森林の星空少年~あの日のメエメエ

夏目奈緖

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 その逸材がカレー鍋の前に立っている。これからまたカレーを小皿に注ぎ、味見をするためである。今度は下を火傷しないかと心配になった。そこで、お母さんが小皿にカレーを入れてくれた。

「島川さん。味見をお願いします」
「はい。……ああ、美味しい。フルーティーでピリッとした辛さがあります」
「良かったわ。成功したようです」
「ふむふむ。俺も味見をするよ」

 俺もカレー鍋の前に行き、小皿にカレーを入れた。そして、味見をした。すると、口の中でさっぱりとした辛さが広がった。甘みと辛さがあるカレーである。とても美味しい。

「お母さん。美味しいです!」
「そう。スパイスを入れて良かったわ。私も味見をしましょう。どれどれ……」
「ふむふむ。どうですか?」
「とても美味しいわ。バイクを暴走させたくなる辛さよりも、このぐらいがちょうど良いわ。食後の飲み物にはココアを用意しているの。なんと、数種類のスパイスとキノコが入ったココアなの」
「ほお。オタネニンジン、マカ、冬虫夏草、キノコ、ココアが入っているんですか……」
「そうなの。5種類のキノコがポイントで、元気になる成分だと言われているのよ。脳の活性化にも良くてって評判で、インスタで見て買いたくなって、取り寄せたのよ。まずは私が飲んでみて味を試してみたんだけど、美味しかったわ。スパイスも品質が良さそうだわ」
「ふむふむ。それは楽しみです。脳の活性化は重要なことです」
「そそっかしい人にもいいそうよ。集中力が途切れないスタミナがつくから、疲労回復にも良くて……。あ……」
「ふむふむ。そそっかしい人とは俺達のことですね。大丈夫です。言われ慣れています」
「あああ……」
「ふむふむ……」

 どうしよう?お母さんが狼狽えている。そこで、発想を変えて貰いたくなり、ご飯の炊き具合はどうかとたずねることにした。その質問に、お母さんが、あと5分だと答えた。早炊きモードで炊いているから早い。

「お母さん。この家の炊飯器はたしか、IKUの忘年会の景品でしたね」
「そうなのよ。久弥がクジを引いて、5等が当たったの。毎年防災セットが当たっていたから、新鮮な気分だったわ。猫印の炊飯器。これはもう作られていない品番だから、とても貴重で、大事に使わないといけないって思っているの」
「そうでしたね。たしか、設計者がマニアックすぎて、使っている材料費が高くなってしまったこともあって、生産を中止したとか……」
「そうなのよ。こだわり抜いた炊飯器だという事よ。どれもこだわりの品だと思うけど、生産中止と言われると、この炊飯器じゃないとダメだって事になったらどうしようかと思っているのよ。とても美味しく炊けるから……」
「ヒトメボレトボクも喜んでいるでしょう。プレミアム炊飯器に炊かれているのですから。おや?カズさん、どうしたの?」

 カズさんが炊飯器を前にしてスマホでメモを取っている。そこで聞いて見ると、久弥のために何か出来ないかということで、情報をインプットしているとのことだ。

「カズさん。何をしてあげるの?」
「この炊飯器は売っていないけど、お米なら手配できる。ヒトメボレトボクの米セットだ。玄米、白米だ。久弥君は玄米も食べるんだろう。そうですよね?」
「はい。久弥は何でも食べます。私がここに嫁いできたとき、久弥はとても良い子でした。しつけが厳しい感じがありました。うっうっ。本当は苦手な食べ物があるのに、そういうことを感じさせないように美味しいって言っていたんです。うっうっ。私がこの家で始めて作ったのは肉じゃがでしたが、決して美味しいとは言えないと思うんですけど、お母さん、美味しいよって言ってくれたんです。うっうっ。良い子で……。わーーーーん!」
「お母さん。大丈夫ですよ。久弥は立派に成人しました。お母さんの料理だって、当時から本当に美味しかったに決まっています」
「そうですよ。久弥君は良い子です」

 俺とカズさんとでお母さんの背中をさすった。すると、久弥がキッチンにやって来た。お母さんが泣いているから気がついたのだろう。なんという親子愛であろうか。
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