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29-1 環境の変化
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9月10日、火曜日。午前6時。
打ち上げパーティーから一か月が経った。順調にデビューまでの計画が進んでいる。夏休みが終わり、大学への通学も始まった。今月末からはIKUの送迎が始まる。
送迎。その言葉を聞いて懐かしくなった。黒崎と親しくなったのは、学校の行き帰りの送迎の車の中だった。
高校生の時は、毎朝のように黒崎の車で通学していた。歩く場所といえば、学校の校舎と、車を降りてから、ホテルのレストランまでの道のりぐらいだった。安全な場所のみだ。まるで子犬時代のアンのように過保護だったと黒崎にツッコむと、当たり前のことだと言い返された。今も同じ考えだというから呆れた。
今、朝ごはんを作っている。今朝は洋食メニューにした。シンプルなバタートースト、スクランブルエッグ、昨日のポトフ、鶏むね肉のグリルだ。毎日一食は鶏肉を食べている。バリエーションを増やして、飽きないようにした。メニュー開発の経験が役立っている。
「るるるーー。筋肉量がアップしたんだーー。わずかだけどー、オーーイエー」
リビングを振り返ったが観客がいない。我が家の大魔王が可燃ごみを出しに行っているからだ。アンがお伴をしている。もうすぐ帰ってくるだろう。
今日は何を貰ってくるだろう?黒崎製菓の新しいお菓子が発売されるから、それを今回のお返しに選びたい。和菓子系だから珍しくていいと思う。
ガタ……。
黒崎が帰ってきたのだろう。玄関へ迎えに行くと、黒崎の腕には、4つの紙ぶくろが下げられていた。佳代子さんが段ボールを持っている。
「黒崎さーん、おかえりー」
「ただいま、佳代子さんが手伝ってくれた」
「おはようございます。いつもすみません」
「いいええ、気にしないで。これは我が家からよ」
「ありがとう。サトイモだ!レンコンもあるよ~。美味しいよね」
「夏樹君も好きだものねー。圭一君の咳止めにもなるし」
「うん。そろそろ黒崎さんが風邪を引きそうだし」
「……もう引かないぞ」
「ふふん、油断しているとねえ……」
佳代子さんから、ジーッと見つめられた。母のような人だから、どうしたの?と言い返したくなる。すると、彼女がクスクスと笑い出した。伝わってしまったのか。
「ジロジロ見るなって思ったでしょう?」
「照れくさいもん。鼻にティッシュを差していないよね?」
たまにやっている。外では恥ずかしい。スーパーに行った時にやっていて笑われていたのに、黒崎が教えてくれなかった。すでに見慣れているから気づかなかったそうだ。マジで言っていたから怒れなかった。
「全然おかしくないのよ?打ち上げのステージを撮ったものを見せてもらったのよー。夏樹君なのに、夏樹君じゃないような。そういうものだって、主人は言っていたけど……」
「俺も不思議だよ~。ホントに自分かなーって。仕事だからそういうものかな?」
「悠人君は変わらないのよ。たしかにカッコいいけど。夏樹君はガラッと……。ご近所さんでも話題よー?」
「えええ?なんで?見たの!?」
「お父さんが動画を配っていたわよ?IKUの許可済み。このあたりの人は昔から住んでいるから、和気あいあいと楽しむ感じ。うちの家自体が、ミュージシャンの子を預かるケースがあるから。話したことがあったかしら?」
「聞いたことがあるよ。危ないことがあったって」
「そうよー。まだ中学生の弟さんがいる子だったから、家に帰せなかったの」
それはあるバンドのメンバーのことだ。根も葉もない噂が広まり、遠藤さんの家で預かっていたそうだ。レコード会社の社長宅で預かれば、尾ひれがついた話題が広がらなくて済む。ご近所さん達は理解があり、週刊誌系の人たちからの聞き込みにも驚くことがないそうだ。
元からのんびりしている近所だ。雨の日には、聞き込みのスタッフに傘を持って行った人もいたそうだ。そうすると、強引な取材をする気になれなくなる。知り合いの息子さんが、カメラを持っていたケースもあったそうだ。
「それでねー。お父さんが近所で話していたのよ。夏樹君と悠人君がデビューします。10月1日にはベテルギウスのアルバムが出て、二人が参加しています。10月30日には、Visible rayで、デビューですって。悠人君のシブいギターフレーズにはギャップがあります。あの子が?って驚きますよって。ふふふ。みんなが応援しているわよ」
「嬉しいなあ。黒崎さんは知っていたの?」
「ああ。止めなかった。2人が可愛いだろう。許してやってくれ。皆さんへお礼に行こう」
「うん!」
「じゃあね。お父さんが午後にうちにいらっしゃるわ。居なくても探さないでね?」
佳代子さんが笑いながら玄関を出た。恥ずかしくて顔が熱くなった。黒崎が苦笑しているから叩いてやった。
先週のことだ。お義父さんの家に行くと、お義父さんが居なかった。電話をかけても出ない。もしかすると倒れているのかと心配になり、あちこち探した。その結果、遠藤さん家に遊びに行っていた。携帯をマナーモードにしていて、俺からの電話に気づかなかったらしい。
その後、近所の人から笑われた。勝手に殺しちゃだめよと。そこまでは考えていなかったと答えたが、そういうことだと教えてくれた。お義父さんに謝ると喜んでいた。フォローしてくれたのだろう。
打ち上げパーティーから一か月が経った。順調にデビューまでの計画が進んでいる。夏休みが終わり、大学への通学も始まった。今月末からはIKUの送迎が始まる。
送迎。その言葉を聞いて懐かしくなった。黒崎と親しくなったのは、学校の行き帰りの送迎の車の中だった。
高校生の時は、毎朝のように黒崎の車で通学していた。歩く場所といえば、学校の校舎と、車を降りてから、ホテルのレストランまでの道のりぐらいだった。安全な場所のみだ。まるで子犬時代のアンのように過保護だったと黒崎にツッコむと、当たり前のことだと言い返された。今も同じ考えだというから呆れた。
今、朝ごはんを作っている。今朝は洋食メニューにした。シンプルなバタートースト、スクランブルエッグ、昨日のポトフ、鶏むね肉のグリルだ。毎日一食は鶏肉を食べている。バリエーションを増やして、飽きないようにした。メニュー開発の経験が役立っている。
「るるるーー。筋肉量がアップしたんだーー。わずかだけどー、オーーイエー」
リビングを振り返ったが観客がいない。我が家の大魔王が可燃ごみを出しに行っているからだ。アンがお伴をしている。もうすぐ帰ってくるだろう。
今日は何を貰ってくるだろう?黒崎製菓の新しいお菓子が発売されるから、それを今回のお返しに選びたい。和菓子系だから珍しくていいと思う。
ガタ……。
黒崎が帰ってきたのだろう。玄関へ迎えに行くと、黒崎の腕には、4つの紙ぶくろが下げられていた。佳代子さんが段ボールを持っている。
「黒崎さーん、おかえりー」
「ただいま、佳代子さんが手伝ってくれた」
「おはようございます。いつもすみません」
「いいええ、気にしないで。これは我が家からよ」
「ありがとう。サトイモだ!レンコンもあるよ~。美味しいよね」
「夏樹君も好きだものねー。圭一君の咳止めにもなるし」
「うん。そろそろ黒崎さんが風邪を引きそうだし」
「……もう引かないぞ」
「ふふん、油断しているとねえ……」
佳代子さんから、ジーッと見つめられた。母のような人だから、どうしたの?と言い返したくなる。すると、彼女がクスクスと笑い出した。伝わってしまったのか。
「ジロジロ見るなって思ったでしょう?」
「照れくさいもん。鼻にティッシュを差していないよね?」
たまにやっている。外では恥ずかしい。スーパーに行った時にやっていて笑われていたのに、黒崎が教えてくれなかった。すでに見慣れているから気づかなかったそうだ。マジで言っていたから怒れなかった。
「全然おかしくないのよ?打ち上げのステージを撮ったものを見せてもらったのよー。夏樹君なのに、夏樹君じゃないような。そういうものだって、主人は言っていたけど……」
「俺も不思議だよ~。ホントに自分かなーって。仕事だからそういうものかな?」
「悠人君は変わらないのよ。たしかにカッコいいけど。夏樹君はガラッと……。ご近所さんでも話題よー?」
「えええ?なんで?見たの!?」
「お父さんが動画を配っていたわよ?IKUの許可済み。このあたりの人は昔から住んでいるから、和気あいあいと楽しむ感じ。うちの家自体が、ミュージシャンの子を預かるケースがあるから。話したことがあったかしら?」
「聞いたことがあるよ。危ないことがあったって」
「そうよー。まだ中学生の弟さんがいる子だったから、家に帰せなかったの」
それはあるバンドのメンバーのことだ。根も葉もない噂が広まり、遠藤さんの家で預かっていたそうだ。レコード会社の社長宅で預かれば、尾ひれがついた話題が広がらなくて済む。ご近所さん達は理解があり、週刊誌系の人たちからの聞き込みにも驚くことがないそうだ。
元からのんびりしている近所だ。雨の日には、聞き込みのスタッフに傘を持って行った人もいたそうだ。そうすると、強引な取材をする気になれなくなる。知り合いの息子さんが、カメラを持っていたケースもあったそうだ。
「それでねー。お父さんが近所で話していたのよ。夏樹君と悠人君がデビューします。10月1日にはベテルギウスのアルバムが出て、二人が参加しています。10月30日には、Visible rayで、デビューですって。悠人君のシブいギターフレーズにはギャップがあります。あの子が?って驚きますよって。ふふふ。みんなが応援しているわよ」
「嬉しいなあ。黒崎さんは知っていたの?」
「ああ。止めなかった。2人が可愛いだろう。許してやってくれ。皆さんへお礼に行こう」
「うん!」
「じゃあね。お父さんが午後にうちにいらっしゃるわ。居なくても探さないでね?」
佳代子さんが笑いながら玄関を出た。恥ずかしくて顔が熱くなった。黒崎が苦笑しているから叩いてやった。
先週のことだ。お義父さんの家に行くと、お義父さんが居なかった。電話をかけても出ない。もしかすると倒れているのかと心配になり、あちこち探した。その結果、遠藤さん家に遊びに行っていた。携帯をマナーモードにしていて、俺からの電話に気づかなかったらしい。
その後、近所の人から笑われた。勝手に殺しちゃだめよと。そこまでは考えていなかったと答えたが、そういうことだと教えてくれた。お義父さんに謝ると喜んでいた。フォローしてくれたのだろう。
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