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この緊迫した空気の中で、笑っているのは佐久弥だけだ。緊張感の欠片もないような欠伸までしている。早瀬の方は反対の顔をしているのに、全く意に返さないようだ。
「悠人に何をしたんだ?」
「プロポーズしていた。2か月と大差ないだろ。お友達としてだけど」
「他に何をした?」
「彼とはキスをしていたよ」
佐久弥が言った。早瀬が引きつった顔になった。喧嘩はしたくない。だから早瀬の手を引いた。
「裕理さん、行こう。控え室で合流だから!」
「ええ?これから会う機会があるのにー?素っ気ないことするなよ」
「裕理さん!行こう」
「あちゃーー、鉢合わせ……」
背後を振り返ると、植本さんが来ていた。焦ったような顔だ。すると、早瀬が俺の背中を押して、彼の元へ押し付けられた。
「植本、悠人のことを頼む。佐久弥と話したいことがある」
「俺はユーリに用はないけどー?」
「黙れ」
「ホントに本人?ユーリらしくないよ」
「植本……」
「悠人君、行こう」
「待って……」
「話をしよう」
早瀬が佐久弥の言葉を阻んだ。聞いたことがないような冷たい声だ。佐久弥が眉をひそめて笑った。このまま2人にして、まさか暴力沙汰があるといけない。早瀬なら大丈夫でも、佐久弥もそうとは限らない。挑発して来ることは分かっている。早瀬へ手を伸ばすと、植本さんへと押し返された。すると、さっきまでの厳しい顔が変化して、いつもの優しい顔に戻っていた。
「悠人、植本と向こうで待っていてくれ」
「おいていかない!」
「悠人。すぐに行く」
ほんの少しの時間でも油断ができない。危ない目に遭わないでほしい。佐久弥が苦笑して俺達のことを見ていた。こんな時でも落ち着いているようだ。そして、俺に言った。
「悠人君、さっきはいい演奏だった。高宮さんのGOサインあれば、表に出るんじゃないの?今からでもガード役をやってもいいよ?顔も広いから適任だと思うけど。可愛いから狙われるよ?」
「なに言っているんだよ……」
「佐久弥、黙ってくれ」
「悠人君、こっちだ……」
「待って下さい……」
しっかりしろと、自分自身に言い聞かせた。佐久弥は嫌味を吐いた口で誉め言葉を出し、協力まで申し出てきた。こういうケースにどう対応するのか、父から言い聞かされてある。すぐに思い浮かんだのは、聞かされた時に、正しいことだと思ったからだ。父はこう言っていた。
(交換条件を出して、相手を試せ。どんなものでもいい、か……)
こんな場面で役立とうとしているのか?いや、そうしない。自分のやり方で乗り越える。佐久弥のことを見つめると、向こうも見つめ返してきた。
「佐久弥さん。せっかくの申し出は有難いですが。まだコンテストにも出ていない状態ですよ。特に何か言われたわけでもありません。憶測で物を言いたくないので、今はお断りします」
「へえ、跳ねつけるのかー?」
「『今は』と言いました」
「ふうん。ますます好みだよ」
「植本。たのむ」
「ああ。すぐに来いよ。はい、行こう……」
早瀬が俺の前に立った。視界を遮られたから、佐久弥の表情が分からない。静まり返っているから、睨みつけているか、それを返しているかだろう。早瀬のことを置いて行きたくない。大丈夫だと分かっているが、何を吹聴されるのか分かったものではない。
植本さんから肩を抱かれた。早瀬のことを置いて行きたくないと言うと、笑顔で首を振られた。そして、こっそりと耳元で言われた。
「大丈夫。心配するようなことはない。お互いに楽器を弾く以上、怪我をするようなことはしない。そう思うだろう?」
「はい……」
確かに言われた通りだ。佐久弥が静かになったし、早瀬は元通りになっていた。ここで押しのけてまで阻むのはやめた。早瀬が任せろと言っているからだ。顔を立てよう。
「裕理さん!待っているからね」
「はいはい。お菓子でも食べていろ」
「はーい!」
わざといつものように返事をした。佐久弥が身じろいだ気がしたが、振り返らずに控え室へ向かった。
「悠人に何をしたんだ?」
「プロポーズしていた。2か月と大差ないだろ。お友達としてだけど」
「他に何をした?」
「彼とはキスをしていたよ」
佐久弥が言った。早瀬が引きつった顔になった。喧嘩はしたくない。だから早瀬の手を引いた。
「裕理さん、行こう。控え室で合流だから!」
「ええ?これから会う機会があるのにー?素っ気ないことするなよ」
「裕理さん!行こう」
「あちゃーー、鉢合わせ……」
背後を振り返ると、植本さんが来ていた。焦ったような顔だ。すると、早瀬が俺の背中を押して、彼の元へ押し付けられた。
「植本、悠人のことを頼む。佐久弥と話したいことがある」
「俺はユーリに用はないけどー?」
「黙れ」
「ホントに本人?ユーリらしくないよ」
「植本……」
「悠人君、行こう」
「待って……」
「話をしよう」
早瀬が佐久弥の言葉を阻んだ。聞いたことがないような冷たい声だ。佐久弥が眉をひそめて笑った。このまま2人にして、まさか暴力沙汰があるといけない。早瀬なら大丈夫でも、佐久弥もそうとは限らない。挑発して来ることは分かっている。早瀬へ手を伸ばすと、植本さんへと押し返された。すると、さっきまでの厳しい顔が変化して、いつもの優しい顔に戻っていた。
「悠人、植本と向こうで待っていてくれ」
「おいていかない!」
「悠人。すぐに行く」
ほんの少しの時間でも油断ができない。危ない目に遭わないでほしい。佐久弥が苦笑して俺達のことを見ていた。こんな時でも落ち着いているようだ。そして、俺に言った。
「悠人君、さっきはいい演奏だった。高宮さんのGOサインあれば、表に出るんじゃないの?今からでもガード役をやってもいいよ?顔も広いから適任だと思うけど。可愛いから狙われるよ?」
「なに言っているんだよ……」
「佐久弥、黙ってくれ」
「悠人君、こっちだ……」
「待って下さい……」
しっかりしろと、自分自身に言い聞かせた。佐久弥は嫌味を吐いた口で誉め言葉を出し、協力まで申し出てきた。こういうケースにどう対応するのか、父から言い聞かされてある。すぐに思い浮かんだのは、聞かされた時に、正しいことだと思ったからだ。父はこう言っていた。
(交換条件を出して、相手を試せ。どんなものでもいい、か……)
こんな場面で役立とうとしているのか?いや、そうしない。自分のやり方で乗り越える。佐久弥のことを見つめると、向こうも見つめ返してきた。
「佐久弥さん。せっかくの申し出は有難いですが。まだコンテストにも出ていない状態ですよ。特に何か言われたわけでもありません。憶測で物を言いたくないので、今はお断りします」
「へえ、跳ねつけるのかー?」
「『今は』と言いました」
「ふうん。ますます好みだよ」
「植本。たのむ」
「ああ。すぐに来いよ。はい、行こう……」
早瀬が俺の前に立った。視界を遮られたから、佐久弥の表情が分からない。静まり返っているから、睨みつけているか、それを返しているかだろう。早瀬のことを置いて行きたくない。大丈夫だと分かっているが、何を吹聴されるのか分かったものではない。
植本さんから肩を抱かれた。早瀬のことを置いて行きたくないと言うと、笑顔で首を振られた。そして、こっそりと耳元で言われた。
「大丈夫。心配するようなことはない。お互いに楽器を弾く以上、怪我をするようなことはしない。そう思うだろう?」
「はい……」
確かに言われた通りだ。佐久弥が静かになったし、早瀬は元通りになっていた。ここで押しのけてまで阻むのはやめた。早瀬が任せろと言っているからだ。顔を立てよう。
「裕理さん!待っているからね」
「はいはい。お菓子でも食べていろ」
「はーい!」
わざといつものように返事をした。佐久弥が身じろいだ気がしたが、振り返らずに控え室へ向かった。
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