森林の星空少年~あの日のメエメエ

夏目奈緖

文字の大きさ
709 / 869

31-19

しおりを挟む
 さて、晩ご飯を食べることになった。久弥の隣に早瀬が座っている。俺の隣がカズさんである。きっと栗ご飯をぽろぽろこぼすだろうと思って、布巾を用意してある。彼はおっちょこちょいであり、不器用だから、ご飯を食べるときには必ずこぼしてしまう。黒崎家の中では馴染みの光景であり、夏樹と一緒に食べているときは彼が後始末をしてやっているそうだ。夏樹がいないときはこぼしたご飯を片付けてくれるのはお手伝いさんだ。なんだかそれは悪い気がするとは言っていた。だから、ご飯をこぼさすに食べたいと言っている。しかし、今夜もこぼすのだろう。

「カズさん。ご飯をこぼしても良いからね。失敗したらだめだって思ったら、ますます失敗するものだよ」
「ああ。でも、今夜は大丈夫な気がしている。ははは。さあ、頂くとするよ」
「ふむふむ。今夜の貴方は落ち着いているね。きっと大丈夫だね。ん?うひぇ?挨拶しないの?」
「ははは。僕の挨拶は長いから、もうしない」
「うひぇーーー?」

 どうしよう?カズさんと言えば、いただきますの挨拶である。あの長い口上を聞かないと食べた気がしないほど馴染んでいるのに。毎回必ず挨拶していたのに、しないのか。いつものカズさんでは無い。島川社長はしないのか。

「カズさん。本当にいつもの貴方じゃ無いみたいだね」
「ははは。僕は会社ではこうなんだ。会食の時も挨拶しない。普通に振る舞っている」
「ほお。いつもは普通じゃない自覚があったんだね。えらいよ」
「ぐさ……」
「ほお?」
「普通じゃないと言われるのがツラいんだ。ははは。僕は完璧でありたい」
「あああ……。ごめんね」
「いや、いいんだ。僕はおかしな男だろう。大人と子供に別れているんだ。そこから、君の前に現われているカズさんという男まで出てきた。それが本来の僕だとは言える。プラセルの社長として振る舞うときにもカズさんは出てくるが、ほとんど大人の僕だ」
「ふむふむ。プラセルを動かしていかないといけないもんねーー。栗ご飯の味はどう?」

 どうしよう?カズさんが普通すぎてついて行けない。そこで、料理の味を聞くことにした。彼は今、栗ご飯を食べている。こぼすことなんてなくて、美しい箸の持ち方をして、美しい作法で食べている。会食の時は今の姿なのだろう。食事のマナーまで変わるとは、人格が分かれているというのは奥が深いと思った。

「おいしいよ。塩加減がちょうどいい」
「裕理さん。そうだって。よかったね!」
「ああ。島川さん。しょうが焼きも食べてくれ。野菜を食べるという本に出ていたレシピだ。スライスしたタマネギも一緒に焼いてある。付け合わせのキャベツはジェネレーションギャップで買ってきた物だ。あそこのキャベツは美味しい。栗も買えたから良かった。久弥、栗ご飯の味はどうだ?」
「うまい。それにしてもタマネギだらけだな。美味いからいくらでも食べられる」
「ふむふむ。1人1個だよ」

 早瀬が作ったしょうが焼きのレシピには、一人前に対して1個分のスライスしたタマネギを使うことになっている。これがタレによく絡み、ご飯が進む設計である。野菜不足解消にという本の帯にあるとおり、本の中のレシピには野菜をふんだんに使った料理が載っていた。カズさんは野菜が好きだからと、早瀬が買ってきた本だ。それをカズさんに話すと喜んでくれた。そして、早瀬のことを見つめ始めた。

「島川さん。やめてくれ」
「見つめているだけだ」
「うひぇーーー」

 早瀬から苦情が上がった。そして、カズさんが向かいから手を伸して、早瀬の手を握った。そして、言った。少なからず僕のことを想ってくれているんだなと。それはキメ顔といえるものだった。こうして恋のハンティングをしてきたのだろう。早瀬にとっては懐かしい姿のようだ。今の姿で濃厚なキッスをされたのだから。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
 漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。  漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。  陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。  漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。  漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。  養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。  陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。  漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。  仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。  沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。  日本の漁師の多くがこの形態なのだ。  沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。  遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。  内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。  漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。  出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。  休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。  個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。  漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。  専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。  資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。  漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。  食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。  地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。  この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。  もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。  翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。  この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

ハンターがマッサージ?で堕とされちゃう話

あずき
BL
【登場人物】ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ハンター ライト(17) ???? アル(20) ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 後半のキャラ崩壊は許してください;;

借金のカタに同居したら、毎日甘く溺愛されてます

なの
BL
父親の残した借金を背負い、掛け持ちバイトで食いつなぐ毎日。 そんな俺の前に現れたのは──御曹司の男。 「借金は俺が肩代わりする。その代わり、今日からお前は俺のものだ」 脅すように言ってきたくせに、実際はやたらと優しいし、甘すぎる……! 高級スイーツを買ってきたり、風邪をひけば看病してくれたり、これって本当に借金返済のはずだったよな!? 借金から始まる強制同居は、いつしか恋へと変わっていく──。 冷酷な御曹司 × 借金持ち庶民の同居生活は、溺愛だらけで逃げ場なし!? 短編小説です。サクッと読んでいただけると嬉しいです。

イケメンオジイついに交際したことを忘れる

彩根梨愛
BL
天然雰囲気冴えない系イケメンの高校生、綾野蒼に知らん間に彼氏が出来ていた話。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

処理中です...