森林の星空少年~あの日のメエメエ

夏目奈緖

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 こういう流れが起きた。相手側の”Dear drop”というバンド名を、所属レコード会社が商標登録したことで、俺達の分が使えなくなった。”s”がつくだけの差で、一見して違いが分からないからだ。

 ”ディアドロップ”という名前は久弥が登録してあるが、英語表記はやっていない。その点を突かれてしまったが、IKU側が有利だからと安心していた。IKUの方を担当している弁護士は、久田達弘という。俺の実父だ。

 早瀬が自分の力不足だと言うから、背中を叩いて励ました。本気を出すとプラセルを潰しかねないし、怖さを発揮してしまう。

「うちのお父さんは、ヤリ手だもん。よっぽどだよ。社会的評判に固執して、家庭愛と息子を想う気持ちを偽造した上に、それを武器にして信用させて、第一印象を良くしたんだ。スタッフの為に稼いだとは言えるけど。今回はチャンスだと思ったはずだよ。……でもさー。追い落としてまで手に入れた幸せは、どこにあるのかって思い始めたんだよ。俺や藍生に胸を張れるのかって。このタイミングで思い直さなくても良いのに……。いつものお父さんで良いのに……」

 どうしよう?あの考え方を嫌っていたのに。大人になった証と言えよう。そして、ここは誤魔化しておきたい。

「DDで活動していないけど、俺達はやりたいよ。ひさやー。そうだよね?」
「それを伝えるためもあって、遊びに来たんだ。ツインボーカルの返事も遅れるそうだ。取り消しにはならない。慌てて対応しているからだ」

 久弥はギタリストながら、ソロで歌うと人気が出たし、男性ファンが多くて根強いものがあると聞く。同性に好かれるのは強みだ。女性ファンがコンサートに来づらい欠点があるが、久弥のファンは気にしない人が多い。気軽に近くの人と笑い合って盛り上がるから、EMIRIは面白くないのか。女性からキャーキャー言われているのに。

 ともかくも、バンド名を考えておく必要がある。縁起が悪いから、他の候補を考えていなかった。IKU側は持っているかもしれない。念のために聞いておこう。

「他の名前の候補を考えているのかな?いざという時のために」
「もちろんだ。差し替えが可能なように、段取りは済んである。そのバンド名を使うか?”District side Zero ”だ。俺が考えていたものだ」
「変えたくないけど、駄々をこねても進ないもんね」
「……ゆうちゃんの方から説明して貰えないか?」
「いいよ」

 早瀬が思案顔になり、IKUと相手のレコード会社との事情を話し始めた。話し合いをしているそうだ。ということは、真っ向から負けていないのか?”話し合い”というレベルだからだ。

「権利を譲ってやると話がきた。スカイレール・レコードっていう会社が、権利を持っている。EMIRIじゃなかった。かなりの金額だったから、言いなりになるのは避けておく。後々のトラブルの種は消えないし、既にバンドがデビューした。要求をのむと面倒くさい。島川さんが本気を出せば解決する問題でもない」

 すると、久弥が蔵之介さんの元へ行き、何か話し始めた。背中におぶさって、駄々をこねている。今の久弥には必要なぬくもりだから、微笑ましく思った。
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