毛布をかけてーー!

「黒崎さん!座ってください」
「なつきー、こっちだよ」
「へいき……。黒崎さんは?どこ?会いに行く……」
「なつきー、呼んできてやる!」

 佐久弥が声を張り上げた。すでにスタッフさんが呼びに行ってくれたそうだ。そばには長谷部さんがいて、背中を支えてくれている。口に何かを当てられて、呼吸が楽になった。

 酸素吸入器だから安心しろと声がかかった。ぼんやりする頭では、周りからの声が誰のものなのか分からない。それなのに、この人のものは分かった。涙で見えづらい視界の中に黒崎がいた。俺は達成感で気持ちが高ぶり、涙が出てきた。

「黒崎さん……っ」
「いいから、何も言うな」
「うぇうぇ、ひっく、うわあーーん」
「分かった、休んでおこう」

 毛布ごと包み込まれるように抱きしめられた。頭を撫でられている。すがりつきたいのに動くことができない。もどかしくて感情が高ぶった。せめて顔だけ見たい。それなのに視界がボヤけて、ぜんぜん見えない。余計にもどかしくて涙がでた。

「黒崎さん!」
「……夏樹、ここにいる」
「みえなひーーっ」
「はいはい……」
「黒崎さん!」
「……吸入器を当てておけ」

 誰かが支えてくれている。吸入器を当ててくれているのは、悠人と佐久弥だった。2人とも疲れているだろう?ますます涙が溢れてきた。すでに声が掠れている。それでもいいから泣いた。
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