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午前0時半。
会場の外に出ると、目の前の湾からの風が吹き込んできた。水面からの匂いを嗅ぐと、懐かしい気分になった。海岸線のドライブをすることが多かったからだ。
すっかり遊びに行く時間がなくなり、家の中で同じ時間を過ごすことも減りつつある。寂しいのに充実していると思う。
「黒崎さーん。星が観えてるよ。けっこうハッキリ」
「そうだな。珍しい」
「地元だと、当たり前に観えていたのにね~」
「そうじゃないと感動がなくなる」
「ええ?」
「おかしいことを言ったか?」
「うん……」
こんな感覚があったのか。普段の姿を思い返すと不思議な心地になった。ピアノ演奏は素敵だし、絵を描くのも上手だ。はっきり口に出すことがないからだろう。それだけ、喜怒哀楽が大きくなっている証だ。
「星が観えなくなったのに、あんたの喜怒哀楽が見えてきたよ」
「喜怒哀楽がなければ、演奏で表現ができない」
「ここぞというときに言うねー?ハートを射抜きそうな言葉を。さすがは女性関係が乱れていた人だよ~」
「おい……」
「感情を出さないでいてよ」
「そうなってほしいと言ったのは誰だった?」
「惜しくなったんだよ。これ以上、人が寄って来てほしくないもん」
「浮気はしない。分かっているだろう?お前こそ、どこかに行きそうだぞ」
「行かないよーー」
やっと気がついた。黒崎がワインを傾けてステージを観ていなかったのは、拗ねていたからだろう。早瀬さんが強引に顔を向けていたのを知っている。ここで魔法の言葉を唱えることにした。悠人から教わったものだ。
「いい魔法があるんだよ。かけてあげようか?」
「要らない。変なものをかけるな」
「素直じゃないオジサンだね~っ」
両方の耳たぶを引っ張ってやった。痛そうにしながらも笑っている。何をされても笑っている。こういう黒崎が大好きだ。怖くてもいい、威圧感の塊でもいい。
まるで可視光線のようだ。波長の長さで色が変化する。目線の高さを合わせたいから、背を伸ばして踵を上げた。そして、愛おしい人の頬を包み込んだ。
「どんな黒崎さんでもいいよ。そのままのあなたが大好き!歌と黒崎さんを天秤にかけて選ぶ必要がある日がきたら、あんたのことを選ぶよ」
「けっこうだ……」
「ええー?せっかくなのに」
「信じている」
「黒崎さん……」
これは嬉しくて流す涙だ。ステージで流した涙も、黒崎が来てくれたことで流した時も。全てがうれし泣きだ。
「どこにいても、同じ空の下にいるだろう?……可視光線。ray of light、光線。どこからでも差し込んでこい」
「あんたに撃ち抜かれてもいいよ?」
「おい……」
「聞き流してよ~~」
「これは聞き流したくない」
ありがとう、愛している。嬉しすぎて聞こえなかった。唇の動きだけで分かった。それに答えたくても嗚咽がもれている状態では、声に出すことは出来ない。だからこそ、キスと抱擁で伝えよう。
あなたこそ可視光線だよ。いろんな顔がある光線だよ。ray of light。
クルクル回ってもらうのは、デビュー後のとっておきのご褒美に取っておく。今夜だけはこうしたい。黒崎の腕を掴んで、グイグイと引っ張った。
「早く帰ろうよーー」
「そうしよう。アンタレスが輝いているぞ?どう声をかけるんだ?」
「悠人が使っている魔法を唱えるよ。……ばいばい、また明日ね。明日連絡するよって」
「……その連絡手段は?」
「やっぱり夢のない人だね~。手を振ることだよ。おやすみなさーい!」
南の夜空には、アンタレスが浮かんでいた。夏の南の空に赤く輝く恒星だ。ばいばい。また明日ね。そう口にして手を振った。
帰ろう。お義父さんとアンが待っているよ。黒崎の腕を引っ張り、ここから南の方角にある、森の中の一軒家へ出発した。彩り豊かな花が咲いている場所へと。
会場の外に出ると、目の前の湾からの風が吹き込んできた。水面からの匂いを嗅ぐと、懐かしい気分になった。海岸線のドライブをすることが多かったからだ。
すっかり遊びに行く時間がなくなり、家の中で同じ時間を過ごすことも減りつつある。寂しいのに充実していると思う。
「黒崎さーん。星が観えてるよ。けっこうハッキリ」
「そうだな。珍しい」
「地元だと、当たり前に観えていたのにね~」
「そうじゃないと感動がなくなる」
「ええ?」
「おかしいことを言ったか?」
「うん……」
こんな感覚があったのか。普段の姿を思い返すと不思議な心地になった。ピアノ演奏は素敵だし、絵を描くのも上手だ。はっきり口に出すことがないからだろう。それだけ、喜怒哀楽が大きくなっている証だ。
「星が観えなくなったのに、あんたの喜怒哀楽が見えてきたよ」
「喜怒哀楽がなければ、演奏で表現ができない」
「ここぞというときに言うねー?ハートを射抜きそうな言葉を。さすがは女性関係が乱れていた人だよ~」
「おい……」
「感情を出さないでいてよ」
「そうなってほしいと言ったのは誰だった?」
「惜しくなったんだよ。これ以上、人が寄って来てほしくないもん」
「浮気はしない。分かっているだろう?お前こそ、どこかに行きそうだぞ」
「行かないよーー」
やっと気がついた。黒崎がワインを傾けてステージを観ていなかったのは、拗ねていたからだろう。早瀬さんが強引に顔を向けていたのを知っている。ここで魔法の言葉を唱えることにした。悠人から教わったものだ。
「いい魔法があるんだよ。かけてあげようか?」
「要らない。変なものをかけるな」
「素直じゃないオジサンだね~っ」
両方の耳たぶを引っ張ってやった。痛そうにしながらも笑っている。何をされても笑っている。こういう黒崎が大好きだ。怖くてもいい、威圧感の塊でもいい。
まるで可視光線のようだ。波長の長さで色が変化する。目線の高さを合わせたいから、背を伸ばして踵を上げた。そして、愛おしい人の頬を包み込んだ。
「どんな黒崎さんでもいいよ。そのままのあなたが大好き!歌と黒崎さんを天秤にかけて選ぶ必要がある日がきたら、あんたのことを選ぶよ」
「けっこうだ……」
「ええー?せっかくなのに」
「信じている」
「黒崎さん……」
これは嬉しくて流す涙だ。ステージで流した涙も、黒崎が来てくれたことで流した時も。全てがうれし泣きだ。
「どこにいても、同じ空の下にいるだろう?……可視光線。ray of light、光線。どこからでも差し込んでこい」
「あんたに撃ち抜かれてもいいよ?」
「おい……」
「聞き流してよ~~」
「これは聞き流したくない」
ありがとう、愛している。嬉しすぎて聞こえなかった。唇の動きだけで分かった。それに答えたくても嗚咽がもれている状態では、声に出すことは出来ない。だからこそ、キスと抱擁で伝えよう。
あなたこそ可視光線だよ。いろんな顔がある光線だよ。ray of light。
クルクル回ってもらうのは、デビュー後のとっておきのご褒美に取っておく。今夜だけはこうしたい。黒崎の腕を掴んで、グイグイと引っ張った。
「早く帰ろうよーー」
「そうしよう。アンタレスが輝いているぞ?どう声をかけるんだ?」
「悠人が使っている魔法を唱えるよ。……ばいばい、また明日ね。明日連絡するよって」
「……その連絡手段は?」
「やっぱり夢のない人だね~。手を振ることだよ。おやすみなさーい!」
南の夜空には、アンタレスが浮かんでいた。夏の南の空に赤く輝く恒星だ。ばいばい。また明日ね。そう口にして手を振った。
帰ろう。お義父さんとアンが待っているよ。黒崎の腕を引っ張り、ここから南の方角にある、森の中の一軒家へ出発した。彩り豊かな花が咲いている場所へと。
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