海のそばの音楽少年~あの日のキミ

夏目奈緖

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 18時。

 晩ご飯ができるまで、ベッドで寝ているか、リビングのソファーで寝転がっておけと、早瀬から言いつけられた。そこでリビングで休むことを選ぶと、身体にタオルケットを掛けてくれた。これぐらいがちょうどいい。

 その間、早瀬がそばで書類を読んでいた。書斎でないのかと聞くと、今日は付き添っていたいと言ってくれた。今は晩ご飯の支度をしている。

「ゆうとくーん、出来たぞー?」
「はーーい」
「もう鼻声がマシになっているな。さすがの若さの回復力だ」
「へへへ。注射を打ったし。よかったーー」
「出かけるのは反対だ。手を洗っておいで」
「はーーい」

 パタパタ。洗面所で手を洗った後、鏡の中の自分を見た。最近、目元や頬のラインが変化したように思う。それは夏樹からも言われたことだ。童顔だったのが、キリッとしてきた。それは嬉しいことで、もっと大人になりたい。父親に似ているから、けっこうカッコよくなりそうだ。しかし、どうも女顔に見えるから、強く期待はしていない。

「裕理さんと並んでも、おかしくないようになりたいなー。お兄ちゃんと弟だし……。もっとキリッとして、佐久弥みたいな……。あああ……だめだだめだだめだーー!」

 ごしごしと手を拭くと、絆創膏が取れて床に落ちた。それを拾い上げると、早瀬が入ってきた。苦笑して見ているから、ブーブー文句を言った。

「覗くなよーーっ」
「だめだ、だめだーって、聞こえたからだ。今日はどんなことで勘違いをしているんだ?言ってごらん?」
「え……?」
「いつもドツボにハマっている。早く引き上げたい」
「何でも……」
「何でもないは、禁句だ。怒らないから」
「……」

 どうしよう?ここで話すと、アホだと思われてしまう。自分の方から佐久弥との友人関係を続けろと言ったのに、過去のことで気にしているなんて。子供っぽくて、早瀬とはとても釣り合わない。ここは意地と見栄を張ろう。

「今は曲作りをしているんだ。フレーズがおかしくてさ……。納得いくものが出来なくて」
「そうか。ご飯を食べて気分を変えよう」
「うん!」

 よかった。ツッコまれなかった。それに、鼻水と喉の痛みがマシになっている。これなら予定通りに、プレゼントを選びに出かけられそうだ。早瀬からも止められずに済むだろう。

「カボチャグラタン、久しぶりだよね」
「ひと手間かけておいたから美味しいよ」
「いつも美味しいよ。ありがとう!」
「ご褒美がほしい。治ったら、こういうことを希望している。……こうこうこう」
「あああ……」

 耳元で囁かれたものは、エロい要望だった。いつでもどこでも変わりがないことを、改めて認識した。
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