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早瀬に口で勝ったことがない。どんなケースでも容易く返されてしまう。そのことを悔しいと思いつつも、自分自身の栄養になっている。それはなぜかと、大学の授業の一環として、ディベートをやることがあるからだ。早瀬との口合戦で鍛えられているから、難なくクリアしている。今回こそは負けないぞと身構えていると、また頬をツンツン突いて笑われた。身構えていることを見破られている証拠だ。
「お客さんとして店に行くといい。楽器の勉強なら家でも出来るし、楽団仲間を紹介する。知識が豊富で刺激にもなる。視野を広げることが可能だ」
「楽器店がいいってば。常連さんも来るし」
「そうか。お客さんと話したいのか」
「そうだよ。楽しいんだよ?」
「なかなか手強くなったね」
「裕理さんに鍛えられているからだよ。この偏屈野郎」
「え?俺が?」
「他に誰がいるんだよ?オバケでもいるわけ?」
ここで怯むわけにはいかない。自分の意見を言うと決めたからだ。あのコンテストの日、早瀬の魔法で呪いから解放された。今、その人から新しい呪いをかけられる気がしている。
最近の早瀬は別人のようだ。余裕がなくて、何から逃避しようとしている気すらする。今度は自分がその何かを突き破る番だ。
早瀬が首を横に振りつつ、俺の肩を引いた。嫌でも至近距離で見つめ合うしかない。かえって好都合だ。何もやましいことはないのだから。
「俺は偏屈野郎じゃないよ。君のことを心配している」
「どんなことで?」
「君は声をかけられすぎだ。相手は男だ。本気になれば、何をするのか分からない。今もバイト先で困っているはずだ。オーナーがいるから何もないだけだ」
「バイトを始めた時は色々あったけど。今はないんだよ?」
「あるんだよ。オーナーは君に話していないだけだ。不安に思うだろう?だから、家にいて欲しい」
「はあああ!?そんな理由で、言うことなんか聞くわけがないだろ!」
「悠人、俺は心配している」
早瀬から真剣に見つめられた。呆れてモノが言えない気分だ。つまりはこういうことだ。
「自分のものにしたいからだろ?心配している束縛じゃなくて、自分勝手な束縛だよ!!バーーーカ!」
言いたいことが言えたから、楽器部屋に行こうと立ち上がった。すると、早瀨の腕に阻まれた。
「悠人、行くな」
「どこにも行かないよ。外は真っ暗だし」
「じゃあ、朝になったら出て行くのか?」
「何を言っているんだよ……。裕理さん。離してよ」
「行かないと約束するまで離さない」
「もう……」
早瀬の背中に両手を回して、ポンポンと叩いた。これじゃいつもと逆だ。いじめっ子の横暴で優しい大人が、駄々っ子のようになった。いつでも余裕をぶちかましているくせに、気弱になっている。
「どこにも行かないよ。目を覚ましてよ。何があったんだよ?最近の裕理さんは変だよ。結婚してる俺には言えないわけ?」
「君のファンが増えたからだ」
「何それ?」
「言葉通りだ。あのコンテストで、君は自信を持つようになった。いいことだよ。そうなってほしかったからね。それのせいで目を引くようになった。バイト先で待ち伏せしている男がいた。オーナーから連絡がある度に、手を打ってきた」
「ええ?」
どんな手を打ったというのか?全くそんなことは知らないのに。何をしたのか不安になった。
「なにを……」
「相手によって方法を変えた。暴力は使っていない。中途半端なことをすると厄介だからね。一発で仕留めておいた」
その声は真面目なもので、なんだか怖くなってきた。背中に回した手でTシャツを掴んで見上げた。表情も真面目だから、不安になってきた。
「裕理さん。どうしたんだよ?」
「仕留めても、次から次へと出て来る。キッチンの黒いヤツみたいだ」
「あの……、面白いことを言うなよ」
早瀬は真面目な顔をしている。でも、俺はおかしかったから笑い出しそうになった。さらに早瀬から見つめられた。
「悠人、俺は真剣だ」
「分かってるよ。俺だって笑いたくないよ。おかしいんだもん」
「何がおかしい?君のバイト終わりの時間を見計らって、客として入った奴が4人いた。君のことを見ていたから丸わかりだ。けん制し合っていたしね。覚えているか?先週の木曜日だよ」
「早めに迎えに来てくれた日だよね?終わるまでいたよね……」
「そうだよ。君に張り付いていた」
今の空気は冗談を言っている感じには思えない。それでも面白いことを言われたから、余計に笑いが込み上げて、肩まで震えてきた。
「お客さんとして店に行くといい。楽器の勉強なら家でも出来るし、楽団仲間を紹介する。知識が豊富で刺激にもなる。視野を広げることが可能だ」
「楽器店がいいってば。常連さんも来るし」
「そうか。お客さんと話したいのか」
「そうだよ。楽しいんだよ?」
「なかなか手強くなったね」
「裕理さんに鍛えられているからだよ。この偏屈野郎」
「え?俺が?」
「他に誰がいるんだよ?オバケでもいるわけ?」
ここで怯むわけにはいかない。自分の意見を言うと決めたからだ。あのコンテストの日、早瀬の魔法で呪いから解放された。今、その人から新しい呪いをかけられる気がしている。
最近の早瀬は別人のようだ。余裕がなくて、何から逃避しようとしている気すらする。今度は自分がその何かを突き破る番だ。
早瀬が首を横に振りつつ、俺の肩を引いた。嫌でも至近距離で見つめ合うしかない。かえって好都合だ。何もやましいことはないのだから。
「俺は偏屈野郎じゃないよ。君のことを心配している」
「どんなことで?」
「君は声をかけられすぎだ。相手は男だ。本気になれば、何をするのか分からない。今もバイト先で困っているはずだ。オーナーがいるから何もないだけだ」
「バイトを始めた時は色々あったけど。今はないんだよ?」
「あるんだよ。オーナーは君に話していないだけだ。不安に思うだろう?だから、家にいて欲しい」
「はあああ!?そんな理由で、言うことなんか聞くわけがないだろ!」
「悠人、俺は心配している」
早瀬から真剣に見つめられた。呆れてモノが言えない気分だ。つまりはこういうことだ。
「自分のものにしたいからだろ?心配している束縛じゃなくて、自分勝手な束縛だよ!!バーーーカ!」
言いたいことが言えたから、楽器部屋に行こうと立ち上がった。すると、早瀨の腕に阻まれた。
「悠人、行くな」
「どこにも行かないよ。外は真っ暗だし」
「じゃあ、朝になったら出て行くのか?」
「何を言っているんだよ……。裕理さん。離してよ」
「行かないと約束するまで離さない」
「もう……」
早瀬の背中に両手を回して、ポンポンと叩いた。これじゃいつもと逆だ。いじめっ子の横暴で優しい大人が、駄々っ子のようになった。いつでも余裕をぶちかましているくせに、気弱になっている。
「どこにも行かないよ。目を覚ましてよ。何があったんだよ?最近の裕理さんは変だよ。結婚してる俺には言えないわけ?」
「君のファンが増えたからだ」
「何それ?」
「言葉通りだ。あのコンテストで、君は自信を持つようになった。いいことだよ。そうなってほしかったからね。それのせいで目を引くようになった。バイト先で待ち伏せしている男がいた。オーナーから連絡がある度に、手を打ってきた」
「ええ?」
どんな手を打ったというのか?全くそんなことは知らないのに。何をしたのか不安になった。
「なにを……」
「相手によって方法を変えた。暴力は使っていない。中途半端なことをすると厄介だからね。一発で仕留めておいた」
その声は真面目なもので、なんだか怖くなってきた。背中に回した手でTシャツを掴んで見上げた。表情も真面目だから、不安になってきた。
「裕理さん。どうしたんだよ?」
「仕留めても、次から次へと出て来る。キッチンの黒いヤツみたいだ」
「あの……、面白いことを言うなよ」
早瀬は真面目な顔をしている。でも、俺はおかしかったから笑い出しそうになった。さらに早瀬から見つめられた。
「悠人、俺は真剣だ」
「分かってるよ。俺だって笑いたくないよ。おかしいんだもん」
「何がおかしい?君のバイト終わりの時間を見計らって、客として入った奴が4人いた。君のことを見ていたから丸わかりだ。けん制し合っていたしね。覚えているか?先週の木曜日だよ」
「早めに迎えに来てくれた日だよね?終わるまでいたよね……」
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