海のそばの音楽少年~あの日のキミ

夏目奈緖

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 思わずため息が漏れた。それはとても大きな笹だった。彩り豊かな折り紙で作られた和風の飾りが吊り下げられている。抱き上げられたままで眺めて、これがそれ、こっちはそう、そんな会話をしながら見て回った。

「この丸い物は……、初めて見たよ」
「悠人君、これはくす玉だよ。丁寧に仕上げられている」
「ふうん。時間がかかったんだろうなー」
「こっちには短冊があるよ。なになに……」
「『つきよのレンジャーの、レッドとあいたい』だってさ。これなら叶いそうだね?夏休みになったら、ショーをやっているもん」
「詳しいね。今も観に行っているのか?」
「さすがに今はないよーー」
「そうか、大学の休みに入ったら、連れて行こうかと思っていたんだけど?」
「あああ……。行きたいけどねー。さすがに……」

 言い合いをしているうちに、医学生がやって来た。恥ずかしいから降ろしてもらいたいのに拒否された。彼らが段ボールを地面に降ろして、短冊を付け始めたというのに。

「このままでいよう。悠人君が迷子になるからね」
「腕が疲れただろ?降ろしてよ。……あれ?これって、夏樹の字に似ているよ」

 水色の短冊が目に入った。特徴的な字に見覚えがあり、夏樹の字だと一発で分かった。抱き上げられていなければ、見つけられない高さに付いていた。こんな偶然があるのなら、きっと見るべき願いなのだろうと思った。

「裕理さん、この短冊を見たいんだ。このままでいてくれる?」
「いいよ」
「やっぱり、夏樹の字だ……」
「そうか。ここに入院しているからね」

 夏樹はこの病院に入院している。本当は今日の夕方に来る予定だった。父との話が終わった後で、早めに寄ろうかと思っている。この水色の短冊に触れて読み上げた。

「『離ればなれなった家族が立っている、その対岸同士の橋が完成しますように』。……どういう事だろう?」
「それが願い事か……」
「うん。黒崎さんの家のことかな?夏樹から聞いたことがあるんだ。今はお父さんと仲が良いけど、最近そうなったんだって。裕理さんは知っているんだよね?」
「ああ、聞かされているよ。いい形になって来ている」
「そっか……」

 夏樹から聞かされた話は、寂しいものだった。お父さんには、奥さん以外に恋人が何人もいた。そのうちの一人が、黒崎さんのお母さんだ。黒崎さんは9人兄弟の末っ子であり、唯一の家族だといえる一番上のお兄さんは亡くなっている。家族は居ないと思っていた33歳の時に夏樹と出会った。そのおかげもあり、両親とは『親子のやり直し』をしているそうだ。

「裕理さん。離ればなれになった家族って、やり直せるんだよね?」
「黒崎さんは頑張っているよ」
「そうだよね……」

 自分はどうなのだろう?もう何年もバラバラになったままだ。それでも、繋げようとする気になれない。また壊れるのが怖いからだ。

「ゆうとくーん?自分だけで悩むな。俺に言え」
「うん……」

 早瀬の首まわりにしがみついた。それを嫌がる素振りも見せずに、早瀬が背の高い植え込みがある場所まで連れて行ってくれた。そして、人目につかない場所で降ろされた。

「ここなら泣き放題だぞ」
「……」

 なんだか泣くのが悔しくなった。いじめっ子の顔で覗き込まれているからだ。涙を堪えている自分と、泣くのを楽しみにしている早瀬。まるで兄弟のようだ。

「裕理さんって、いじめっ子のお兄ちゃんだった?」
「それは違うよ。優しいお兄ちゃんだよ」
「お母さんから叱られていたんだよね?」

 早瀬には5歳年下の妹いる。両親との3人で実家で暮らしているそうだが、どんな人達なのか聞いたことがなかった。

「そういえば、裕理さんの家族の話を聞いたことがなかったよ。俺のことばかり話していたから……、ごめんね」
「いいんだよ。大して面白くないから話さなかっただけだ」
「聞きたい」
「うーーん……」

 早瀬が困った顔をした。そう嫌がっている風ではないが、悪い事を聞いたのだろうか。
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