森林の星空少年~あの日のメエメエ

夏目奈緖

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25-10

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 12時。

 レストラン・サガンにやってきた。こじんまりとした一軒家風のレストランを想像していたが、大きな店だったから驚いた。二棟あり、間にウッドデッキの中庭がある。そこにはテラス席があり、犬が椅子のそばに座っていた。

「ふむふむ。テラス席はペットも利用できるんだねーー。今日は良い天気だから、犬のお客さんが多いね!」
「ああ。開放感があっていい。この店のおすすめは、オムレツランチだそうだ」
「ほお。しばらく裕理さんが作る以外のオムレツを食べていなかったから、食べてみたいなーー」
「それならオーダーは決まったな」

 早瀬が店の位置口においてあったメニューを広げた。写真付きで詳しい。どれも美味しそうだ。オムレツランチは今月の月替わりメニューだ。サラダとスープがついている。デザートはカボチャのムースだ。

「ほおーーー。カボチャのムースがデザートだよ!ますますこれにしたいなあ」
「まるで君の好みを知っているかのようなセレクトだ。六槍君。もしかしてそうなのかな?」
「はい。社長から悠人君の好みを聞いてありましたので。あ、社長……」
「うひぇ?カズさん、どうしたの?」

 どうしよう?カズさんが姿勢を低くして、六槍さんの後ろに隠れ始めた。会いたくない人が居るということか。カズさんは業界で嫌われていたから、そういう相手は結構多い。今のナチュラルカズさんは味方が多いが、人の印象と、されたことはいつまでも覚えられている。

「カズさん。会いたくない人が居るの?」
「ああ、水端みずはた君だ。繊維業界の会社で勤務している取引先だ。そこの会社の社長の弟だ」
「ふむふむ。デザイナー兼副社長なんだね。会釈だけしておけば?」
「ああーーー、しまった!こっちに気がついた!」
「社長。僕が代わりに挨拶してきます!」

 なんと、六槍さんが水端さんの元に駆けていった。そして、その人の前に立ち、挨拶を始めた。仕事上でのことで会いたくない人だったのだろう。真面目に仕事をしている証でもある。敵というのはいるものである。健吾さんがそう教えてくれた。

「ふむふむ。カズさん。かくかくしかじかだよ。気を落とすことも隠れることもないよ。堂々としていようよ。あれ?なにか揉めて居るみたいだね……」
「ああーーー、しまった!あの時、六槍君に止めてもらったんだった!彼のことを恨んでいるかも知れない」
「何があったの?」
「会食の席の後で、水端君からナンパされたんだ。しかし、僕はそういうことをやめようと思っていたから、付き合いを断って、気まずくなった。それまでの僕は浮名を流していた男だったからだ」
「ふむふむ。誰にも誘いを掛けない時期があったね。たしか、10日間ぐらいだったよ。そのレア期間に見事入った人なんだね」
「そういう人は、あと2人いる。しつこかったから、六槍君が適当に用事を見つけて止めてくれたんだ。ランチの会食だったから、この後で用事があると口実を付けてくれた」
「ふむふむ。まずい展開だなーーー」

 どうしよう?六槍さんのことをねちっこい目で水端さんが見ている。そこで、カズさんが自分が行くと言い出したから、俺も付いていくことにした。すると、早瀬から止められた。

「悠人君。待て。あの人はTDDに関わっている人だ。君は行かない方が良い」
「そうなんだね。あ、水端さんか。たしかに、名前を覚えているよ」
「そうだろう。そこで、俺が島川さんを連れて行くから、君はここで待っていなさい。はいはい。ワンちゃんが君を見ているよ。キャリーケースの中には猫ちゃんがいる。こんにちは」
「こんにちはーー」

 早瀬が微笑みながら声をかけた女性のお客さんから微笑み返しがされた。犬も俺を見て笑っている。猫も俺の匂いを嗅いでいる。紅茶達の匂いが残っているのだろう。

 そういうわけで、ここにいるお客さんのそばで待っていると、早瀬がカズさんのことを水端さんのところに連れて行った。そして、場を取りなしてくれた。六槍さんが困っていたところへ援軍がきて、水端さんとしても取りなされるしかないのだろう。

「ふむふむ。俺は耳が良いから会話が聞こえるなあ」

 会話はこういうものだった。てっきり、六槍さんと2人で来たのかと思ったということだった。ところが、俺が一緒にいることで誤解が解けて、デートではないのだと分かって、気分が取り戻せたそうだ。

 そんなことまで言うということは、それまでカズさんがアプローチをしていたのだと察した。それで行動に移したらフラれたなんて気分が悪いだろう。さっきまでのねちっこい目は仕方が無いと言えよう。
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