月下ノート

夏目奈緖

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 家に着いた。門を通ると、庭の芝に露が光っていた。ウサギの置物の耳に、月が引っかかっていた。玄関先に荷物を置き、同じ敷地内の父の家へ向かった。リビングの灯り、台所の人影、談笑の気配。静かな月明かりの下で、生活の音が胸の奥の空洞を少しずつ埋めていく。

 ドアを開ける前に、空を見上げた。薄い雲がひとつ、月の前を通り過ぎた。そして、その瞬間、ポケットのスマートフォンが震えた。見知らぬ宛先から、一通のメールが入った。――”Delivery Status Notification”。

 未達の通知だ。古いアドレスに出したメールは、やはり届かない。分かっていたことだ。しかし、通知の末尾に、小さく英字があった。Message stored locally.ーー端末内に保管。

 届かなくていい。保管されればいい。俺という装置の中で、未送信のまま眠っていた言葉が、やっと自分の手に戻ってきたのだから。
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