夏椿の天使~あの日に出会った旋律

夏目奈緖

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 ガーーー。

 大学に向かう車内にいる。3年生からの所属は、理学部惑星環境学科で決定した。悠人と同じだ。すでに、Visible ray としての活動が始まっている。雑誌の取材、撮影、10月30日のデビューライブ、来年5月に予定されているライブの打ち合わせ等だ。

 お披露目ステージは、IKUのコンサート会場を使って行う。当日は500人規模の観客を招待する。佐久弥には沢山のファンがいるから抽選になったそうだ。自分たちだけでは考えられないことだ。

 佐久弥に恥をかかせない。なによりも、来てくれた人をガッカリさせないようにする。支えてくれているスタッフ達からは、気持ちが伝わってくればいいからねと励まされた。 

 とうとうVisible rayの告知サイトにて、俺と悠人がメンバーだと発表された。そのページを、悠人が読んでいるところだ。ミッシュアップコンテストで優勝したメンバーだと、ネットで話題になったようだ。

 佐久弥が審査員で参加したことで、大勢のファンが注目したようだ。ステージに立たなくても、佐久弥が関わっているのならと、男女問わず応援してくれていた。どうして分かったかというと、会場アンケートを取ってデータ化をして、専門の部署が分析したからだ。ディアドロップ時代の佐久弥ではなく、佐伯久弥としてのファンが沢山いる。

「ふむふむ。俺達のインタビューを読むよー?ボーカル・Natsuki、ギター・yu-to。ミライ・アマチュアコンテスト2位。ミッシュアップコンテストにて優勝。IRON ANGEL。ナツキの趣味は家庭菜園。自宅の畑で、九条ネギとトマトを育てている。絵本マニア。……ユートの趣味は味噌汁づくり。佐久弥の趣味はお菓子づくり、ミシン。……どんなバンドだよー。趣味はアクセサリーって言ったのに。味噌汁なんて言っていないよー。朝ご飯で作っているんだ。もうーー」
「ゆうとー、嘘はダメだよ。恥ずかしい趣味じゃないだろ?エプロンとスリッパ集めよりさ……」
「ふむふむ、正論ですね。さすがは黒崎さんを撃ちぬいた男ですねー」
「ああでもしないと本音を出せないからさ~~」

 悠人には黒崎と二葉のことを話してある。悠人の意見はこうだ。妹のことを思えば、会わせてあげたい気持ちが勝るから、自分の感情とで板ばさみになるだろう。ただし、暴力が原因でなければの話だと言っていた。理久も同じ意見だった。バレンタインイベント以来、理久と二葉は気が合い、すっかり仲良くなっている。

「二葉ちゃんって、黒崎さんに似ているよね?」
「外見も中身もね、そっくりそのまま。威圧感も同じだよ」
「弟に言ったんだよね?愚痴を言っていたら、勉強してから言いなさい。二度も言わせるな!か。カッコいいなー。黒崎さんはお父さん似だよね?」
「うーーん。最近はママに似てきたんだ。もっと前はお義父さんだったけど」
「じゃあ、二葉ちゃんもお母さん似なのか。黒崎家のお父さんに似ていると思ったんだけど」
「ああ、鋭いね……。お義父さんの実の娘なんだ。だからこっちに呼んだよ。もちろん、ビジネスコンテストの結果に期待したからだけど」
「ええーー?だからよけいに!?」
「それもあるよ。二葉ちゃんは、倉口さんだけがお父さんって言ったよ。お義父さんの前で。本当の父親に会う気はありませんって」
「……こんなことを言ってもいいのかな?」
「いいよ、こっちが言い出したんだし」
「リスペクトする!弟を医学部で勉強させたくてだろ?」
「それも理由だよ……」
「……っ」

 悠人が顔を真っ赤にしてうつむいた。助手席の長谷部さんが覗き込んできた。気を取り直して、デビューステージの構成を確認しておきましょうと。さっそくタブレットと紙を広げた。自分たちの意見を取り入れてくれるからだ。

 デビューステージでは、観客席に向けて『光線』のような効果を出す。楽曲のサビに向けての間奏中だ。ボーカルのあおりの直後、ドラム音、光線、そのタイミングをピッタリ合わせる。

 ray of light、光線。ステージから黒崎に届ける。中山家の兄妹と、黒崎の兄弟である、二葉と朝陽が観客席に座ってこそだ。

 たまに思い浮かぶことがある。黒崎は寂しい気持ちを隠して過ごしてきた。何でもなりふりをして。二葉は愚痴を言わないが、感情を押し殺すことはしていない。黒崎が過去に置いてきた性格のように感じる。

 二葉が言っているような、黒崎は初めて会った人ではない。ママのお腹にいた時に会っている。2人が話している時、どんどん優しい表情になっている。だから大丈夫。こういう漠然とした思いを浮かべながら、車の窓から、晴れ渡った空を見上げた。
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