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黒崎から両手を握られた。一生大切にすると言われた。まるでプロポーズの言葉のように感じた。でも、俺としては嬉しくない。彼の言いなりになりたくない。
「これからも大切にする」
「黒崎さん。本気なんだよね?」
「今は腹が立つだろうが、俺の為だと思ってほしい。お前のことが必要だ。どこかへ居なくなる気がして怖い。機嫌を直してくれないか?」
機嫌など直るわけがないだろう。意見など聞かない相手に。そう憤りつつも、怒りに任せて振り払う気になれなかった。寂しそうな目をしているからだ。
子供の頃から孤独を抱えて過ごして来た人だ。誰かが居なくなるのを怖がっている人を、置いていくことは出来ない。その傷が癒えたとしても。黒崎のことを愛しているからだ。
俺はどんな表情をしているだろう?泣きそう?怒っている?悲しんでいる?黒崎の反応を見ると、どれでもないようだ。優しく微笑んでいるのだろうか?どうでも良くなってきた。どんな表情をしていようが、黒崎は意志を曲げないからだ。
「あんたに所有されている人形になった気分だよ」
「人形扱いはしていない。暴走していることは自覚している」
「どうして寂しそうな顔をするんだよ?イングリッシュローズガーデンで、俺に言ってくれたよね?……意志が強いわりには、俺のことになると自信をなくす。その考え方を今すぐやめろ、必要ないって……。あんたは自信がないのかよ?」
「違う。お前から愛情をもらっている自信がある」
ここで首を横に振れば、俺の心の中はどうなるだろうか。そして、黒崎の心はどうだろうか。悲しそうな目をすると思う。そういう彼のことを放っておけやしない。つい頷きそうになり、やめた。そして、もっと話し合いをしたいと思った。
「黒崎さん……。俺は……」
「これは命令だ」
「何を……」
まるで浜辺で作った砂の城が、打ち寄せた波に崩されていくようだった。結ばれた赤い糸のような靴紐が、自分自身の身体に絡み付いて、縛られてしまった。 このまま身を委ようかと思った。そうすれば楽に決まっている。ぶつかり合うよりも従順になればいい。何も心配することのない日常が待っているなら、信じてドアを開ければいい。でも、俺はそうしたくない。
伊吹と電話で話していなかったら、俺は素直に黒崎の言うことに頷いていたかもしれない。あの時までの自分は居なくなった。強い意思表示をする。今のあなたが嫌いだと言ってしまいたい。
「今週は帰りが遅かった。明日は休みだ。ベッドでゆっくりできる。風呂へ入ろう。久しぶりにマッサージをしてやる」
「触るなよ!NOだよ!」
「夏樹。こっちに来い」
「来い!?ふざけんな!バカヤロー!」
「夏樹」
黒崎から抱きしめられた。俺の意見など聞かれていないのも同じだ。この強引さを知っている。まるで達也のようだと思った。そう思うと、背中に汗が流れた。俺は今の黒崎のように、人に命令形で話す人が苦手だ。そして、人を自分の思い通りにさせようという人も嫌だ。
「これからも大切にする」
「黒崎さん。本気なんだよね?」
「今は腹が立つだろうが、俺の為だと思ってほしい。お前のことが必要だ。どこかへ居なくなる気がして怖い。機嫌を直してくれないか?」
機嫌など直るわけがないだろう。意見など聞かない相手に。そう憤りつつも、怒りに任せて振り払う気になれなかった。寂しそうな目をしているからだ。
子供の頃から孤独を抱えて過ごして来た人だ。誰かが居なくなるのを怖がっている人を、置いていくことは出来ない。その傷が癒えたとしても。黒崎のことを愛しているからだ。
俺はどんな表情をしているだろう?泣きそう?怒っている?悲しんでいる?黒崎の反応を見ると、どれでもないようだ。優しく微笑んでいるのだろうか?どうでも良くなってきた。どんな表情をしていようが、黒崎は意志を曲げないからだ。
「あんたに所有されている人形になった気分だよ」
「人形扱いはしていない。暴走していることは自覚している」
「どうして寂しそうな顔をするんだよ?イングリッシュローズガーデンで、俺に言ってくれたよね?……意志が強いわりには、俺のことになると自信をなくす。その考え方を今すぐやめろ、必要ないって……。あんたは自信がないのかよ?」
「違う。お前から愛情をもらっている自信がある」
ここで首を横に振れば、俺の心の中はどうなるだろうか。そして、黒崎の心はどうだろうか。悲しそうな目をすると思う。そういう彼のことを放っておけやしない。つい頷きそうになり、やめた。そして、もっと話し合いをしたいと思った。
「黒崎さん……。俺は……」
「これは命令だ」
「何を……」
まるで浜辺で作った砂の城が、打ち寄せた波に崩されていくようだった。結ばれた赤い糸のような靴紐が、自分自身の身体に絡み付いて、縛られてしまった。 このまま身を委ようかと思った。そうすれば楽に決まっている。ぶつかり合うよりも従順になればいい。何も心配することのない日常が待っているなら、信じてドアを開ければいい。でも、俺はそうしたくない。
伊吹と電話で話していなかったら、俺は素直に黒崎の言うことに頷いていたかもしれない。あの時までの自分は居なくなった。強い意思表示をする。今のあなたが嫌いだと言ってしまいたい。
「今週は帰りが遅かった。明日は休みだ。ベッドでゆっくりできる。風呂へ入ろう。久しぶりにマッサージをしてやる」
「触るなよ!NOだよ!」
「夏樹。こっちに来い」
「来い!?ふざけんな!バカヤロー!」
「夏樹」
黒崎から抱きしめられた。俺の意見など聞かれていないのも同じだ。この強引さを知っている。まるで達也のようだと思った。そう思うと、背中に汗が流れた。俺は今の黒崎のように、人に命令形で話す人が苦手だ。そして、人を自分の思い通りにさせようという人も嫌だ。
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