104 / 164
11-7(黒崎視点)
しおりを挟む
砂浜の上に座って、空を見上げているところだ。夏樹がコンビニへ行こうとした時、強く止めなかった。一人になりたかったから、夏樹の好意に甘えた。
子供の頃を思い出した。あれは、母が父と結婚して父の家へ引っ越しをする前のことだ。6歳の誕生日に、母と二人で住んでいた家に、ピアノが設置された。幼稚園から帰って来た後に置いてあったから喜んだ。さらに嬉しい出来事があった。それは、拓海兄さんとの出会いだ。家に拓海兄さんが遊びに来ていた。初めて会う人だから緊張したのを覚えている。
「はじめましてっ」
「はじめまして。ちゃんと挨拶ができるんだな。えらいぞ」
「うん……」
「怖い人じゃないぞ?圭一のお兄ちゃんだ。拓海っていう名前だよ」
「うん……」
俺は人見知りをする性格の子供だった。拓海兄さんの腕に抱かれて、その顔を見つめた。お父さんに似ているのに、どうしてこんなに優しそうなのかな?子供心にそう思っていた。すぐに『お兄ちゃん』とは呼べなかった。家族というものを知らなくて、戸惑ったからだ。それでも、嫌な顔一つされなかった。
しばらく遊んで打ち解けた。拓海兄さんの家へ遊びに行く許可をもらうために、母を探した。バルコニーの近くまで来たときに、父と2人でいるのを見つけた。声をかけようとしたら、拓海兄さんから静かにするように言われた。お父さんとお母さんが大事な話があるのだと言っていた。父が母にプロポーズをしているところだった。しかし、母は拒んでいた。今ならそれが分かる。
「黒崎の家は……、世界が違いすぎるの。完璧に振舞えないわ」
「周りは放っておきなさい。黒崎家の一員として育てるからね。君が嫌がるから学校の面接を受けることが出来なかったが、入学には問題ない。時間が出来た時、一緒に見学に行こう。いい学校だよ。教育環境には十分だ」
「私の意見を聞いてくれないのね。圭一は近くの学校がいいって言っているのよ」
「私の言う通りにすればいい。拓海を連れて来てよかった。すっかり懐いたようだ」
「どこへ行くのにも、一人で出してもらえない。圭一まで、そうする気なの?」
「一人で出かけているじゃないか」
「していないわ。運転手さんがいる車に乗るのは、まだいい方よ。誰かが後ろにいるのは、監視をされているようにしか思えない」
「君のことが心配だからだ」
「はい……」
母はどこへ行くのにも一人ではなかった。運転手やお手伝いさんと一緒に出かけていた。父からの命令だった。不自由を感じていたのが、今になって理解できる。妻として黒崎家を守ることは、相当なプレッシャーだったようだ。周りから冷たい目を向けられていた。当たり前のことが出来ないと、陰口を叩かれていたそうだ。このことは、当時のお手伝いさんから話を聞いて知ることができた。
愛人の中では、母は一番愛されたそうだ。母は寂しそうな父のことを放っておけなくて、離れることが出来なかった。それらを理解できるようになったのは、夏樹のおかげだ。
(あれは5年生のときだった……)
小学5年生の夏休み中の出来事だ。 父と母が結婚して5年経った頃だ。俺の前では仲が良かったと思う。俺は嬉しかった。そして、母に学校行事に来てもらったことへの礼が言いたくて、部屋へ行った。ドアが開いていたから室内を見回すと、そばにあったカウンターの上に、たくさんの薬袋が置いてあった。
「メンタルクリニック……。ママ、具合が悪いんだ……」
当時、母と話すことが少なかった。親子らしい触れ合いがないとは言えないが、俺は寂しい思いをしていた。しかし、拓海兄さんがいたから平気だと思っていた。めったに話すことがなくても、母のことが心配になった。何かできることはないか。そう考えていたとき、両親が言い争う声が聞こえてきた。
「あ……」
あの時、母の前に出て父から守れば良かった。父のことが怖くて、母のことを守れなかった。自分自身が情けなかった。しかし、母が泣いていたのに、涙を拭いてあげられなかった。自分にはその資格がないと思ったからだ。
「僕はママのことを守れないもん。男なのに……。お父さんが怖いんだ……」
小学6年生になった頃だ。母親の印象が変わり、柔らかい表情になった。俺と話す時間ができて嬉しかった。しかし、それは長くは続かなかった。また両親が喧嘩を始めたからだ。今なら理由が分かる。母が父以外の男との間に子供ができたからだ。父と別れ話をしていたのだろう。
「どういうことだ!」
「見ての通りよ」
「圭一は渡さないぞ」
「連れて行くわ」
「お前に何ができる?ロクに働いたことがないだろう」
「一人じゃないもの」
「あの男に何ができる?」
「調べたのね」
「当然だ。産むのか?」
「あたりまえでしょう」
「圭一が出来た時は、モデルを辞めたくなくて、産むのを迷っていたのにか?」
「……」
ショックだった。俺のことを連れて行くと言われたことが嬉しかったが、産むことを迷われた事実を知り、心が耐えられなかった。
子供の頃を思い出した。あれは、母が父と結婚して父の家へ引っ越しをする前のことだ。6歳の誕生日に、母と二人で住んでいた家に、ピアノが設置された。幼稚園から帰って来た後に置いてあったから喜んだ。さらに嬉しい出来事があった。それは、拓海兄さんとの出会いだ。家に拓海兄さんが遊びに来ていた。初めて会う人だから緊張したのを覚えている。
「はじめましてっ」
「はじめまして。ちゃんと挨拶ができるんだな。えらいぞ」
「うん……」
「怖い人じゃないぞ?圭一のお兄ちゃんだ。拓海っていう名前だよ」
「うん……」
俺は人見知りをする性格の子供だった。拓海兄さんの腕に抱かれて、その顔を見つめた。お父さんに似ているのに、どうしてこんなに優しそうなのかな?子供心にそう思っていた。すぐに『お兄ちゃん』とは呼べなかった。家族というものを知らなくて、戸惑ったからだ。それでも、嫌な顔一つされなかった。
しばらく遊んで打ち解けた。拓海兄さんの家へ遊びに行く許可をもらうために、母を探した。バルコニーの近くまで来たときに、父と2人でいるのを見つけた。声をかけようとしたら、拓海兄さんから静かにするように言われた。お父さんとお母さんが大事な話があるのだと言っていた。父が母にプロポーズをしているところだった。しかし、母は拒んでいた。今ならそれが分かる。
「黒崎の家は……、世界が違いすぎるの。完璧に振舞えないわ」
「周りは放っておきなさい。黒崎家の一員として育てるからね。君が嫌がるから学校の面接を受けることが出来なかったが、入学には問題ない。時間が出来た時、一緒に見学に行こう。いい学校だよ。教育環境には十分だ」
「私の意見を聞いてくれないのね。圭一は近くの学校がいいって言っているのよ」
「私の言う通りにすればいい。拓海を連れて来てよかった。すっかり懐いたようだ」
「どこへ行くのにも、一人で出してもらえない。圭一まで、そうする気なの?」
「一人で出かけているじゃないか」
「していないわ。運転手さんがいる車に乗るのは、まだいい方よ。誰かが後ろにいるのは、監視をされているようにしか思えない」
「君のことが心配だからだ」
「はい……」
母はどこへ行くのにも一人ではなかった。運転手やお手伝いさんと一緒に出かけていた。父からの命令だった。不自由を感じていたのが、今になって理解できる。妻として黒崎家を守ることは、相当なプレッシャーだったようだ。周りから冷たい目を向けられていた。当たり前のことが出来ないと、陰口を叩かれていたそうだ。このことは、当時のお手伝いさんから話を聞いて知ることができた。
愛人の中では、母は一番愛されたそうだ。母は寂しそうな父のことを放っておけなくて、離れることが出来なかった。それらを理解できるようになったのは、夏樹のおかげだ。
(あれは5年生のときだった……)
小学5年生の夏休み中の出来事だ。 父と母が結婚して5年経った頃だ。俺の前では仲が良かったと思う。俺は嬉しかった。そして、母に学校行事に来てもらったことへの礼が言いたくて、部屋へ行った。ドアが開いていたから室内を見回すと、そばにあったカウンターの上に、たくさんの薬袋が置いてあった。
「メンタルクリニック……。ママ、具合が悪いんだ……」
当時、母と話すことが少なかった。親子らしい触れ合いがないとは言えないが、俺は寂しい思いをしていた。しかし、拓海兄さんがいたから平気だと思っていた。めったに話すことがなくても、母のことが心配になった。何かできることはないか。そう考えていたとき、両親が言い争う声が聞こえてきた。
「あ……」
あの時、母の前に出て父から守れば良かった。父のことが怖くて、母のことを守れなかった。自分自身が情けなかった。しかし、母が泣いていたのに、涙を拭いてあげられなかった。自分にはその資格がないと思ったからだ。
「僕はママのことを守れないもん。男なのに……。お父さんが怖いんだ……」
小学6年生になった頃だ。母親の印象が変わり、柔らかい表情になった。俺と話す時間ができて嬉しかった。しかし、それは長くは続かなかった。また両親が喧嘩を始めたからだ。今なら理由が分かる。母が父以外の男との間に子供ができたからだ。父と別れ話をしていたのだろう。
「どういうことだ!」
「見ての通りよ」
「圭一は渡さないぞ」
「連れて行くわ」
「お前に何ができる?ロクに働いたことがないだろう」
「一人じゃないもの」
「あの男に何ができる?」
「調べたのね」
「当然だ。産むのか?」
「あたりまえでしょう」
「圭一が出来た時は、モデルを辞めたくなくて、産むのを迷っていたのにか?」
「……」
ショックだった。俺のことを連れて行くと言われたことが嬉しかったが、産むことを迷われた事実を知り、心が耐えられなかった。
0
あなたにおすすめの小説
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
エリート上司に完全に落とされるまで
琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。
彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。
そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。
社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
旦那様と僕
三冬月マヨ
BL
旦那様と奉公人(の、つもり)の、のんびりとした話。
縁側で日向ぼっこしながらお茶を飲む感じで、のほほんとして頂けたら幸いです。
本編完結済。
『向日葵の庭で』は、残酷と云うか、覚悟が必要かな? と思いまして注意喚起の為『※』を付けています。
溺愛極道と逃げたがりのウサギ
イワキヒロチカ
BL
完全会員制クラブでキャストとして働く湊には、忘れられない人がいた。
想い合いながら、…想っているからこそ逃げ出すしかなかった初恋の相手が。
悲しい別れから五年経ち、少しずつ悲しみも癒えてきていたある日、オーナーが客人としてクラブに連れてきた男はまさかの初恋の相手、松平竜次郎その人で……。
※本編完結済。アフター&サイドストーリー更新中。
二人のその後の話は【極道とウサギの甘いその後+ナンバリング】、サイドストーリー的なものは【タイトル(メインになるキャラ)】で表記しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる