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本殿でのお参りを終えた俺たちは、境内の奥へと進んだ。参道の先に、ひときわ光を反射する丸い石が見える。これが、久木田神社の名物、“恋磨の石”である。表面はつややかに磨かれ、陽の光を受けて金色に輝いている。まるで息をしているかのように、やわらかく温かい光を放っていた。
「ふむふむ。ここが噂の恋磨の石だねーーー」
「パンフレットにあったやつだね。好きな人を思い浮かべながら触れると、心の曇りが晴れるという石だ」
「へぇ……。ロマンチックだな」
朝陽が照れ笑いをし、六槍さんがその様子を優しく見つめている。その視線があまりにも穏やかで、俺と早瀬は同時に“ふむふむ”と小声でつぶやいた。もはや恋愛観察ツアーのようである。
そんなとき、後ろからゆったりとした足音が近づいてきた。白い装束の裾がふわりと揺れている。光を受けて輝くその姿は、まるでこの神社の空気と同化しているようだった。
「皆さま……。ようこそ、“恋磨の石”へ」
木田さんである。穏やかな笑みを浮かべて、俺たちの方へ歩いてきた。朝陽が慌てて頭を下げ、六槍さんと早瀬もにこやかに会釈を返した。さっそく俺も挨拶しよう。
「木田さん。こんにちは!」
「皆さん。先日はお世話になりました。……今日は島川社長はご一緒ではないんですね?昨日の電話では、今日はここに来るとおっしゃっていたのに」
「はい。今日は珍しくおとなしくしてるんですよーーー」
俺が答えると、木田さんはくすりと笑った。カズさんがここにいないだなんて、奇跡的だと俺は思っている。木田さんがいる神社になら、何が何でも来るはずだ。しかし、今日は来られなかった。腰痛が起きたからである。
「島川社長がいない日というのは、久しぶりに静かな風が吹きますね」
「ですよねーーー。普段は情熱の暴風ですから」
「ははは。情熱もまた、神の火です。燃やすことを恐れてはいけません。……ああ、腰痛なんですか。後でラインをお送りします。大変ですね」
「カズさんの情熱が過ぎてしまい、神様にストップをかけられたのだと思います」
「ははは。そんなことはないと思いますよ」
そう言って木田さんは、恋磨の石の前に立ち、手を合わせた。風がふわりと吹き抜け、石の周囲に落ちていた葉が舞い上がる。その光景を見て、朝陽が小さく息をのんだ。神秘的だと言って。
「この石には、“想いを磨く力”があると言われています。想いが濁るとき、人は迷い、苦しみます。けれど、それを清めるのではなく、磨く。誰かを想う気持ちが、人を優しくするのです」
木田さんの声が、風とともに境内に広がった。六槍さんと朝陽は、顔を見合わせた。まるでその言葉に、互いの想いが映し出されたかのようだった。そこで、六槍さんが小さく呼びかけた。朝陽君と。
「どうしたの?」
「さっきの塩のこと、ありがとう。……僕、もう大丈夫だと思う」
その言葉に、朝陽がふっと笑った。
「うん。乗り越えたね」
二人の笑顔がやわらかく交わった瞬間、木田さんが目を細めた。
「よいですね。神様も、きっと微笑んでおられます」
「ふむふむ。恋守稲荷の神様も恋バナが好きなんですねーーー」
「そうかもしれませんね。恋は、人を磨く“祈り”そのものです」
「じゃあ、今の二人は祈りの最中ですねーー」
「そうです。……そして、あなた方もですよ」
木田さんがこちらを見て、静かに微笑んだ。穏やかで、しかし、どこか鋭い眼差しである。まるで心の奥まで見透かされているようだった。
「……ふむふむ。俺たちは出来上がっているけど、初々しい感じも欲しいよねーー」
「遅いよ、悠人君。もう熟している」
「へへへ。何でも話し合っているもんねーー。ん?うひぇ?これは……」
すると、恋磨の石の上を小さな光がすべった。まるで、白い狐が駆け抜けたように見えた。風が鈴を鳴らし、木田さんの装束がふわりと舞う。
「稲霊恋守の神が、あなた方を歓迎しておられるようです。恋も友情も、信頼も、磨けば輝きます。どうぞ、恐れずに、それぞれの想いを、大切にしてください。社務所でお茶をお入れします。後でお越しになってください」
その言葉を残して、木田さんは社務所の方へと戻っていった。残された俺たちは、しばらくその背中を見送った。境内に、光の粉のような風が舞っている。
「ふむふむ。あの人、やっぱりただの神主さんじゃないねーー」
「たぶん、恋の神の代理人だな」
「……だよねーーー」
俺はそうつぶやくと、六槍さんと朝陽が並んで石に手を合わせ始めた。その姿は、まるで新しい縁を祝福されているようだった。
「ふむふむ。ここが噂の恋磨の石だねーーー」
「パンフレットにあったやつだね。好きな人を思い浮かべながら触れると、心の曇りが晴れるという石だ」
「へぇ……。ロマンチックだな」
朝陽が照れ笑いをし、六槍さんがその様子を優しく見つめている。その視線があまりにも穏やかで、俺と早瀬は同時に“ふむふむ”と小声でつぶやいた。もはや恋愛観察ツアーのようである。
そんなとき、後ろからゆったりとした足音が近づいてきた。白い装束の裾がふわりと揺れている。光を受けて輝くその姿は、まるでこの神社の空気と同化しているようだった。
「皆さま……。ようこそ、“恋磨の石”へ」
木田さんである。穏やかな笑みを浮かべて、俺たちの方へ歩いてきた。朝陽が慌てて頭を下げ、六槍さんと早瀬もにこやかに会釈を返した。さっそく俺も挨拶しよう。
「木田さん。こんにちは!」
「皆さん。先日はお世話になりました。……今日は島川社長はご一緒ではないんですね?昨日の電話では、今日はここに来るとおっしゃっていたのに」
「はい。今日は珍しくおとなしくしてるんですよーーー」
俺が答えると、木田さんはくすりと笑った。カズさんがここにいないだなんて、奇跡的だと俺は思っている。木田さんがいる神社になら、何が何でも来るはずだ。しかし、今日は来られなかった。腰痛が起きたからである。
「島川社長がいない日というのは、久しぶりに静かな風が吹きますね」
「ですよねーーー。普段は情熱の暴風ですから」
「ははは。情熱もまた、神の火です。燃やすことを恐れてはいけません。……ああ、腰痛なんですか。後でラインをお送りします。大変ですね」
「カズさんの情熱が過ぎてしまい、神様にストップをかけられたのだと思います」
「ははは。そんなことはないと思いますよ」
そう言って木田さんは、恋磨の石の前に立ち、手を合わせた。風がふわりと吹き抜け、石の周囲に落ちていた葉が舞い上がる。その光景を見て、朝陽が小さく息をのんだ。神秘的だと言って。
「この石には、“想いを磨く力”があると言われています。想いが濁るとき、人は迷い、苦しみます。けれど、それを清めるのではなく、磨く。誰かを想う気持ちが、人を優しくするのです」
木田さんの声が、風とともに境内に広がった。六槍さんと朝陽は、顔を見合わせた。まるでその言葉に、互いの想いが映し出されたかのようだった。そこで、六槍さんが小さく呼びかけた。朝陽君と。
「どうしたの?」
「さっきの塩のこと、ありがとう。……僕、もう大丈夫だと思う」
その言葉に、朝陽がふっと笑った。
「うん。乗り越えたね」
二人の笑顔がやわらかく交わった瞬間、木田さんが目を細めた。
「よいですね。神様も、きっと微笑んでおられます」
「ふむふむ。恋守稲荷の神様も恋バナが好きなんですねーーー」
「そうかもしれませんね。恋は、人を磨く“祈り”そのものです」
「じゃあ、今の二人は祈りの最中ですねーー」
「そうです。……そして、あなた方もですよ」
木田さんがこちらを見て、静かに微笑んだ。穏やかで、しかし、どこか鋭い眼差しである。まるで心の奥まで見透かされているようだった。
「……ふむふむ。俺たちは出来上がっているけど、初々しい感じも欲しいよねーー」
「遅いよ、悠人君。もう熟している」
「へへへ。何でも話し合っているもんねーー。ん?うひぇ?これは……」
すると、恋磨の石の上を小さな光がすべった。まるで、白い狐が駆け抜けたように見えた。風が鈴を鳴らし、木田さんの装束がふわりと舞う。
「稲霊恋守の神が、あなた方を歓迎しておられるようです。恋も友情も、信頼も、磨けば輝きます。どうぞ、恐れずに、それぞれの想いを、大切にしてください。社務所でお茶をお入れします。後でお越しになってください」
その言葉を残して、木田さんは社務所の方へと戻っていった。残された俺たちは、しばらくその背中を見送った。境内に、光の粉のような風が舞っている。
「ふむふむ。あの人、やっぱりただの神主さんじゃないねーー」
「たぶん、恋の神の代理人だな」
「……だよねーーー」
俺はそうつぶやくと、六槍さんと朝陽が並んで石に手を合わせ始めた。その姿は、まるで新しい縁を祝福されているようだった。
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