森林の星空少年~あの日のメエメエ

夏目奈緖

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 ところで、南波さんがぶかぶかのニットを着ている。ズボンもダボダボだ。動きづらくないだろうか。キャンプをするなら、もっと機敏に動ける服がいいだろうにと思っていると、俺の視線に気づいた南波さんが、くるっと一回転してみせた。

「ここの池に落ちたんだ。島川社長が片足を突っ込んでいて、僕が助けようと思ったら、僕まで落ちたんだよ」
「うひぇーーー!ケガはないの?」
「僕は無事だよ。でも、島川社長が去年骨折した場所を打ったって言うから心配でね」
「ふむふむ……。よくそうなるんだよ。あの人、動きにクセがあるからね。あれ?朝陽と夏樹は?」
「さっきまでここにいたんだけどな……」

 すると、その時、庭の端から聞き慣れた声がした。カズさんだ。腰痛を抱えた人のような歩き方だが、顔色は悪くない。隣にはユリウスさんがいて、彼に肩を貸しながら歩いてきていた。

「カズさん、痛くないの?」
「痛いよ。でも、悠人君が来るなら、出迎えないわけにはいかないだろう」
「ほおーー!嬉しいねーー!」

 俺が笑うと、カズさんはぐっと親指を立てた。しかし、その直後、ふっと俺の肩のあたりを凝視した。

「……ん?君、なにか……、ついてないか?」
「うひぇ?ついてるって何が?」
「いや……。薄い影みたいな……」

 背中を振り返ったが、誰もいない。ただ風が、ふわりと揺れただけだ。そこへ、夏樹が淡々とした声で言った。

「朝陽も、同じこと言ってたよ。さっき“影がついてる”って」

 その朝陽は、南波さんのキャンプ道具を運んでいるところだった。南波さん自身も手伝っている。夏樹の落ち着きすぎた声が、逆に怖い。

「ふむふむ……。俺、お祓いできないんだよねーー」
「任せろ。俺が取る」

 急にカズさんが真顔になった。普段はふざけてばかりなのに、こういう時だけ無駄に真剣である。俺の肩に手をかざすと、ふっと息を吹きかけた。

「どりゃーー!!」
「うひぇぇぇーーー!!?」

 勢いよく肩を払われ、俺は前のめりになった。

「はい、取れた」
「……え?取れたの?」
「ああ。さっきから君にまとわりついてた“寒気の影”みたいなのがあったんだ。悪いものじゃないけど、疲れさせるタイプだ。ここに来るまでに拾ったんだろう」
「ほおーー。お祓いだねーー」

「プロじゃないけどな。まあ……、気の問題だ。気の。うんうん」

 そこへ朝陽が、俺の袖をきゅっとつかんだ。

「悠人君……。さっきより軽い感じがするよ。なんか、ふわっと優しくなった」
「それはカズさんのお祓いのせいじゃない?」
「いやーー、優しくなったのは、俺のおかげじゃない。元からだよ」

 カズさんが笑い、早瀬が苦笑した。すると、ちょうどその時、キャンプテーブル付近で準備をしていた南波さんが、片手を振った。

「そろそろ始めますよー!マイクテストしたいので、全員こちらにお願いします!」
「はーい!」

 朝陽が返事をし、俺たちはテーブルの方へ歩き出した。冬の弱い日差しが差し込み、木々の影が揺れる。ストーブの赤い炎がゆらゆらと揺れ、今日のキャンプが特別な一日になりそうな気配がした。黒崎家の庭で、仲間たちと笑いながら過ごす時間。今日のこの冬の日は、もう二度と訪れない。俺は大きく息を吸い込み、ストーブの温もりへと歩いていった。すると、南波さんが笑った。

「いいなあ、この感じ。しばらく一人で配信してたから、誰かがいると新鮮だよ」
「うひぇ?最初は複数人だったの?」
「うん。たまに友達が手伝ってくれていたんだ。でも、その子……、彼氏ができて忙しくなっちゃって、僕のところには来なくなってね。ははは……」
「ほおーーー……」

 どうしよう 南波さんが少し涙ぐんでいる。もしかして、その“友達”はもっと特別な存在だったのかもしれない。タブレットに映る画面には、コメントが次々に流れていた。泣かないで。今銀いまがね君のことだよね。僕たちがそばにいるよ。温かい言葉ばかりである。南波さんは涙をこらえて笑った。冬空の下のキャンプは、暖かい人の温度で満ちている。
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