恋人はメリーゴーランド少年だった~永遠の誓い編

夏目奈緖

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 午前6時。

 朝になった。これからクリニックに入る。今から開いている病院があるなんて信じられない気持ちだ。救急病院しかないかと思ったら、本当に開いていた。その病院は、繁華街のビルの7階にあるクリニックだ。無理に開けてもらったわけではなく、診療時間が朝の8時まであり、深夜に開いているクリニックだった。

 黒崎から手を引かれて車から降りた。もう口元から血は出ていない。でも、目の痛みはある。かなりこすったからかもしれない。黒崎が眉間に皺を寄せて、自分を責めている。結局は俺のことを傷つけたと言っている。

 クリニックに入った後、さっそく問診票を書いた。俺は目が痛かったから、黒崎が書いてくれようとしたけれど、さすがにこれだけは自分で書きたい。

「黒崎さん。ごめんね。俺のせいだよ。興奮したからだよ」
「俺が書く。書きづらそうだ」
「ありがとう。けっこう目が痛いんだ」
「どうした?そんなに俺の字を見て」
「綺麗な字だから見惚れたんだ」

 黒崎が生年月日と住所を書いてくれた。字が上手だから驚いた。一緒に暮らし始めてから日が経つのに、黒崎の字をじっくり見たのは初めてのことだ。もっと見たいのに、抱き寄せられて阻まれた。目を閉じていろと言いながら。

 クリニック内には小さな音楽が流れている。俺達しかいないと思ったら、他にも人が入って来た。仕事帰りだろうと黒崎が教えてくれた。この時間に来られて助かる人が多いことも教えてくれた。内科と眼科、胃腸科もあるそうだ。先生は2人いるそうだ。

「よく通っているの?喘息があるって聞いたけど」
「今は何もない。定期健診のみだ。既往症は?罹ったことがある病気、治療しているもの。生まれつき。教えてくれ」
「えーっとね。扁桃腺が腫れたことがあるよ」
「そうか。落ち着いた頃に教えてくれ。小さい頃の話を聞きたい」
「うん。黒崎さんのこともね。知らないことが多すぎるよ。今頃になって」

 外出中なのに、黒崎がラフな格好をしている。珍しいことだ。いつも仕事だから、外にいるときはスーツを着ていることが多いからだ。

 するとその時だ。窓から朝の光が入ってきた。夜明けだ。喧嘩が長かったから、時間が時間が経つのを忘れていた。

(日を浴びるのは久しぶりな気がする)

 俺達は数えるぐらいしか太陽の下を歩いていない。車移動がほとんどだからだろう。スーパーの買い物は宅配を使っているし、地下駐車場から出入りする。黒崎が帰った後で外に出ると、すでに夜になっている。たまには朝の散歩も良いと思った。

「黒崎さん。俺に悪いって思った?」
「もちろんだ。何でもする」
「公園へ行こうよ。日を浴びないから変な考え方が浮かぶんだよ」
「許してもらえるのか?」
「ばーか。仲直りしたじゃん。落ち着けたかな?……奪い取るって?あ、呼ばれた?」
「一緒に診療室へ入る」
「俺一人で良いよ」
「だめだ。本当なら志木総合病院の方が良かったんだろう」
「ここのクリニックでかまわないよ。怪我をしたとき、初めて行ったんだ。普段は近所にある病院に行っているよ」
「そうか。ここをかかりつけにしないか?」
「もちろんかまわないよ」

 診察室に入った後、黒崎が事情を話した。すぐに検査が行われた後、先生が俺と2人で話したいと言うことで、黒崎が診察室を出るように言われた。本人か家族にしか聞けないからだそうだ。すると、黒崎が素直に待合室に行ってくれてホッとした。
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