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午前10時。
聖加世病院の救命救急センター内にいる。早瀬と2人でロビーのソファーに腰かけている。彼女がこの病院に搬送されたことを父に連絡し、来るのを待っているところだ。
「本当に良かったの?お父さんが来たら、会社に行ってよ」
「ちょうど良かった。休暇を取るように、会社から言われていたところだ。管理職が取らないと、部下が取りにくいんだよ」
「ありがとう」
一緒にいてくれて心強い。父が到着した後、はい、さようなら、とういうわけにはいかないだろう。込み入った話をする予感がする。顔を合わせるのは、今年の3月以来だ。大学の入学手続きをする際に会っただけだ。妙に緊張している。
「彼女さん、容体が落ち着いたそうだからよかった」
「うん……。お腹の子は大丈夫かな……」
「お父さんを待とう。手を握ってあげていたね。えらいよ」
「うん……」
早瀬から頭を抱き寄せられて、肩にもたれ掛かった。ほんの2か月前なら、一人でこの場所にいただろう。今では温かいぬくもりがあることが、ありがたい。だんだんと気持ちが落ち着いた。ゆっくりと目を閉じていると、祖母が入院して、危篤状態になった時のことを思い出した。
あの時、父は泣いていた。母の顔は見ないようにした。祖母とは仲が悪いと子供心に感じていたから、きっと泣いていないだろうと思ったからだ。いつの日か、両親が亡くなった時には、自分はどんな顔をするのだろう?
「裕理さん……、こんな時に縁起が悪いけど」
「縁起って……、大学生の子に似合わないよ」
早瀬から茶化されて、重い空気が一瞬で消え去った。わざとそうしてくれたのだと分かっている。それに気づかないふりをして、早瀬の頭を軽く叩いた。
「バカ!」
「ゆうとくーん、叩くようになってきたね。遠慮がなくなるのは嬉しいけど、可愛いままでいてほしい」
苦笑している早瀬の足を踏んづけてやろうとすると、かわされてしまった。反射神経が良い人だと分かっているから悔しい。
「もういい!」
「ごめんね。続きを聞かせてほしい」
「うーん、あのね……」
「ああ、久田さんだ」
「来たんだ……」
「久田さん、こちらです」
早瀬が先に父に声をかけた。それに反応した父が、早瀬へ頭を下げた。
「連絡をありがとうございました。お忙しいところを……」
「いえ、通りかかって良かったです。こちらへ搬送できましたし」
「受付へ声を掛けて来ます……」
父が受け付けで書類を交わした後、俺達のところへ戻って来た。そして、俺の前に立ち、頭を下げてきた。
「悠人、今日はすまなかった」
「えええー?」
「悠人君?」
ここは病院なのに、思わず声を上げてしまった。俺に頭を下げたことがないし、この先もあり得ないと思っていたからだ。ここへ来た時の動揺した様子も、今の困り果てている顔も見たことがないものだった。
「お父さん、どうしたんだよ?こんな人だったっけ……」
「悠人……」
戸惑ったように俺を見つめる人は、記憶の中の父ではなかった。いつからこんな風に、普通の人になったのだろう?感情表現がなくて、淡々としていたのに。今の彼女と付き合っているうちに変わったのだろうか?
「久田さん。あちらから呼ばれていますよ」
「ああ、失礼します。後で……」
「この辺りを散歩して待っています。終わったら連絡を下さい」
「悠人のことをお願いします」
「はい」
ますます信じられない発言が父の口から出たことで、俺の頭の中はパニックになった。そして、呆然としながら、父の後ろ姿を見送った。
聖加世病院の救命救急センター内にいる。早瀬と2人でロビーのソファーに腰かけている。彼女がこの病院に搬送されたことを父に連絡し、来るのを待っているところだ。
「本当に良かったの?お父さんが来たら、会社に行ってよ」
「ちょうど良かった。休暇を取るように、会社から言われていたところだ。管理職が取らないと、部下が取りにくいんだよ」
「ありがとう」
一緒にいてくれて心強い。父が到着した後、はい、さようなら、とういうわけにはいかないだろう。込み入った話をする予感がする。顔を合わせるのは、今年の3月以来だ。大学の入学手続きをする際に会っただけだ。妙に緊張している。
「彼女さん、容体が落ち着いたそうだからよかった」
「うん……。お腹の子は大丈夫かな……」
「お父さんを待とう。手を握ってあげていたね。えらいよ」
「うん……」
早瀬から頭を抱き寄せられて、肩にもたれ掛かった。ほんの2か月前なら、一人でこの場所にいただろう。今では温かいぬくもりがあることが、ありがたい。だんだんと気持ちが落ち着いた。ゆっくりと目を閉じていると、祖母が入院して、危篤状態になった時のことを思い出した。
あの時、父は泣いていた。母の顔は見ないようにした。祖母とは仲が悪いと子供心に感じていたから、きっと泣いていないだろうと思ったからだ。いつの日か、両親が亡くなった時には、自分はどんな顔をするのだろう?
「裕理さん……、こんな時に縁起が悪いけど」
「縁起って……、大学生の子に似合わないよ」
早瀬から茶化されて、重い空気が一瞬で消え去った。わざとそうしてくれたのだと分かっている。それに気づかないふりをして、早瀬の頭を軽く叩いた。
「バカ!」
「ゆうとくーん、叩くようになってきたね。遠慮がなくなるのは嬉しいけど、可愛いままでいてほしい」
苦笑している早瀬の足を踏んづけてやろうとすると、かわされてしまった。反射神経が良い人だと分かっているから悔しい。
「もういい!」
「ごめんね。続きを聞かせてほしい」
「うーん、あのね……」
「ああ、久田さんだ」
「来たんだ……」
「久田さん、こちらです」
早瀬が先に父に声をかけた。それに反応した父が、早瀬へ頭を下げた。
「連絡をありがとうございました。お忙しいところを……」
「いえ、通りかかって良かったです。こちらへ搬送できましたし」
「受付へ声を掛けて来ます……」
父が受け付けで書類を交わした後、俺達のところへ戻って来た。そして、俺の前に立ち、頭を下げてきた。
「悠人、今日はすまなかった」
「えええー?」
「悠人君?」
ここは病院なのに、思わず声を上げてしまった。俺に頭を下げたことがないし、この先もあり得ないと思っていたからだ。ここへ来た時の動揺した様子も、今の困り果てている顔も見たことがないものだった。
「お父さん、どうしたんだよ?こんな人だったっけ……」
「悠人……」
戸惑ったように俺を見つめる人は、記憶の中の父ではなかった。いつからこんな風に、普通の人になったのだろう?感情表現がなくて、淡々としていたのに。今の彼女と付き合っているうちに変わったのだろうか?
「久田さん。あちらから呼ばれていますよ」
「ああ、失礼します。後で……」
「この辺りを散歩して待っています。終わったら連絡を下さい」
「悠人のことをお願いします」
「はい」
ますます信じられない発言が父の口から出たことで、俺の頭の中はパニックになった。そして、呆然としながら、父の後ろ姿を見送った。
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