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18-4(悠人視点)
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18時。
黒崎製菓の最寄り駅でタクシーを降りた。ここから徒歩で数分の場所に、本社ビルがある。さらに真っ直ぐ行くと、バイト先の楽器店がある。この辺りを何度も通っているのに、初めての場所に行くような緊張感を持っている。これから早瀬達と合流する約束だ。夏樹から励まされている。
クレーンゲームでの成果を称え合い、大きな袋を覗き込みながら笑った。ぬいぐるみ、大袋のお菓子、使う当てのないグッズが入っている。
片方の紙袋には、誕生日プレゼントが入っている。すぐに取り出せるようにセットしてある、”ミカリンのクルクルステッキ”入りの紙袋も持っている。
「こんなに獲れるもんだね?」
「珍しいよー。一発でチョコレート菓子だもん。でも、チョコレートが苦手だよね?」
「悠人に渡すよ。チョコが好きだろ?」
「じゃあ、トラのユーリと交換しよう。ライバル企業のお菓子だよー」
「いいじゃん。黒崎さんも、お義父さんも気にしていないよ~」
「俺だってそうだよ。パートナーの……、あ……」
本社ビル前の歩道で、早瀬が手を振っていた。隣にいるのは黒崎さんだ。すっかり外が暗くなっているから、早瀬の表情を見ることができない。黒崎さんが笑っているのは分かった。
早瀬はどうだろう?自然と歩くスピードが落ちてしまった。そんな俺の背中を、夏樹が文字通りに押した。
「悠人!行くよ」
「うん……」
そう返事をしたのに、肝心の足が動かない。歩こうと思えば、進むことが出来るのに。両手を伸ばしたところで近づけない。早瀬は遠くの方だ。
「悠人、ほら……」
「うん……」
強引に手を引かれた。情けないことに、ここまで付き添いが必要なのか。そう自覚する冷静な大人の心と、怖がっている自分の心が混在している。まるで可視光線のようだ。
両手を伸ばしたままでいると、だんだんと早瀬が近くなった。自分の足は全く動いていないのに、さらに近づいている。どうしてだろう?
「裕理さん……」
「悠人……」
今の光景は、自分の心が見せている夢だろうか?強い力で抱きしめられている。頬には、グレー色のコートの生地が触れている。さっぱりしたグリーン系の匂いは、毎日嗅いでいるものだ。耳元で聞こえている息づかいは落ち着きがなくて、切羽詰まっているようだ。
もしかして、自分のものだろうか?息をしているのかどうかも分からない。それだけの強さで閉じ込められているからだ。
早瀬の肩越しに、楽器店の看板が見えている。こんなに近くに居たのにすれ違っていた俺たちは、この交差点ですれ違わずに、ぶつかってしまった。モップという道具によって。
「ゆ、裕理さん!?」
「悠人君、ごめん!」
耳元で響いた声は掠れていた。早瀬の名前を呼んだ自分と同じだ。だからきっと、考えていることも同じだろう。もう迷わない。やっと心が通じた確信があるからだ。
「いいよ……もう……。話したいことがあるんだ!」
「別れるなんて言うな」
「言わないよ。大好きだって言うし……ん……」
大好きだよ。
ごめんね。
言い過ぎた。
その三つの言葉を奪われてしまった。目を閉じているから、早瀬の表情は分からない。それでも自分と同じく、ごめんねという顔をしている確信がある。そうでなければ、これほど気持ちのこもったことをしないだろう。
「悠人、愛している」
「うん……裕理さん」
やっと離れた唇が、まだ触れそうな位置にある。もっと近づきたいが、大事な言葉をいうまでの我慢だ。
早瀬の頬を両手で包んだ。しっかりと見つめて微笑んだ。ビルからの灯りが横顔を照らしている。笑っているような、泣いているようだ。早瀬らしくて大好きだ。それだけのことが、やっと分かった。
「今の裕理さんは、ヒーロー?クラン?どっち?」
「ごめん!もう出さないから……」
「……そのままのあなたが大好き!」
「……え?」
「白黒、グレー。何でもいい。何色でもいいんだ。ヒーローでもクランでもいい。それが『ユーリ』だから。いろんな顔があるのは、裕理さんだよ。俺の方こそごめんね!無理をさせていたんだよ」
「いや……それは」
「そのままのあなたが大好きって言ってるだろー?何度も言わせるな!」
「悠人……」
「まるで可視光線だよ。いろんな色があるんだ。波長によって同じ光で見え方が変わるんだ。それと同じだよ」
分かった?最後は目線だけで伝えた。その答えは、言葉ではないもので返された。さっきは驚くしかなかったが、今は安心して目を閉じることが出来た。
黒崎製菓の最寄り駅でタクシーを降りた。ここから徒歩で数分の場所に、本社ビルがある。さらに真っ直ぐ行くと、バイト先の楽器店がある。この辺りを何度も通っているのに、初めての場所に行くような緊張感を持っている。これから早瀬達と合流する約束だ。夏樹から励まされている。
クレーンゲームでの成果を称え合い、大きな袋を覗き込みながら笑った。ぬいぐるみ、大袋のお菓子、使う当てのないグッズが入っている。
片方の紙袋には、誕生日プレゼントが入っている。すぐに取り出せるようにセットしてある、”ミカリンのクルクルステッキ”入りの紙袋も持っている。
「こんなに獲れるもんだね?」
「珍しいよー。一発でチョコレート菓子だもん。でも、チョコレートが苦手だよね?」
「悠人に渡すよ。チョコが好きだろ?」
「じゃあ、トラのユーリと交換しよう。ライバル企業のお菓子だよー」
「いいじゃん。黒崎さんも、お義父さんも気にしていないよ~」
「俺だってそうだよ。パートナーの……、あ……」
本社ビル前の歩道で、早瀬が手を振っていた。隣にいるのは黒崎さんだ。すっかり外が暗くなっているから、早瀬の表情を見ることができない。黒崎さんが笑っているのは分かった。
早瀬はどうだろう?自然と歩くスピードが落ちてしまった。そんな俺の背中を、夏樹が文字通りに押した。
「悠人!行くよ」
「うん……」
そう返事をしたのに、肝心の足が動かない。歩こうと思えば、進むことが出来るのに。両手を伸ばしたところで近づけない。早瀬は遠くの方だ。
「悠人、ほら……」
「うん……」
強引に手を引かれた。情けないことに、ここまで付き添いが必要なのか。そう自覚する冷静な大人の心と、怖がっている自分の心が混在している。まるで可視光線のようだ。
両手を伸ばしたままでいると、だんだんと早瀬が近くなった。自分の足は全く動いていないのに、さらに近づいている。どうしてだろう?
「裕理さん……」
「悠人……」
今の光景は、自分の心が見せている夢だろうか?強い力で抱きしめられている。頬には、グレー色のコートの生地が触れている。さっぱりしたグリーン系の匂いは、毎日嗅いでいるものだ。耳元で聞こえている息づかいは落ち着きがなくて、切羽詰まっているようだ。
もしかして、自分のものだろうか?息をしているのかどうかも分からない。それだけの強さで閉じ込められているからだ。
早瀬の肩越しに、楽器店の看板が見えている。こんなに近くに居たのにすれ違っていた俺たちは、この交差点ですれ違わずに、ぶつかってしまった。モップという道具によって。
「ゆ、裕理さん!?」
「悠人君、ごめん!」
耳元で響いた声は掠れていた。早瀬の名前を呼んだ自分と同じだ。だからきっと、考えていることも同じだろう。もう迷わない。やっと心が通じた確信があるからだ。
「いいよ……もう……。話したいことがあるんだ!」
「別れるなんて言うな」
「言わないよ。大好きだって言うし……ん……」
大好きだよ。
ごめんね。
言い過ぎた。
その三つの言葉を奪われてしまった。目を閉じているから、早瀬の表情は分からない。それでも自分と同じく、ごめんねという顔をしている確信がある。そうでなければ、これほど気持ちのこもったことをしないだろう。
「悠人、愛している」
「うん……裕理さん」
やっと離れた唇が、まだ触れそうな位置にある。もっと近づきたいが、大事な言葉をいうまでの我慢だ。
早瀬の頬を両手で包んだ。しっかりと見つめて微笑んだ。ビルからの灯りが横顔を照らしている。笑っているような、泣いているようだ。早瀬らしくて大好きだ。それだけのことが、やっと分かった。
「今の裕理さんは、ヒーロー?クラン?どっち?」
「ごめん!もう出さないから……」
「……そのままのあなたが大好き!」
「……え?」
「白黒、グレー。何でもいい。何色でもいいんだ。ヒーローでもクランでもいい。それが『ユーリ』だから。いろんな顔があるのは、裕理さんだよ。俺の方こそごめんね!無理をさせていたんだよ」
「いや……それは」
「そのままのあなたが大好きって言ってるだろー?何度も言わせるな!」
「悠人……」
「まるで可視光線だよ。いろんな色があるんだ。波長によって同じ光で見え方が変わるんだ。それと同じだよ」
分かった?最後は目線だけで伝えた。その答えは、言葉ではないもので返された。さっきは驚くしかなかったが、今は安心して目を閉じることが出来た。
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