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ガラス窓の向こうでは、午後の日差しがゆっくりと傾き、街を黄金色に染めていた。安全祈願の余韻がまだ残る中で、それぞれの胸に小さな火が灯っている。俺はそんなことを考えながらコーヒーを飲み、カズさん達の様子を観察した。すっかりリラックスムードのカズさんに、朝陽のことをじっと見つめる六槍さん、見つめられて恥ずかしそうにする朝陽である。
「ふむふむ。今日は会食でお腹が張ったねーー。裕理さんが迎えに来るまで、ここで待たせてもらうよ」
「ああ、もちろんだ。花森亭へ行こうと誘いたかったところだ。彼の好みの天丼がリニューアルした。衣がサクサクでおいしかった」
「ほおーーー。ところで、そこに置いてある陶器は花森デザインのものだよね。親戚なのかな?」
「ああ、そうらしい。花森一族だ。陶器コレクションを扱っていた一族から蕎麦屋が誕生した。おじいさんの代だそうだ」
「ふむふむ。両方老舗だね」
「ああ、美意識が詰まった家だ」
そう言いながら、カズさんは机の上の小さな陶器を手に取り、光にかざした。透けるような青磁の色が、午後の光を受けて淡く輝く。その美しさにうっとりしながら、カズさんがこれも素敵だとつぶやいた。机の上のネクタイを取りながらだった。
「うひぇ?それ、裕理さんのネクタイじゃないの?」
「ああ、そうだ。うちのユリウスが気に入ったからもらったんだ。おもちゃにしたり、ハンモックに入れて一緒に寝たりしている。僕と同じく裕理君のことが好きだし、ネクタイも好きだ。今日は家にいるから、僕が持っている。いや、ユリウスから取り上げたわけじゃない。ネクタイはもう一本ある。それをユリウスに渡してある。ああーーー、裕理君のぬくもりが伝わってくるようだ」
「ふむふむ。あんなに木田さんに熱烈アピールしていたのに、いなくなったらすぐこれだもんねーー」
「違うよ。僕は本気で木田さんを尊敬している」
「ふむふむ。尊敬の延長線上に恋があるんだねーーー」
「ああ、恋をした。年上の人はいいな。落ち着いていて、包み込むような感じがある」
カズさんの顔はほんのり赤い。神主という人に恋をしてから、どうにもピュア路線を突き進んでいるらしい。俺はコーヒーをすすりながら心の中で藤沢のことを思った。
「藤沢のことは諦めたの?」
「ああ……」
俺からの問いに、カズさんの動きが止まった。そして、少し寂しそうに笑った。
「ああ……。何度話しても、いい返事はもらえなかった。僕のことを信じきれなかったんだろう。今までの僕の言動のせいだな」
「ふむふむ……」
「ああ……。僕には縁がなかったと言うしかないだろう」
「そんなに落ち込まないでーーー。ぎゅーーーー」
どうしよう?カズさんが落ち込んでいる。今まで数々の浮名を流してきた彼のことでは、藤沢は慎重になっているのだろう。そこで、カズさんはとうとう諦めたのだろう。木田さんという人が現れて、心を奪われて、ファンになっている。カズさんは新しいステージを歩いているのかもしれない。そして、カズさんの泣きそうになっている呼吸が落ち着いたころ、そっと体を離した。カズさんは真剣な顔になっている。
「僕は木田さんの言葉に救われた気がしたんだよ」
「言葉?」
「“恋は清めるものじゃなく、磨くものです”って言っていた。あれがなんだか心に刺さったんだ。僕みたいな人間でも、誰かを想って変われるかもしれないって」
そう言って、カズさんはカップを持ち上げ、光の中でその中身を覗いた。まるでコーヒーの中に、何かを見つけようとしているようだった。もじもじしている。ぐすんという声も聞こえる。しかし、いさぎよい感じもあり、気持ちがいいと思った。
「ふむふむ。カズさん、今日だけはちょっとだけカッコいいねーーー」
「そうだろうか?」
「はいはい。でも、恋に効く薬は“反省と時間”だよーー」
「名言が出たな」
そんな軽口を交わす中、俺たちのそばでは六槍さんと朝陽が静かに視線を交わしていた。外の光がだんだんと赤く染まり始め、ビルのガラスから入る光に、二人の影が寄り添うように見えた。そして、六槍さんが、ふっと口を開いた。
「……朝陽君。今日は駅まで一緒に帰ろう。今の君は落ち着いていない。お酒も少し飲んでいるし」
「うん。もう酔いはさめたけど、気を付けないといけないね」
「無理はしないで。何かあったら、必ず僕に言って」
「……うん」
その短いやり取りの中に、六槍さんの優しさと朝陽への気持ちが込められていた。六槍さんの瞳が静かに光り、朝陽の頬がわずかに赤く染まる。俺はその光景を横目に、カズさんの空になったカップをテーブルに戻した。
どうやら、今日の本社は“恋と余韻”で満たされているらしい。ガラス窓の向こうでは、もう夕陽が街を包み込み始めていた。その光が社長室の壁に反射し、まるで新しい一日の祈りを告げているように見えた。
「ふむふむ。今日は会食でお腹が張ったねーー。裕理さんが迎えに来るまで、ここで待たせてもらうよ」
「ああ、もちろんだ。花森亭へ行こうと誘いたかったところだ。彼の好みの天丼がリニューアルした。衣がサクサクでおいしかった」
「ほおーーー。ところで、そこに置いてある陶器は花森デザインのものだよね。親戚なのかな?」
「ああ、そうらしい。花森一族だ。陶器コレクションを扱っていた一族から蕎麦屋が誕生した。おじいさんの代だそうだ」
「ふむふむ。両方老舗だね」
「ああ、美意識が詰まった家だ」
そう言いながら、カズさんは机の上の小さな陶器を手に取り、光にかざした。透けるような青磁の色が、午後の光を受けて淡く輝く。その美しさにうっとりしながら、カズさんがこれも素敵だとつぶやいた。机の上のネクタイを取りながらだった。
「うひぇ?それ、裕理さんのネクタイじゃないの?」
「ああ、そうだ。うちのユリウスが気に入ったからもらったんだ。おもちゃにしたり、ハンモックに入れて一緒に寝たりしている。僕と同じく裕理君のことが好きだし、ネクタイも好きだ。今日は家にいるから、僕が持っている。いや、ユリウスから取り上げたわけじゃない。ネクタイはもう一本ある。それをユリウスに渡してある。ああーーー、裕理君のぬくもりが伝わってくるようだ」
「ふむふむ。あんなに木田さんに熱烈アピールしていたのに、いなくなったらすぐこれだもんねーー」
「違うよ。僕は本気で木田さんを尊敬している」
「ふむふむ。尊敬の延長線上に恋があるんだねーーー」
「ああ、恋をした。年上の人はいいな。落ち着いていて、包み込むような感じがある」
カズさんの顔はほんのり赤い。神主という人に恋をしてから、どうにもピュア路線を突き進んでいるらしい。俺はコーヒーをすすりながら心の中で藤沢のことを思った。
「藤沢のことは諦めたの?」
「ああ……」
俺からの問いに、カズさんの動きが止まった。そして、少し寂しそうに笑った。
「ああ……。何度話しても、いい返事はもらえなかった。僕のことを信じきれなかったんだろう。今までの僕の言動のせいだな」
「ふむふむ……」
「ああ……。僕には縁がなかったと言うしかないだろう」
「そんなに落ち込まないでーーー。ぎゅーーーー」
どうしよう?カズさんが落ち込んでいる。今まで数々の浮名を流してきた彼のことでは、藤沢は慎重になっているのだろう。そこで、カズさんはとうとう諦めたのだろう。木田さんという人が現れて、心を奪われて、ファンになっている。カズさんは新しいステージを歩いているのかもしれない。そして、カズさんの泣きそうになっている呼吸が落ち着いたころ、そっと体を離した。カズさんは真剣な顔になっている。
「僕は木田さんの言葉に救われた気がしたんだよ」
「言葉?」
「“恋は清めるものじゃなく、磨くものです”って言っていた。あれがなんだか心に刺さったんだ。僕みたいな人間でも、誰かを想って変われるかもしれないって」
そう言って、カズさんはカップを持ち上げ、光の中でその中身を覗いた。まるでコーヒーの中に、何かを見つけようとしているようだった。もじもじしている。ぐすんという声も聞こえる。しかし、いさぎよい感じもあり、気持ちがいいと思った。
「ふむふむ。カズさん、今日だけはちょっとだけカッコいいねーーー」
「そうだろうか?」
「はいはい。でも、恋に効く薬は“反省と時間”だよーー」
「名言が出たな」
そんな軽口を交わす中、俺たちのそばでは六槍さんと朝陽が静かに視線を交わしていた。外の光がだんだんと赤く染まり始め、ビルのガラスから入る光に、二人の影が寄り添うように見えた。そして、六槍さんが、ふっと口を開いた。
「……朝陽君。今日は駅まで一緒に帰ろう。今の君は落ち着いていない。お酒も少し飲んでいるし」
「うん。もう酔いはさめたけど、気を付けないといけないね」
「無理はしないで。何かあったら、必ず僕に言って」
「……うん」
その短いやり取りの中に、六槍さんの優しさと朝陽への気持ちが込められていた。六槍さんの瞳が静かに光り、朝陽の頬がわずかに赤く染まる。俺はその光景を横目に、カズさんの空になったカップをテーブルに戻した。
どうやら、今日の本社は“恋と余韻”で満たされているらしい。ガラス窓の向こうでは、もう夕陽が街を包み込み始めていた。その光が社長室の壁に反射し、まるで新しい一日の祈りを告げているように見えた。
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