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3-17(早瀬視点)
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コンサートホール会場の控え室フロアにいる。ざわついた中で、佐久弥と向かい合っている。外に出ようにも、彼はギタリストとして顔を知られており、スタッフが頻繁に通り過ぎていく場所で話すことにした。
壁にもたれ掛かって俺の方を見ているのは、5年目に別れた恋人であり、音楽仲間でもある幼馴染みの『久弥』だ。ずいぶんと印象が変化した。純粋で真っ直ぐだった幼馴染みが変わってしまった。それは、俺のせいだ。
「久弥……」
「5年ぶりに会って、あの顔はないだろう。久しぶり。元気だったか?……それぐらい言えよ」
「言えない状況を作ったのは誰だ?」
「俺だね。悠人君のギターが上手くってさ。話したかったんだよ。お前と息が合っていたし。楽しそうに弾いていたね?話している時もだけど」
「本題に入る。余計なことをするな。用件はこれだけだ」
「そういうところは変わっていないね。悠人君だけの限定の顔だったわけ?」
「変わったのかもしれない。いつからなのかは知らない」
きっと悠人と出会った時から変化したのだと思っている。誰と付き合っても楽しさを感じなかった。ただの退屈しのぎをしたいが為の恋人を求めていた。悠人に対しては、全く違う感情を持っている。
「裕理……。変わったよ。あの時、ここに居るお前なら別の道があったよ。会社員の道を選んだとしても」
「そうだな。自分でもそう思う。悠人の存在があるからこそだ」
佐久弥が眉をひそめた。心の底から嫌がっている時の顔だ。ちゃんと覚えている。意外と自分は血が通っていたのかと驚いた。
「分かっているよ。よりを戻したくて言っていない。そもそも会うつもりはなかった。あの日、黙って出て行ったままでいるつもりだった」
「いなくなって驚いた」
「へえ、少しはグサッときた?」
「ああ。何も思わないわけがない」
あの夜、大喧嘩をした。佐久弥が寂しさから他の男と会うようになり、自分には止める権利がないと思っていた。それが溝を生み、二度と会わない選択をした。
佐久弥が笑った。俺も同じように笑った。腹を立てているというのに。こんな時でさえも、俺達は双子のようだ。憧れを恋愛感情だと勘違いし、恋人らしいことをしなかった。それだけ近い存在だった。
「そうやって笑うところも変わった。さっきは怒り狂っていたくせに。俺じゃ駄目だったんだな」
「そうだ。さっきのことは許していない」
「そうだろうね。今の顔も十分、怒っているよーー」
佐久弥の言葉を聞くと、悠人の父親の姿が脳裏に浮かんだ。冷たい人だと思っていたのに、今では血の通った人に変わったと言っていた。あの日、悠人がこう言った。俺やお母さんじゃだめだったんだねと。あれほどの悲しい顔を間近で見て、彼の父親に対して苛立ちが起きた。それが今、自分に跳ね返ってきた。
「久弥。あの日、謝れなかった」
「俺も謝っていない。気にしていないよ」
「ここで謝る。ごめん」
「ゆうちゃん……」
「放っておいて悪かった」
「はあー。そう来たか。マジで変わり過ぎだよー」
佐久弥が溜め息をついた。あの日は目すら合わさなかったのに、お互いの目を見ている。すると、佐久弥が吹き出して笑い出した。
「どうしたんだ?」
「んー?こうやって見つめ合っても、時間が戻ってこないって実感したからだよ。5年は長いよ。もう好きだったことも忘れてる」
「俺は好きだった」
「ありがとう。出て行ってから後悔した。裕理もそう?」
「もちろん」
「これでお互いに『さようなら』が出来た。5年越しだよ」
「ああ……」
目の前にいるのは5年前の久弥だ。彼の前にいるのも5年前の自分だ。ここでやっと本当に別れることが出来た。久弥も同じ気持ちだと言った。晴れやかな顔になっている。自分もそうだろうか?悠人に自信を持って会えるだろうか?きっと今、心配しているだろう。
「悠人のところへ戻るよ」
「謝っていたって伝えてくれる?直接、伝えたいけど無理だろう?」
「ああ、やめておいてくれ」
「そうか。悠人君のことが気に入ったのは本心だよ。自分にないものを持っているから。邪魔するかも。ままごと婚だから」
「やめろ」
「へえ、燃えてきたよ」
「久弥!」
「怖い顔をするなよ。出番を呼びに来るだろうから戻るよ。控え室は反対方向だから良かったね」
「……」
佐久弥が手をヒラヒラと振って去って行った。少しでも早く悠人の不安を取り除きたくて、すぐに戻れる距離だが、電話をかけた。2コールで電話がつながった。
「もしもしっ、裕理さん」
「おまたせ。今からそっちへ行く」
「遠いの?迎えに行くよ」
「1分以内に着く。寝ていていいよ」
「寝ないよ!」
「ほんとかな?じっとしていろ、迷子になるから」
プツ。電話を切った後、ホッとした。居場所がここにあると感じたからだ。すぐに悠人が待つ部屋へと向かった。泣いているなら苛めてやろうと思いながら。
壁にもたれ掛かって俺の方を見ているのは、5年目に別れた恋人であり、音楽仲間でもある幼馴染みの『久弥』だ。ずいぶんと印象が変化した。純粋で真っ直ぐだった幼馴染みが変わってしまった。それは、俺のせいだ。
「久弥……」
「5年ぶりに会って、あの顔はないだろう。久しぶり。元気だったか?……それぐらい言えよ」
「言えない状況を作ったのは誰だ?」
「俺だね。悠人君のギターが上手くってさ。話したかったんだよ。お前と息が合っていたし。楽しそうに弾いていたね?話している時もだけど」
「本題に入る。余計なことをするな。用件はこれだけだ」
「そういうところは変わっていないね。悠人君だけの限定の顔だったわけ?」
「変わったのかもしれない。いつからなのかは知らない」
きっと悠人と出会った時から変化したのだと思っている。誰と付き合っても楽しさを感じなかった。ただの退屈しのぎをしたいが為の恋人を求めていた。悠人に対しては、全く違う感情を持っている。
「裕理……。変わったよ。あの時、ここに居るお前なら別の道があったよ。会社員の道を選んだとしても」
「そうだな。自分でもそう思う。悠人の存在があるからこそだ」
佐久弥が眉をひそめた。心の底から嫌がっている時の顔だ。ちゃんと覚えている。意外と自分は血が通っていたのかと驚いた。
「分かっているよ。よりを戻したくて言っていない。そもそも会うつもりはなかった。あの日、黙って出て行ったままでいるつもりだった」
「いなくなって驚いた」
「へえ、少しはグサッときた?」
「ああ。何も思わないわけがない」
あの夜、大喧嘩をした。佐久弥が寂しさから他の男と会うようになり、自分には止める権利がないと思っていた。それが溝を生み、二度と会わない選択をした。
佐久弥が笑った。俺も同じように笑った。腹を立てているというのに。こんな時でさえも、俺達は双子のようだ。憧れを恋愛感情だと勘違いし、恋人らしいことをしなかった。それだけ近い存在だった。
「そうやって笑うところも変わった。さっきは怒り狂っていたくせに。俺じゃ駄目だったんだな」
「そうだ。さっきのことは許していない」
「そうだろうね。今の顔も十分、怒っているよーー」
佐久弥の言葉を聞くと、悠人の父親の姿が脳裏に浮かんだ。冷たい人だと思っていたのに、今では血の通った人に変わったと言っていた。あの日、悠人がこう言った。俺やお母さんじゃだめだったんだねと。あれほどの悲しい顔を間近で見て、彼の父親に対して苛立ちが起きた。それが今、自分に跳ね返ってきた。
「久弥。あの日、謝れなかった」
「俺も謝っていない。気にしていないよ」
「ここで謝る。ごめん」
「ゆうちゃん……」
「放っておいて悪かった」
「はあー。そう来たか。マジで変わり過ぎだよー」
佐久弥が溜め息をついた。あの日は目すら合わさなかったのに、お互いの目を見ている。すると、佐久弥が吹き出して笑い出した。
「どうしたんだ?」
「んー?こうやって見つめ合っても、時間が戻ってこないって実感したからだよ。5年は長いよ。もう好きだったことも忘れてる」
「俺は好きだった」
「ありがとう。出て行ってから後悔した。裕理もそう?」
「もちろん」
「これでお互いに『さようなら』が出来た。5年越しだよ」
「ああ……」
目の前にいるのは5年前の久弥だ。彼の前にいるのも5年前の自分だ。ここでやっと本当に別れることが出来た。久弥も同じ気持ちだと言った。晴れやかな顔になっている。自分もそうだろうか?悠人に自信を持って会えるだろうか?きっと今、心配しているだろう。
「悠人のところへ戻るよ」
「謝っていたって伝えてくれる?直接、伝えたいけど無理だろう?」
「ああ、やめておいてくれ」
「そうか。悠人君のことが気に入ったのは本心だよ。自分にないものを持っているから。邪魔するかも。ままごと婚だから」
「やめろ」
「へえ、燃えてきたよ」
「久弥!」
「怖い顔をするなよ。出番を呼びに来るだろうから戻るよ。控え室は反対方向だから良かったね」
「……」
佐久弥が手をヒラヒラと振って去って行った。少しでも早く悠人の不安を取り除きたくて、すぐに戻れる距離だが、電話をかけた。2コールで電話がつながった。
「もしもしっ、裕理さん」
「おまたせ。今からそっちへ行く」
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「1分以内に着く。寝ていていいよ」
「寝ないよ!」
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