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4-3(夏樹視点)
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午前10時30分。
何度も後ろを振り返り、黒崎がついて来ているのかを確かめた。ゆっくりと眺めを楽しんでは、走り回るなと言って笑っている。ここへ来て良かったと思う。たまには家や会社以外の場所へ出かけてほしいと思うからだ。
あちこち行きたい場所はあるが、今の一番の目的はイングリッシュローズガーデンという場所だ。そこへ行く間に、遺跡エリアを通って来た。モスクやアンコール調の寺院が建ち、赤茶けた色の砂漠を思わせる壁色が並んでいた。ブータン僧院とモスクが再現された建物を回り、展望台へ行った後に、目的地へと方向きを変えた。
するとその時だ。もう一つの目的地にたどり着いた。コインを投げて鉢に入ると願いを叶うにという泉の前だ。黒崎は好きだろうか。後ろを振り返ると、優しい笑顔を向けられた。
「これも今日の目的。向こうの鉢にコインが入ったら、願いが叶うらしいよ。見ててよ。やってみるから」
「入るのか?」
「入るってば。意地悪を言うなよーー」
目の前には綺麗な泉がある。さっそくコインを投げた。俺の願いは黒崎から対等に見られることだ。でも、五回投げても鉢には入らなかった。いくら投げても無駄だろうかと思った。要は気持ちの問題だ。叶うまで投げようと思った。
「黒崎さーん。入らないよーー。今日は運が良くないのかな。テレビの星占いが最下位だったんだよ」
「占いを気にするのか?」
「参考にしているよ。俺は情熱的な恋をするって、本に書いてあった……、ななな、何でもない」
「赤くなっているぞ。……可愛い。おいで」
「コインを入れるミッションがあるもん」
本当は行きたいのに、照れくささに負けた。俺は兄と妹がいる中間子だ。中間子は甘え下手らしいが、当てはまる気がする。もう一回挑戦しようとすると、黒崎からコインを奪われた。そして、投げたコインが一発で白い鉢に入った。
「あ……っ」
「これで入ったぞ。下手くそ」
「入ったね……」
「これでお前の願いが叶う。そう落ち込むな。どういう願いだ?」
本人に代わって投げたコインが入ったのに、これで願いが叶うという考え方が、強引な性格を表していると思った。何だか自分が情けなくて、力も抜けてきて、地面に座り込んだ。
「叶えられたい相手に願掛けを成功されたなんて、かっこ悪すぎるよーー」
「どういうことだ?」
「何でもないよーー」
「何でもする。話してくれ。……どうしたんだ?」
「言わないってば……」
「こっちを見ろ。当ててやろう」
黒崎が顔を覗き込んできた。こういう仕草が優しいと思った。彼の瞳に映っている俺は、子供のような顔をしている。
(俺は子供っぽいなあ……)
彼には大人の人が似合うと思った。例えば俺が女性だと勘違いした怜さんのような人が黒崎の隣に似合うと思う。
こうしてまた、黒崎に気後れする気持ちが浮かんできてしまった。時々落ち込むことがあり、その度に打ち消すようにしている。黒崎から何でも話して貰いたいと言われているし約束しているけれど、大人の黒崎についていく自信が無いとは言いづらい。
するとその時だ。どこからともなく、通り過ぎて行く女性達からの囁き声が聞こえて来た。
「見てーー。あの子。かっこいいわねーー」
”あの子”という言葉は当てはまらないように思うが、黒崎に対して言ったことだろう。また彼に気後れしてしまった。黒崎は何でも出来て、自信と包容力がある男性だ。いくら子供っぽいところがあったとしても。夜中に目が覚めると、俺のそばでパソコンを使って仕事をしている姿を何度も見た。俺が目が覚めると、”早く寝ろ。こっちにおいで” と、声を掛けられている。そして、優しくキスをされて、ベッドへ戻される。全てにおいて余裕がある。ますます自分との違いを知った。そして、釣り合わないという気持ちが消えない。
ぼんやりしていると、黒崎から肩を揺すられながら声をかけられた。
「夏樹。どうしたんだ。話してみろ」
「呆れただけだよ。代わりに投げて願いは叶うぞって、どこまで強引なんだよ」
「本当にそれだけなのか?」
「当たり前だろ。あんたの強引さがマシになりますようにって、願掛けをしたかったんだよ。全然入らなかった。あんたの魔力か、未知なる技術かな?」
わざと嫌みを口にした。この空気を変えられると期待をしたけれど、悪くなってしまった。黒崎の表情が曇ったからだ。そして、背後から威圧感のある雰囲気で声を掛けられた。俺がはっきり本音を言わないことを見破られてしまったようだ。
「夏樹。大丈夫な顔をしていないぞ」
「黒崎さん ? 」
「静かな場所へ連れて行く」
「あの……、待って」
「だったら早く話せ」
振り向く間もなく手を引かれて、早足で歩き進められた。怒らせたに違いない。突然の変貌振りに戸惑った。名前を呼んでも足を止めてくれなかった。
何度も後ろを振り返り、黒崎がついて来ているのかを確かめた。ゆっくりと眺めを楽しんでは、走り回るなと言って笑っている。ここへ来て良かったと思う。たまには家や会社以外の場所へ出かけてほしいと思うからだ。
あちこち行きたい場所はあるが、今の一番の目的はイングリッシュローズガーデンという場所だ。そこへ行く間に、遺跡エリアを通って来た。モスクやアンコール調の寺院が建ち、赤茶けた色の砂漠を思わせる壁色が並んでいた。ブータン僧院とモスクが再現された建物を回り、展望台へ行った後に、目的地へと方向きを変えた。
するとその時だ。もう一つの目的地にたどり着いた。コインを投げて鉢に入ると願いを叶うにという泉の前だ。黒崎は好きだろうか。後ろを振り返ると、優しい笑顔を向けられた。
「これも今日の目的。向こうの鉢にコインが入ったら、願いが叶うらしいよ。見ててよ。やってみるから」
「入るのか?」
「入るってば。意地悪を言うなよーー」
目の前には綺麗な泉がある。さっそくコインを投げた。俺の願いは黒崎から対等に見られることだ。でも、五回投げても鉢には入らなかった。いくら投げても無駄だろうかと思った。要は気持ちの問題だ。叶うまで投げようと思った。
「黒崎さーん。入らないよーー。今日は運が良くないのかな。テレビの星占いが最下位だったんだよ」
「占いを気にするのか?」
「参考にしているよ。俺は情熱的な恋をするって、本に書いてあった……、ななな、何でもない」
「赤くなっているぞ。……可愛い。おいで」
「コインを入れるミッションがあるもん」
本当は行きたいのに、照れくささに負けた。俺は兄と妹がいる中間子だ。中間子は甘え下手らしいが、当てはまる気がする。もう一回挑戦しようとすると、黒崎からコインを奪われた。そして、投げたコインが一発で白い鉢に入った。
「あ……っ」
「これで入ったぞ。下手くそ」
「入ったね……」
「これでお前の願いが叶う。そう落ち込むな。どういう願いだ?」
本人に代わって投げたコインが入ったのに、これで願いが叶うという考え方が、強引な性格を表していると思った。何だか自分が情けなくて、力も抜けてきて、地面に座り込んだ。
「叶えられたい相手に願掛けを成功されたなんて、かっこ悪すぎるよーー」
「どういうことだ?」
「何でもないよーー」
「何でもする。話してくれ。……どうしたんだ?」
「言わないってば……」
「こっちを見ろ。当ててやろう」
黒崎が顔を覗き込んできた。こういう仕草が優しいと思った。彼の瞳に映っている俺は、子供のような顔をしている。
(俺は子供っぽいなあ……)
彼には大人の人が似合うと思った。例えば俺が女性だと勘違いした怜さんのような人が黒崎の隣に似合うと思う。
こうしてまた、黒崎に気後れする気持ちが浮かんできてしまった。時々落ち込むことがあり、その度に打ち消すようにしている。黒崎から何でも話して貰いたいと言われているし約束しているけれど、大人の黒崎についていく自信が無いとは言いづらい。
するとその時だ。どこからともなく、通り過ぎて行く女性達からの囁き声が聞こえて来た。
「見てーー。あの子。かっこいいわねーー」
”あの子”という言葉は当てはまらないように思うが、黒崎に対して言ったことだろう。また彼に気後れしてしまった。黒崎は何でも出来て、自信と包容力がある男性だ。いくら子供っぽいところがあったとしても。夜中に目が覚めると、俺のそばでパソコンを使って仕事をしている姿を何度も見た。俺が目が覚めると、”早く寝ろ。こっちにおいで” と、声を掛けられている。そして、優しくキスをされて、ベッドへ戻される。全てにおいて余裕がある。ますます自分との違いを知った。そして、釣り合わないという気持ちが消えない。
ぼんやりしていると、黒崎から肩を揺すられながら声をかけられた。
「夏樹。どうしたんだ。話してみろ」
「呆れただけだよ。代わりに投げて願いは叶うぞって、どこまで強引なんだよ」
「本当にそれだけなのか?」
「当たり前だろ。あんたの強引さがマシになりますようにって、願掛けをしたかったんだよ。全然入らなかった。あんたの魔力か、未知なる技術かな?」
わざと嫌みを口にした。この空気を変えられると期待をしたけれど、悪くなってしまった。黒崎の表情が曇ったからだ。そして、背後から威圧感のある雰囲気で声を掛けられた。俺がはっきり本音を言わないことを見破られてしまったようだ。
「夏樹。大丈夫な顔をしていないぞ」
「黒崎さん ? 」
「静かな場所へ連れて行く」
「あの……、待って」
「だったら早く話せ」
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