海のそばの音楽少年~あの日のキミ

夏目奈緖

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 13時。

 午後の部が始まった。今、ステージでは出場バンドが演奏している。控え室へ戻る途中で、俺達の出番が近いことが伝えられた。ここの控え室フロア奥には、3組のバンドが待機していた。先に行くように言われ、その場所へ向かった。
 
 ステージからの音声が聞こえている通路では、昼休憩の時よりも騒がしくなっていた。テレビカメラを抱えた人もいた。夏樹がカメラの数の多さをを見て驚いている。その隣を早瀬と並んで歩いた。

「俺達も映るんだね?」
「そう聞いたよ。上位1位と2位は配信されるそうだよ。遠藤さんと高宮さんが来ていた。ここが終わったら、君達に声を掛けると言っていたよ」
「頑張るよ!」

 そう言い切ると、早瀬から顔を覗き込まれた。笑っていたから、笑顔を返した。今の自分は緊張で引きつった顔をしていると思う。笑顔を向けたが、けっこう無理をしている自覚はしている。

「悠人君。お父さんが来ているのを見つけただろう?」
「うん。別人みたいな姿でビックリしたよ」

 Tシャツとジーン姿で、かき氷付きだと伝えた。やり直す気が全開だから、負けていられないことも伝えた。

「君が帰る場所はここだぞー?」
「はーい」
「悪い魔法使いからの呪いを架けてあげる。目を閉じて」
「キス?」
「そう。じっとしてろ」

 チュ。小さな音を立ててキスをされた。そして、まだ続きがあると言われて、耳元で囁かれた。悠人、愛していると。不意をつかれて胸がキュンとした。顔だって赤いと思う。早瀬がいるから頑張ろうという力になった。ここを乗り切って家に帰り、美味しくご飯を食べたい。

「悪い魔法使いからの呪いは解けないよ。別の場所に行きたくても出来ないし、逃げ出せない。諦めてここへ帰って来い」
「へへへ」

 その強引な言い方が早瀬らしくて好きだ。優しさと強引、大人と子供の共存だ。だったら今日の自分は、どれになるのだろう?大人の階段をあがっていると思うが、その位置は、どのあたりだろう?一番上から見た景色は、どんなものだろう?それは、荒波だろうか?穏やかな湾が広がっているのだろうか?この会場のそばにある湾のように。

 ペチ!すると、軽い音が立ち、早瀬から両手で頬を包まれて、お互いに目線を合わせた。

「いい顔になった。いこう」
「うん!」

 帰る場所には早瀬がいる。どこまで登っても、二歩先には待ってくれている。その手を伸ばして取れと言われている。いつか並び立ちたい。今は引っ張ってもらう。その手を取った後、ケリを入れてやった。

「トリャーー!」
「こら、大人になれ」
「はーい、先に行くよ?置いて行くよー?」
「悠人君、そこはドアじゃ……」
「ええ?いた!」

 ガコンッ。よそ見をしていて、頭が壁に当たってしまった。早瀬が苦笑いをしている。

「手のかかる子だ。いたいのいたいのとんでいけ!」
「ガキじゃないよ」
「お子様だ。さあ、少しだけ大人になりにいこうね」
「うん」

 今度は早瀬の手を取って、ドアをくぐった。手に汗をかいていたから、これまでよりも緊張しているのだと分かった。でも、早瀬からの笑顔で気持ちがほぐれて、笑顔が浮かんだ。
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