森林の星空少年~あの日のメエメエ

夏目奈緖

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 ザーーー、キュ……。

 手を洗い終えてリビングに戻った。一台のコタツテーブルを囲んでいる3人が、今日のおやつも美味しいねと話していた。和気あいあいとした姿を見られて嬉しい。なんと胸までキュンとした。

「佐伯くーん。どうぞーー」
「……」

 羽音さんがホットケーキをフォークで取り、久弥の口元に持っていった。久弥は抵抗できるはずもなく、素直に頂きますと言いながら口を開けた。俺は開いた口が塞がらない。蔵之介さんにまでやり始めたからだ。

「伊神先輩。食べてください」
「いい。自分で食べる」
「あーーん」
「あーーんはしない」
「そうですか。僕のホットケーキが食べられないんですか?」
「たちの悪い酔っぱらいか?」

 蔵之介さんが冷静にスルーして、久弥にホットケーキを差し出した。つまりは、俺の久弥に手を出すなと言いたいのだろう?子供じみているようでそうでない。胸がキュンとするシーンである。

 俺と早瀬も食べさせ合っている。オムレツ、グラタン、スイーツ類も。蔵之介さんのように、誰かに対してけん制されてみたい。

「だめだだめだめだめだーー。クールな男としてはNG行為だーー」
「ぎゃははは。ゆうとー、どんな背徳行為をしたんだーー?」
「うひぇーー?ハイトクって?」
「自分で調べてみろ。ええ?羽音さんが教えるって?やめてください!ゆうちゃんから叱られる!」
「げえええっ。力自慢をするなよーー」

 どうしよう?久弥から抱きかかえられてしまった。しかも、久弥の膝の上という状況まで迎えた。あの選手権大会と同じだ。今日は久弥の膝の上に座っている。なんとも格好の悪いことだ。

「だめだだめだ……。君とはバンドメンバーという関係なんだ。こういうことをされたら困るんだーー」
「こっちは困らない。だめだだめだ。こっちに来い!」
「ひいいいいっ。男らしいところを見せるなよーー」

 ぐっと両腕に力が込められて、俺を膝の上に座らせたままで、2メートルも移動されてしまった。スムーズに。いかに自分が華奢な体型なのかを思い知らされた。

 こうして抱き上げられている状況下にて、久弥には程よい筋肉がついていることを知った。胸元に頬がくっついているから分かる。好きでやっていない。

「ゆうとー。ゆうちゃんが来るまでだ。何か話してやる。何がいい?」
「ふむふむ。羽音さんが諦めてくれたよ?」
「そんなに膝の上に座るのが嫌なのか?俺の膝の……」
「もうーー、酔っぱらい状態みたいだよ!」
「モウモウ言うとーー、牛になるぞーー?」
「メエメエさんだもん!……あああ」

 どうしよう?久弥と愛の言葉を交わしそうになった。息をするのを忘れそうだ。斜め後ろで羽音さんが笑っている。正面を向いたら、久弥の身体がある。このままだと身体が毒されそうである。そうだ、レモン石鹸を売っている店を聞こうではないか。

 リーーン、リーーン。

 すると、天の助けがきた。蔵之介さんが立ち上がってモニターを確認すると、待ち焦がれていた早瀬が到着したと分かった。この状況でも問題ない。助け出してもらえる。いや、男ならば、自分の力で対処すべきである。
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