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2-3(悠人視点)
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午前8時。
いつものように、虎ノ門駅へと入った。これから出勤と通学だ。早瀬は電車に乗り、俺はマリーズカフェに寄った後、大学に行く。改札口まで歩きながら、早瀬と今日の予定を話し合った。今日は夏樹の入院先へ見舞いに行くことにしている。
「夏樹君が入院している聖加世病院はね……」
「そうなんだ?それだと……」
お互いに話しながら歩いて行き、改札口の近くで立ち止まった。こうしている間にも、すれ違っていく人が、早瀬のことを見つめている。かっこいいからだ。俺はそれが面白くない。早瀬のことを見て欲しくない。だから、立っている位置を変えた。
「悠人君、どうした?」
「見られたくないからだよ」
「誰に?」
「他の人に……」
「いい子、いい子。ちゃんと言えるようになりましたねー?」
「子ども扱いしないでよ。俺のこと、面倒くさくないわけ?」
前から疑問に思っていたことだ。こういう反応が重く感じないのかという事をだ。しかし、早瀬は笑って首を横に振った。
「正直に言うと、他の人には面倒くさいと思っていたよ。君には妬いてほしい。俺の方こそ成長したから、お互い様だよ」
「そうなんだ……」
なんだか嬉しい。自分が特別だと思えたからだ。するとその時だ。改札口のそばで別れようと、お互いに手を振り合った時に、女性の悲鳴が聞こえた。
「キャーー!」
「え、どこだろう?」
「ああ……」
早瀬が先に動いた。俺達の後ろの方で、女性がうずくまっていた。さっき悲鳴を上げたのは、そばにいた人だった。女性が急に倒れ込んだということだ。
「悠人君は駅員を呼んでこい。そこを真っ直ぐに行けばいるから」
「分かった!」
急いで駅員がいる方向へ走った。すぐに見つけることが出来て、急病人がいることを伝えた。そして、2人の駅員の後ろから追いかけて、早瀬たちの元へ向かった。そこへ到着した時には救急車を呼んだ後で、AEDがそばに置かれていた。少しだけ起き上がった女性が、早瀬に何かを伝えようとしている。
「……」
「救急車を呼んでいますからね」
「……」
「はい、どうされましたか?」
女性の口元へ耳を寄せても聞き取れないようだ。その様子を見ていると、彼女に見覚えがあることに気づいた。その人は父親の恋人だと分かった。
この虎ノ門駅を使うようになり、彼女のことをマリーズカフェで見かけるようになった。電話中の会話が聞こえてきた時に『久田法律事務所』『達弘さん』というフレーズを耳にした。だから、ああ、彼女なのかと気づいた。さらに、妊婦健診の結果が聞こえたことで、妊娠しているのだと知った。
父には母と離婚をして、その人と再婚しろと勧めた。10年近く別居をして、お互いに相手がいる状態だ。2人にはけじめをつけてほしかった。父は俺のことを妊娠している当時の母に、酷いことを言ったことがあるそうだ。『おろせ』『無事に生まれたら結婚する』と。それが別居の原因の一つなのだと思う。
先月のことだ。父と電話で話した時に、再婚を認める代わりにバンドをやることを認めろと交換条件を出した。その条件を飲むのなら、8月のバンドのコンテストを見に来いと告げた。
両親は離婚に向けての話し合いが進んでいる。父からは、近いうちに恋人を紹介してもらうことになっていた。まさかこんな形で会うとは思っていなかった。この緊急事態では、家族のもめ事を恥ずかしいとは言えない。早瀬には、父親の恋人のことを話してある。
「裕理さん。この人は妊娠しているはずだよ。お父さんの彼女だから」
「そうだったのか」
「うん。聖加世病院だよ」
「救急隊が来てから、久田さんに連絡を取る。ん?」
いっそう騒がしくなった。制服を着た人が数人駆けつけて来たから、救急隊だと分かった。彼女の傍らで話しかけているのに、はっきりとした言葉が出て来ない。だから、俺の方から大事なことを話すことにした。
「悠人君、俺が伝えるよ」
「いい。説明するよ。すみません!この人は妊娠しています!」
「お知り合いの方ですか?」
「はい。父の知り合いの人です。聖加世病院に掛かっているはずです」
「あ……」
彼女が目を開けて、俺の方を見た。苦しいながらも、今の話が分かったのだろう。もしかすると、恋人の息子だと気がついたのかもしれない。念のために、彼女にかかりつけの病院名を聞こうと思った。耳元に口を寄せて、聞こえるようにした。
「かかりつけは聖加世病院ですよね?」
「はい……」
彼女が俺のことを見つめているから、励まそうと手を握った。すると、だんだんと彼女の両目から涙が溢れてきて、嗚咽も漏れ始めた。
「大丈夫?どこか痛い?」
「ごめん……、なさいっ」
「え?」
「お父さんを……、とって……、ごめ……」
息子だと気づいたのか。こんな時に謝らなくてもいいのに。今回のことは父のせいだ。俺は何も言わずに、彼女の手を握りしめて励ました。
いつものように、虎ノ門駅へと入った。これから出勤と通学だ。早瀬は電車に乗り、俺はマリーズカフェに寄った後、大学に行く。改札口まで歩きながら、早瀬と今日の予定を話し合った。今日は夏樹の入院先へ見舞いに行くことにしている。
「夏樹君が入院している聖加世病院はね……」
「そうなんだ?それだと……」
お互いに話しながら歩いて行き、改札口の近くで立ち止まった。こうしている間にも、すれ違っていく人が、早瀬のことを見つめている。かっこいいからだ。俺はそれが面白くない。早瀬のことを見て欲しくない。だから、立っている位置を変えた。
「悠人君、どうした?」
「見られたくないからだよ」
「誰に?」
「他の人に……」
「いい子、いい子。ちゃんと言えるようになりましたねー?」
「子ども扱いしないでよ。俺のこと、面倒くさくないわけ?」
前から疑問に思っていたことだ。こういう反応が重く感じないのかという事をだ。しかし、早瀬は笑って首を横に振った。
「正直に言うと、他の人には面倒くさいと思っていたよ。君には妬いてほしい。俺の方こそ成長したから、お互い様だよ」
「そうなんだ……」
なんだか嬉しい。自分が特別だと思えたからだ。するとその時だ。改札口のそばで別れようと、お互いに手を振り合った時に、女性の悲鳴が聞こえた。
「キャーー!」
「え、どこだろう?」
「ああ……」
早瀬が先に動いた。俺達の後ろの方で、女性がうずくまっていた。さっき悲鳴を上げたのは、そばにいた人だった。女性が急に倒れ込んだということだ。
「悠人君は駅員を呼んでこい。そこを真っ直ぐに行けばいるから」
「分かった!」
急いで駅員がいる方向へ走った。すぐに見つけることが出来て、急病人がいることを伝えた。そして、2人の駅員の後ろから追いかけて、早瀬たちの元へ向かった。そこへ到着した時には救急車を呼んだ後で、AEDがそばに置かれていた。少しだけ起き上がった女性が、早瀬に何かを伝えようとしている。
「……」
「救急車を呼んでいますからね」
「……」
「はい、どうされましたか?」
女性の口元へ耳を寄せても聞き取れないようだ。その様子を見ていると、彼女に見覚えがあることに気づいた。その人は父親の恋人だと分かった。
この虎ノ門駅を使うようになり、彼女のことをマリーズカフェで見かけるようになった。電話中の会話が聞こえてきた時に『久田法律事務所』『達弘さん』というフレーズを耳にした。だから、ああ、彼女なのかと気づいた。さらに、妊婦健診の結果が聞こえたことで、妊娠しているのだと知った。
父には母と離婚をして、その人と再婚しろと勧めた。10年近く別居をして、お互いに相手がいる状態だ。2人にはけじめをつけてほしかった。父は俺のことを妊娠している当時の母に、酷いことを言ったことがあるそうだ。『おろせ』『無事に生まれたら結婚する』と。それが別居の原因の一つなのだと思う。
先月のことだ。父と電話で話した時に、再婚を認める代わりにバンドをやることを認めろと交換条件を出した。その条件を飲むのなら、8月のバンドのコンテストを見に来いと告げた。
両親は離婚に向けての話し合いが進んでいる。父からは、近いうちに恋人を紹介してもらうことになっていた。まさかこんな形で会うとは思っていなかった。この緊急事態では、家族のもめ事を恥ずかしいとは言えない。早瀬には、父親の恋人のことを話してある。
「裕理さん。この人は妊娠しているはずだよ。お父さんの彼女だから」
「そうだったのか」
「うん。聖加世病院だよ」
「救急隊が来てから、久田さんに連絡を取る。ん?」
いっそう騒がしくなった。制服を着た人が数人駆けつけて来たから、救急隊だと分かった。彼女の傍らで話しかけているのに、はっきりとした言葉が出て来ない。だから、俺の方から大事なことを話すことにした。
「悠人君、俺が伝えるよ」
「いい。説明するよ。すみません!この人は妊娠しています!」
「お知り合いの方ですか?」
「はい。父の知り合いの人です。聖加世病院に掛かっているはずです」
「あ……」
彼女が目を開けて、俺の方を見た。苦しいながらも、今の話が分かったのだろう。もしかすると、恋人の息子だと気がついたのかもしれない。念のために、彼女にかかりつけの病院名を聞こうと思った。耳元に口を寄せて、聞こえるようにした。
「かかりつけは聖加世病院ですよね?」
「はい……」
彼女が俺のことを見つめているから、励まそうと手を握った。すると、だんだんと彼女の両目から涙が溢れてきて、嗚咽も漏れ始めた。
「大丈夫?どこか痛い?」
「ごめん……、なさいっ」
「え?」
「お父さんを……、とって……、ごめ……」
息子だと気づいたのか。こんな時に謝らなくてもいいのに。今回のことは父のせいだ。俺は何も言わずに、彼女の手を握りしめて励ました。
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