海のそばの音楽少年~あの日のキミ

夏目奈緖

文字の大きさ
191 / 259

15-6

しおりを挟む
 午前10時半。

 8階のA1会議室にて、会議に参加している。1本目は室長と課長役職を集めたものだ。引き続き2本目は、第3四半期決算に向けてのものだ。

 コの字型に並べられた机の前にはスクリーンがある。担当者が資料を表示させつつ、説明されている。黒崎社長、深川副社長、役員のうち10名、マーケティング推進室からはチーフの枝川が座っている。経営企画部からの報告、今後の事業展開についての説明を受けている。

「収支構造面では、海外生産拠点を含めた……、コスト競争力の強化、研究開発費の適正管理、収益の改善を図り……」

 プロジェクターに資料が映し出された。手元の書類を読み進めながら報告を聞いた。全て終わった後、役員や部長からの意見が出される時間になった。

「千川生産本部長の意見では……」
「賛成です」
「経営企画部では……」

 隣に座っている黒崎からため息が聞こえてきた。気配で分かる。自分も同じ心地だからだ。今回のような重要意思決定の場において、いくつかの派閥が存在しているからだ。

 この黒崎製菓は、市場の中では安定した流れを持っている。このまま進めば安泰だと思っているのは、このメンバーのうち三分の一だ。業務の改善案は下の者に任せて、安定した場所から決定だけしようという考えが読み取れる。この船は沈むだろう。部下の士気に関わるし、若い社員が役職につくことをよく思っていない。

 黒崎ホールディングスとの合併を期に、人事が大きく動いた。役員を半数以上も入れ替えたのは、10年ぶりだと聞いた。若い世代が役職につき、子会社への再就職者が出るなど、多少の混乱があった。

 現在では落ち着いているが、新しい問題が起きている。誰に取り入れば有利かという、競争相手との駆け引きが生まれている。どこの世界でも同じということだ。

 俺の競争相手も、この場にいる。一方的にそうされてしまった。足を引っ張られるのを防ぎながら前に進むという、面倒くさい話だ。
 
 今後の事業展開の話し合いが続いている。それぞれが支持するリーダーに従うため、どんな流れになるのかも予想済だ。それを踏まえた上での提案を用意してきた。この流れを活用したい。

「……黒崎常務。営業企画部としては?」
「……賛成しかねます」
「……」

 黒崎がNOだと口にした。レースの相手が眉を動かしたことで、腹の探り合いがスタートした。その相手とは、経営企画部部長の千川、デザート事業部室長の山田だ。山田は、俺にとっても煩わしい男だ。

「……さっきほどの経営企画部部長の意見ですが。縮小する国内市場で、飽きやすい消費者に対して、華やかな広告・販売合戦を繰り広げるしかないとことですが、輸入菓子に頼るのは反対です」
「多様性があるからです」
「……低価格よりも、安全・安心・良質な美味しいものを求めるようになっています。わが社の強みの反対です」
「……」

 千川部長が押し黙った。黒崎が言い切ったことで、メンバーが旗色を変えたことが分かった。今回は、社としての大きな決定だ。それだけではなく、自分自身の立ち位置の決定の場でもある。黒崎社長と深川副社長は、眉ひとつ動かしていない。用意してきた提案を出すなら今だ。このタイミングで、深川副社長から指名された。

「……マーケティング推進室の意見を聞きたい。早瀬室長」
「……はい。輸入品は僕も反対です。国内投資の方向性を発表した後の戦略変更は……難色をしめします」
 
 はっきりと意見を出した後、山田室長が食いついきた。レースの始まりだ。

 何度も経験してきたことで慣れている。仕返しのような発言の予想がつく。これ幸いに利用させてもらおう。やや戸惑った表情をすることがポイントだ。突っ込ませてやる。

「それでは現行と変化がない。マーケティング推進室としては、新規路線を考えているんですか?」
「……それは、我が社のチャネル力があるからこその、コンビニにそれだけのスペースが確保できています。特徴的なパッケージのアイデアがあります。今週、開発部の試作を経て、来週の会議で提案予定です」
「ほお……」

 深川副社長が興味を示した素振りを見せた。それを受けて、さらに続けて提案をした。

「……チョコレート専門店をイメージしたものです。スイーツ男子の傾向によると……、コンビニ、洋菓子店の行き来……、それにより大学生の購買層を……」
「なるほど……」
「……」

 一気に新しい波が生まれた。活気づいた会議室内の空気の中、もうひと押しの時を迎えた。黒崎へ視線を向けた。あくまでも意見を貰いたいスタンスだ。

「営業企画部として国内市場への……、その方向性を考えています」

 黒崎が支持する旨を口にした。その新規路線の方向性を発表することも。これで意思決定の会議が終了した。午後から休暇が取れる。

 会議室を出ると、黒崎社長と深川副社長が立っていた。先ほどまでの決定事項への流れを労われた後、今朝の話題に移った。

「親父。今朝は助かった」
「タイミングがよかった。悠人君が膝を擦りむいていたよ。大学の保健室へ行くそうだ」
「そうでしたか。ありがとうございました」
「太ももも打っているから、歩きづらいだろう」
「これから迎えに行きます」
「そうやって休暇を取ってくれ。部下が取りづらい」

 本人が元気であること、落ち着いていたと聞かされて安心した。ああいう時は慌てふためくから、さらに失敗することがある。その事でも沈む事も知っている。早く迎えに行きたい。そう思った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕の恋人は、超イケメン!!

八乙女 忍
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

僕の王子様

くるむ
BL
鹿倉歩(かぐらあゆむ)は、クリスマスイブに出合った礼人のことが忘れられずに彼と同じ高校を受けることを決意。 無事に受かり礼人と同じ高校に通うことが出来たのだが、校内での礼人の人気があまりにもすさまじいことを知り、自分から近づけずにいた。 そんな中、やたらイケメンばかりがそろっている『読書同好会』の存在を知り、そこに礼人が在籍していることを聞きつけて……。 見た目が派手で性格も明るく、反面人の心の機微にも敏感で一目置かれる存在でもあるくせに、実は騒がれることが嫌いで他人が傍にいるだけで眠ることも出来ない神経質な礼人と、大人しくて素直なワンコのお話。 元々は、神経質なイケメンがただ一人のワンコに甘える話が書きたくて考えたお話です。 ※『近くにいるのに君が遠い』のスピンオフになっています。未読の方は読んでいただけたらより礼人のことが分かるかと思います。

【完結】男の後輩に告白されたオレと、様子のおかしくなった幼なじみの話

須宮りんこ
BL
【あらすじ】 高校三年生の椿叶太には女子からモテまくりの幼なじみ・五十嵐青がいる。 二人は顔を合わせば絡む仲ではあるものの、叶太にとって青は生意気な幼なじみでしかない。 そんなある日、叶太は北村という一つ下の後輩・北村から告白される。 青いわく友達目線で見ても北村はいい奴らしい。しかも青とは違い、素直で礼儀正しい北村に叶太は好感を持つ。北村の希望もあって、まずは普通の先輩後輩として付き合いをはじめることに。 けれど叶太が北村に告白されたことを知った青の様子が、その日からおかしくなって――? ※本編完結済み。後日談連載中。

青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖
BL
溺愛ドS×天然系男子 俺様副社長から愛される。古い家柄の養子に入った主人公の愛情あふれる日常を綴っています。心臓に疾患を抱えながら、ロックバンドのボーカルとしてステージに立つ夏樹。彼を溺愛するのは、年上で俺様な副社長・黒崎圭一。夏樹は養子として名家に迎えられ、音楽と経営、二つの人生の狭間で揺れていた。それでも黒崎は、束縛と独占欲を隠すことなく、夏樹のすべてを受け止めようとする。ステージを降りる日が近づくかもしれない中、家族の問題、過去の傷、そして未来への不安が静かに忍び寄る。繋いだ手を、決して離さないと誓った二人の、溺愛と再生の物語。※本作からでもお読みいただけます。 黒崎家には黒崎の兄弟達が住んでいる。黒崎の4番目の兄の一貴に親子鑑定を受けて、正式に親子にならないかと、父の隆から申し出があり、一貴の心が揺れる。そして、親子鑑定に恐れを持ち、精神的に落ち込み、愛情を一身に求める子供の人格が現われる。自身も母親から愛されなかった記憶を持つ黒崎は心を痛める。黒崎家に起こることと、黒崎に寄り添う夏樹。 作品時系列:「恋人はメリーゴーランド少年だった。」→「恋人はメリーゴーランド少年だった~永遠の誓い編」→「アイアンエンジェル~あの日の旋律」→「夏椿の天使~あの日に出会った旋律」→「白い雫の天使~親愛なる人への旋律」→「上弦の月の天使~結ばれた約束の夜」→本作「青い月の天使~あの日の約束の旋律」

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが

五右衛門
BL
 月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。  しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

学校一のイケメンとひとつ屋根の下

おもちDX
BL
高校二年生の瑞は、母親の再婚で連れ子の同級生と家族になるらしい。顔合わせの時、そこにいたのはボソボソと喋る陰気な男の子。しかしよくよく名前を聞いてみれば、学校一のイケメンと名高い逢坂だった! 学校との激しいギャップに驚きつつも距離を縮めようとする瑞だが、逢坂からの印象は最悪なようで……? キラキライケメンなのに家ではジメジメ!?なギャップ男子 × 地味グループ所属の能天気な男の子 立場の全く違う二人が家族となり、やがて特別な感情が芽生えるラブストーリー。 全年齢

君に二度、恋をした。

春夜夢
BL
十年前、初恋の幼なじみ・堂本遥は、何も告げずに春翔の前から突然姿を消した。 あれ以来、恋をすることもなく、淡々と生きてきた春翔。 ――もう二度と会うこともないと思っていたのに。 大手広告代理店で働く春翔の前に、遥は今度は“役員”として現れる。 変わらぬ笑顔。けれど、彼の瞳は、かつてよりずっと強く、熱を帯びていた。 「逃がさないよ、春翔。今度こそ、お前の全部を手に入れるまで」 初恋、すれ違い、再会、そして執着。 “好き”だけでは乗り越えられなかった過去を乗り越えて、ふたりは本当の恋に辿り着けるのか―― すれ違い×再会×俺様攻め 十年越しに交錯する、切なくも甘い溺愛ラブストーリー、開幕。

処理中です...