海のそばの音楽少年~あの日のキミ

夏目奈緖

文字の大きさ
207 / 259

15-22

しおりを挟む
 ギター部屋に入った。ギターの練習だと口実をつけたが、別の用事がある。コソコソするのは性分に合わないと思いつつも、早瀬に隠れて佐久弥へ連絡を取ろうとしている。本人に聞けばいいのに。

 あの意地っ張りは、本音を言ってくれない。疲れていても元気なふりをする。何をそんなに無理しているのか?仕事だけのことではなくて、どうも俺のことで負担がかかっていると思う。打開策はないものか?さっそく佐久弥へラインを送った。

「……『こんばんは。裕理さんのことで相談したいことがあります。連絡をください』送信」

 はあ……と、ため息をついた。あとは連絡を待つだけだ。忙しいから、すぐに返事が入らないだろう。そう思って立ち上ると、着信音が鳴ったから驚いた。

「わわわっ。もしもし?」
「……どうした、喧嘩でもしたのか?奪い取ってやろうか?ぎゃはははー」
「違うよ。裕理さんが無理をしているんだ。会社で昇進するんだけど、その準備と、俺のことでもやってくれてて。元気なふりをしているんだ。前からそうなんだよね?いいアドバイスないかと思って……」
「裕理のことを話すのは構わないけど、お前は平気なのか?現在も恋心が続いているみたいな錯覚しないのか?」
「分かっているから平気だよ」
「そうは思えない。聞かない方がいいぞ。今の本人を見て、お前が判断しておけ」
「どうしていいのか分からないんだ。声をかけても元気だっていうし。俺が子供っぽいから相談してもらえないと思ってる……」
「それは反対だ。カッコつけたいだけだ。仕方がないなーー。昔のことを少し話す。いいか?」

 佐久弥から聞かされたのは、早瀬の変化のことだ。昔と今とが大違いだと言っている。学生時代の早瀬は周りからいい子だと言われて育ち、音楽以外のことでは無気力にも見えたという。そして、自信が持てずに、プロへの道を諦めた。今の早瀬は生き生きとしているそうだ。

「再会した時は、別人だと思った。今になって後悔していることがあるだろう。そうならないように、今やっている。俺はそう思う。全てはお前のためだ」
「俺のため?」
「本人のためもある。自分が果たせなかったことをチャレンジしてもらいたいっていうのは、鬱陶しいか?そういう親がいるだろう?聞いたことある?」
「あるよ……」
「それに近いものがありそうだ。でも、悠人の意志は無視してないと思う。遠藤さんから聞いたけど、マジでネガティブだもんな。背中を押しているんだろう」
「どうして疲れたって言わないのかな?」
「カッコつけているだけ。いい子だと言われ続けたからだろう。カッコ悪い裕理さんでも好き。そう言ってやれ」
「へへへ……。ありがとう」
「あくまでも、友達としての意見だ。勝手にタイムスリップするなよー?」
「うん。大丈夫だよー」

 プツ。電話を切った後、部屋を出た。佐久弥からアドバイスされた、さっきの言葉を言いたいからだ。しかし、いきなり口にすると変だろう。どのタイミングがいいだろうか?

 そんなことを考えながらリビングへ入ると、早瀬がタブレットを使っていた。声を掛けながら近寄ると、それを裏向けた。

「何を見ていたの?」
「特に見ていないよ。適当に検索していた」
「へえ……」
「それよりも、指の怪我はどうだ?」
「もう痛くないよ」

 絆創膏が貼られている薬指を動かした。ほんの少しだけ擦りむいただけだ。貼るのも大げさなぐらいだ。すると、早瀬が手を取って眺め始めた。

「今日は変だよ。どうしたんだよ?」
「怪我が気になっているからだ。ギタリストとして大事にしないと。節は目立たない方だな……」
「うん。あんまりゴツゴツしてないからね」
「これならそうか。そうか……」
「変だよ。疲れてるんだよね?」
「いや、そんなことはない」
「んー?」

 早瀬が手を離した後、タブレットを持って立ちあがった。どうもソワソワしている気がした。普段と様子が違う。何かおかしい。

「書斎へ行くの?」
「ああ。ごめんね。書類を読んだらベッドに行く。先に寝ていろ」
「まだ眠くないよ……」
「いいから。別の意味でも、体力消耗しただろう?」
「あああ……」

 いつもの早瀬が戻ってきた。俺の頭を撫でて寝室へ連れて行った後、大事そうに抱かれて、ベッドに寝かされた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕の恋人は、超イケメン!!

八乙女 忍
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

僕の王子様

くるむ
BL
鹿倉歩(かぐらあゆむ)は、クリスマスイブに出合った礼人のことが忘れられずに彼と同じ高校を受けることを決意。 無事に受かり礼人と同じ高校に通うことが出来たのだが、校内での礼人の人気があまりにもすさまじいことを知り、自分から近づけずにいた。 そんな中、やたらイケメンばかりがそろっている『読書同好会』の存在を知り、そこに礼人が在籍していることを聞きつけて……。 見た目が派手で性格も明るく、反面人の心の機微にも敏感で一目置かれる存在でもあるくせに、実は騒がれることが嫌いで他人が傍にいるだけで眠ることも出来ない神経質な礼人と、大人しくて素直なワンコのお話。 元々は、神経質なイケメンがただ一人のワンコに甘える話が書きたくて考えたお話です。 ※『近くにいるのに君が遠い』のスピンオフになっています。未読の方は読んでいただけたらより礼人のことが分かるかと思います。

【完結】男の後輩に告白されたオレと、様子のおかしくなった幼なじみの話

須宮りんこ
BL
【あらすじ】 高校三年生の椿叶太には女子からモテまくりの幼なじみ・五十嵐青がいる。 二人は顔を合わせば絡む仲ではあるものの、叶太にとって青は生意気な幼なじみでしかない。 そんなある日、叶太は北村という一つ下の後輩・北村から告白される。 青いわく友達目線で見ても北村はいい奴らしい。しかも青とは違い、素直で礼儀正しい北村に叶太は好感を持つ。北村の希望もあって、まずは普通の先輩後輩として付き合いをはじめることに。 けれど叶太が北村に告白されたことを知った青の様子が、その日からおかしくなって――? ※本編完結済み。後日談連載中。

青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖
BL
溺愛ドS×天然系男子 俺様副社長から愛される。古い家柄の養子に入った主人公の愛情あふれる日常を綴っています。心臓に疾患を抱えながら、ロックバンドのボーカルとしてステージに立つ夏樹。彼を溺愛するのは、年上で俺様な副社長・黒崎圭一。夏樹は養子として名家に迎えられ、音楽と経営、二つの人生の狭間で揺れていた。それでも黒崎は、束縛と独占欲を隠すことなく、夏樹のすべてを受け止めようとする。ステージを降りる日が近づくかもしれない中、家族の問題、過去の傷、そして未来への不安が静かに忍び寄る。繋いだ手を、決して離さないと誓った二人の、溺愛と再生の物語。※本作からでもお読みいただけます。 黒崎家には黒崎の兄弟達が住んでいる。黒崎の4番目の兄の一貴に親子鑑定を受けて、正式に親子にならないかと、父の隆から申し出があり、一貴の心が揺れる。そして、親子鑑定に恐れを持ち、精神的に落ち込み、愛情を一身に求める子供の人格が現われる。自身も母親から愛されなかった記憶を持つ黒崎は心を痛める。黒崎家に起こることと、黒崎に寄り添う夏樹。 作品時系列:「恋人はメリーゴーランド少年だった。」→「恋人はメリーゴーランド少年だった~永遠の誓い編」→「アイアンエンジェル~あの日の旋律」→「夏椿の天使~あの日に出会った旋律」→「白い雫の天使~親愛なる人への旋律」→「上弦の月の天使~結ばれた約束の夜」→本作「青い月の天使~あの日の約束の旋律」

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが

五右衛門
BL
 月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。  しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

学校一のイケメンとひとつ屋根の下

おもちDX
BL
高校二年生の瑞は、母親の再婚で連れ子の同級生と家族になるらしい。顔合わせの時、そこにいたのはボソボソと喋る陰気な男の子。しかしよくよく名前を聞いてみれば、学校一のイケメンと名高い逢坂だった! 学校との激しいギャップに驚きつつも距離を縮めようとする瑞だが、逢坂からの印象は最悪なようで……? キラキライケメンなのに家ではジメジメ!?なギャップ男子 × 地味グループ所属の能天気な男の子 立場の全く違う二人が家族となり、やがて特別な感情が芽生えるラブストーリー。 全年齢

【完結】君の手を取り、紡ぐ言葉は

綾瀬
BL
図書委員の佐倉遥希は、クラスの人気者である葉山綾に密かに想いを寄せていた。しかし、イケメンでスポーツ万能な彼と、地味で取り柄のない自分は住む世界が違うと感じ、遠くから眺める日々を過ごしていた。 ある放課後、遥希は葉山が数学の課題に苦戦しているのを見かける。戸惑いながらも思い切って声をかけると、葉山は「気になる人にバカだと思われるのが恥ずかしい」と打ち明ける。「気になる人」その一言に胸を高鳴らせながら、二人の勉強会が始まることになった。 成績優秀な遥希と、勉強が苦手な葉山。正反対の二人だが、共に過ごす時間の中で少しずつ距離を縮めていく。 不器用な二人の淡くも甘酸っぱい恋の行方を描く、学園青春ラブストーリー。 【爽やか人気者溺愛攻め×勉強だけが取り柄の天然鈍感平凡受け】

処理中です...