767 / 868
33-21
しおりを挟む
さて、料理が来るまでの時間、俺たちは湯呑みを手にしてのんびりした。木の香りがする落ち着いた店内で、朝陽と六槍さんは自然と肩を寄せ合っている。席の配置がそうなっているのだが、それだけではない。“縁の大木”を通った後の二人は、どこか距離が近い。
「朝陽君、足、冷えてない?ここ、空調が当たりやすいから……」
六槍さんがそっと朝陽の膝のあたりに視線を落とし、控えめに声をかけた。距離がやけに近い。膝と膝が触れそうだ。
「え?大丈夫だよ。あったかいし」
「そう。なら、いいんだけど……。あの、もし冷えてきたら、言ってね。僕、温かい飲み物のおかわりをもらってくるから」
「ふむふむ……」
どうしよう?完全に“恋人に向ける気遣い”である。焦らずに見守ると言われたばかりなのに、もう突っ走りそうな気配がする。
「ありがとう、六槍君。優しいね」
朝陽がにこっと笑った。その笑顔を正面から食らった六槍さんが微笑み返しをした後、朝陽の肩についた埃を取った。そのしぐさは自然でありながら、心に秘めたものがあるという感じがした。
カタン。俺が見守っていると、和食定食が届いた。美味しそうだねと早瀬と話し、木田さんとも話しながらも、俺は斜め前で起きている恋模様から目を離せない。
焼き魚の香りがほどよく漂う中、六槍さんは湯呑みを指先で触りながら、獲物を狙う大型猫のように朝陽を見つめていた。朝陽の方は、五穀米のおひつを見て、わあ、いい匂いと、無邪気に目を輝かせている。完全に警戒心ゼロだ。その油断した横顔に、六槍さんがすっと身を寄せた。
「……朝陽君。さっきの“未来が明るくなりますように”の願い……、まだ続いているんだよ」
「え?まだ祈ってるの?」
「うん。ずっと。……君の横顔を見るたびに強くなる」
どうしよう?語尾がやけに低くて甘い。俺は思わず湯呑みを鼻にくっつけそうになった。しかし、朝陽は、そんな色気たっぷりの声色にもまったく気づかない。
「そっか。ありがとう、六槍君。今日は本当に優しいね」
しれっと返す朝陽の無防備さである。六槍さんは、その“天然クリティカル”をまともに食らい、喉元を押さえた。
「……朝陽君。君に“優しい”と言われたら、それだけで、今日一日が報われるよ」
「え?そんなに?」
「そんなに。……想像以上に」
ねっとりである。湿度120%である。恋の神社の効果が完全に六槍さんの中で暴走している。すると、早瀬がそっと俺の袖をつついた。
「悠人君……。六槍君、今日は本気モードだね……」
「ふむふむ。大木の気を吸いすぎたねーー。朝陽を溶かす気だよーー」
「溶かしちゃだめだよ」
そんな俺たちの小声をよそに、六槍さんはもう1センチ、いや、0.5センチ単位で距離を詰めていた。
「朝陽君。……君さえよければ、今日の帰り、一緒に歩かない?」
「え?歩くの?いいよ。どうせ駅までだし」
「違うんだ。……ただ歩くだけじゃなくて、“隣を歩きたい”」
「うん?それって同じじゃない?」
朝陽よ。そこは違う。恋の告白の初期段階の入り口だ。六槍さんは、今にも告白しそうな熱い目で朝陽の手元を見つめた。朝陽が箸袋を指でくるっと丸めるという、それだけの動作にも息を呑んでいる。
「朝陽君の仕草って……、どうしてこう、惹かれるんだろう」
「あ、緊張してる?俺、箸の持ち方、変だった?」
「いや、違う。そうじゃない……。君が何をしても、目が離せなくなる」
ねっとりが限界突破した。朝陽はぽかんとし、六槍君って細かいなあと言って笑った。細かいどころではない。これはもう“恋を仕掛ける大型肉食獣”のまなざしである。
「朝陽君、足、冷えてない?ここ、空調が当たりやすいから……」
六槍さんがそっと朝陽の膝のあたりに視線を落とし、控えめに声をかけた。距離がやけに近い。膝と膝が触れそうだ。
「え?大丈夫だよ。あったかいし」
「そう。なら、いいんだけど……。あの、もし冷えてきたら、言ってね。僕、温かい飲み物のおかわりをもらってくるから」
「ふむふむ……」
どうしよう?完全に“恋人に向ける気遣い”である。焦らずに見守ると言われたばかりなのに、もう突っ走りそうな気配がする。
「ありがとう、六槍君。優しいね」
朝陽がにこっと笑った。その笑顔を正面から食らった六槍さんが微笑み返しをした後、朝陽の肩についた埃を取った。そのしぐさは自然でありながら、心に秘めたものがあるという感じがした。
カタン。俺が見守っていると、和食定食が届いた。美味しそうだねと早瀬と話し、木田さんとも話しながらも、俺は斜め前で起きている恋模様から目を離せない。
焼き魚の香りがほどよく漂う中、六槍さんは湯呑みを指先で触りながら、獲物を狙う大型猫のように朝陽を見つめていた。朝陽の方は、五穀米のおひつを見て、わあ、いい匂いと、無邪気に目を輝かせている。完全に警戒心ゼロだ。その油断した横顔に、六槍さんがすっと身を寄せた。
「……朝陽君。さっきの“未来が明るくなりますように”の願い……、まだ続いているんだよ」
「え?まだ祈ってるの?」
「うん。ずっと。……君の横顔を見るたびに強くなる」
どうしよう?語尾がやけに低くて甘い。俺は思わず湯呑みを鼻にくっつけそうになった。しかし、朝陽は、そんな色気たっぷりの声色にもまったく気づかない。
「そっか。ありがとう、六槍君。今日は本当に優しいね」
しれっと返す朝陽の無防備さである。六槍さんは、その“天然クリティカル”をまともに食らい、喉元を押さえた。
「……朝陽君。君に“優しい”と言われたら、それだけで、今日一日が報われるよ」
「え?そんなに?」
「そんなに。……想像以上に」
ねっとりである。湿度120%である。恋の神社の効果が完全に六槍さんの中で暴走している。すると、早瀬がそっと俺の袖をつついた。
「悠人君……。六槍君、今日は本気モードだね……」
「ふむふむ。大木の気を吸いすぎたねーー。朝陽を溶かす気だよーー」
「溶かしちゃだめだよ」
そんな俺たちの小声をよそに、六槍さんはもう1センチ、いや、0.5センチ単位で距離を詰めていた。
「朝陽君。……君さえよければ、今日の帰り、一緒に歩かない?」
「え?歩くの?いいよ。どうせ駅までだし」
「違うんだ。……ただ歩くだけじゃなくて、“隣を歩きたい”」
「うん?それって同じじゃない?」
朝陽よ。そこは違う。恋の告白の初期段階の入り口だ。六槍さんは、今にも告白しそうな熱い目で朝陽の手元を見つめた。朝陽が箸袋を指でくるっと丸めるという、それだけの動作にも息を呑んでいる。
「朝陽君の仕草って……、どうしてこう、惹かれるんだろう」
「あ、緊張してる?俺、箸の持ち方、変だった?」
「いや、違う。そうじゃない……。君が何をしても、目が離せなくなる」
ねっとりが限界突破した。朝陽はぽかんとし、六槍君って細かいなあと言って笑った。細かいどころではない。これはもう“恋を仕掛ける大型肉食獣”のまなざしである。
0
あなたにおすすめの小説
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
BL 男達の性事情
蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、
多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。
日本の漁師の多くがこの形態なのだ。
沖合(近海)漁業という仕事もある。
沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。
遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。
内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。
漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
守り守られ
ほたる
BL
主治医 望月診療所の双子医師
患者 瀬咲朔
腸疾患・排泄障害・下肢不自由
看護師
ベテラン山添さん
準主人公 成海真幌 腸疾患・排泄障害・てんかん
木島 尚久 真幌の恋人同棲中
借金のカタに同居したら、毎日甘く溺愛されてます
なの
BL
父親の残した借金を背負い、掛け持ちバイトで食いつなぐ毎日。
そんな俺の前に現れたのは──御曹司の男。
「借金は俺が肩代わりする。その代わり、今日からお前は俺のものだ」
脅すように言ってきたくせに、実際はやたらと優しいし、甘すぎる……!
高級スイーツを買ってきたり、風邪をひけば看病してくれたり、これって本当に借金返済のはずだったよな!?
借金から始まる強制同居は、いつしか恋へと変わっていく──。
冷酷な御曹司 × 借金持ち庶民の同居生活は、溺愛だらけで逃げ場なし!?
短編小説です。サクッと読んでいただけると嬉しいです。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
俺以外美形なバンドメンバー、なぜか全員俺のことが好き
toki
BL
美形揃いのバンドメンバーの中で唯一平凡な主人公・神崎。しかし突然メンバー全員から告白されてしまった!
※美形×平凡、総受けものです。激重美形バンドマン3人に平凡くんが愛されまくるお話。
pixiv/ムーンライトノベルズでも同タイトルで投稿しています。
もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿
感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_
Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109
素敵な表紙お借りしました!
https://www.pixiv.net/artworks/100148872
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる