海のそばの音楽少年～あの日のキミ

15-23(早瀬視点）

　午前０時。

　悠人の寝顔を見つめているうちに、時間が過ぎていた。そろそろ書斎へ行くためにベッドから起き上がった。すると、悠人が抱きついてきた。

「ゆうりさん……、どこ」
「ここにいるよ」
「いかないでよ……、さびしい」
「やっとここまで来た」

　寝言でも、そう言ってもらえて嬉しかった。この子は本音を出そうとしない。言えるようになったが、まだ遠慮をしている。俺も人のことは言えない子供時代だった。

（……今でもそうか。自信がなかった）

　今回の昇進において、手前から大きな仕事を任された。ワタベ電機との業務提携だ。先月末に結ぶことが出来た後、実際に動かし始めた。今後の事業展開の会議でも、成果があったといえる。

　30歳という若さで昇進しても、年齢だけで判断されてしまう。それを打開するために大きな成果をあげて、そのタイミングで昇進するというプランを、副社長から提案された。成功させたかった。ここまで仕事にガツガツしたのは、初めてだ。

（カッコいいと言われたい。そうでないと、指輪を渡せない。意地っ張りの見栄はりでいい。やっとここまで来たか）

　悠人を起こさないように左手に触れた。絆創膏のおかげでサイズを知ることが出来た。店で計るのがベストでも、イメージを持ちやすい。

　悠人のことを起こさないようにベッドから降りて、寝室を出た。アクセサリーブランドのサイトを見るために。