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18時。
黒崎製菓のオフィスを出たところだ。マーケティング推進室のメンバー達が、歓迎会が開かれる店へ移動している。早瀬と並んで歩きながら、今夜の店のことを話している。
同じフロアにある、秘書室の歓迎会と合同だと聞かされた。総勢50人ぐらいになるらしい。それでも全員が参加していないから、所属している人はもっと多いのだと知った。
「大学の歓迎会以来だよ、こんな大人数」
「入っていた寮は大きなところだったね」
「うん。600人いたもん。今はバンドメンバーぐらいでしか、食べに行っていないし。コンパは断っているよ。興味ないし」
「悠人君、その話を聞いていないよ?」
「誘われた話?断っているからいいかと思ったんだ」
隠すつもりはないと付け加えたのに、早瀬の顔が不機嫌なものに変わった。そこでやっと、マズイことを口にしたことに気づいた。何でも話せと言われているからだ。
「ごめん!本当に隠していないんだ」
「分かっているよ。もっと分からせるべきだと思う。おいで」
「うひぇ?」
グイっと肩を抱かれて、ビルの間に連れて行かれた。歩道から少し入っただけなのに、急に静かになった錯覚がした。歩道には仕事帰りらしい人が行きかい、ザワザワしている。
ガーー、向こうへ行こうかーー。
あの会社だとーー。
そんな会話が聞こえているのに、自分たちの周りだけが静かだ。目の前には、すっかり不機嫌になった早瀬が立っている。両腕を壁に付いているから、挟まれている状態だ。近くで見ても、やっぱり不機嫌な顔をしている。
「悠人君、俺はヤキモチ妬きだよ」
「うん。知ってる……」
「誘われたことも嫌だ」
「最近は少なくなったよ。誘いに乗らないからって……」
「パートナーがいることを知らないんじゃないのか?」
「そんなことないよ。裕理さんが怪我をした日、迎えに来てくれたじゃん。カフェでキスしたから……、噂が広まったし」
「だったらどうして誘われるんだ?」
「知らないよ!バンドのことじゃないの?入賞したし……」
「そうだね。君と話したくて誘うわけだ。ずっと魅力的になったからだ。仕方ないね」
「あの……」
「ぷ……っ」
じっと見つめていると、早瀬が吹き出した。不機嫌なものから一気に表情が和らいで、肩を揺すって笑い出しだ。その様子を見ていると、怒っているのはわざとだということが判明した。
「心配したじゃん。怒らせたって……」
「怒ったのは事実だぞ。いつも強気の君が、俺の前じゃ大人しくなるから可愛い。こういうところを見れるのは俺だけだから悪くない」
チュッ。小さな音を立ててキスをされた。至近距離で見つめ合っているその目が、熱っぽいものに変化した。きっと自分も同じようになっていると思う。
どうしてだろう?こんなヤキモチ、言いがかり、意地悪をされたのに、もっと近づきたくなってしまった。仕事モードをカッコいいと思えるようになった。それどころか、胸がキュンとしている。何かの呪いだと思う。
「裕理さん、呪いをかけるなよー」
「誘惑したいからだ」
「やっぱり架けているんだ?」
「これから歓迎会だ。唾を付けておく」
「わわわっ。んん……っ」
首筋に熱い息が掛かり、小さな痛みが左右に起きた。音を立てて唇が離れた後、今度は深いキスをされた。すると、早瀬の上着から着信音が鳴った。
それは枝川さんからで、俺たちの姿がなくなったからだった。すぐに店へ向かうと返事をして、手を繋いで歩道へ出た。
黒崎製菓のオフィスを出たところだ。マーケティング推進室のメンバー達が、歓迎会が開かれる店へ移動している。早瀬と並んで歩きながら、今夜の店のことを話している。
同じフロアにある、秘書室の歓迎会と合同だと聞かされた。総勢50人ぐらいになるらしい。それでも全員が参加していないから、所属している人はもっと多いのだと知った。
「大学の歓迎会以来だよ、こんな大人数」
「入っていた寮は大きなところだったね」
「うん。600人いたもん。今はバンドメンバーぐらいでしか、食べに行っていないし。コンパは断っているよ。興味ないし」
「悠人君、その話を聞いていないよ?」
「誘われた話?断っているからいいかと思ったんだ」
隠すつもりはないと付け加えたのに、早瀬の顔が不機嫌なものに変わった。そこでやっと、マズイことを口にしたことに気づいた。何でも話せと言われているからだ。
「ごめん!本当に隠していないんだ」
「分かっているよ。もっと分からせるべきだと思う。おいで」
「うひぇ?」
グイっと肩を抱かれて、ビルの間に連れて行かれた。歩道から少し入っただけなのに、急に静かになった錯覚がした。歩道には仕事帰りらしい人が行きかい、ザワザワしている。
ガーー、向こうへ行こうかーー。
あの会社だとーー。
そんな会話が聞こえているのに、自分たちの周りだけが静かだ。目の前には、すっかり不機嫌になった早瀬が立っている。両腕を壁に付いているから、挟まれている状態だ。近くで見ても、やっぱり不機嫌な顔をしている。
「悠人君、俺はヤキモチ妬きだよ」
「うん。知ってる……」
「誘われたことも嫌だ」
「最近は少なくなったよ。誘いに乗らないからって……」
「パートナーがいることを知らないんじゃないのか?」
「そんなことないよ。裕理さんが怪我をした日、迎えに来てくれたじゃん。カフェでキスしたから……、噂が広まったし」
「だったらどうして誘われるんだ?」
「知らないよ!バンドのことじゃないの?入賞したし……」
「そうだね。君と話したくて誘うわけだ。ずっと魅力的になったからだ。仕方ないね」
「あの……」
「ぷ……っ」
じっと見つめていると、早瀬が吹き出した。不機嫌なものから一気に表情が和らいで、肩を揺すって笑い出しだ。その様子を見ていると、怒っているのはわざとだということが判明した。
「心配したじゃん。怒らせたって……」
「怒ったのは事実だぞ。いつも強気の君が、俺の前じゃ大人しくなるから可愛い。こういうところを見れるのは俺だけだから悪くない」
チュッ。小さな音を立ててキスをされた。至近距離で見つめ合っているその目が、熱っぽいものに変化した。きっと自分も同じようになっていると思う。
どうしてだろう?こんなヤキモチ、言いがかり、意地悪をされたのに、もっと近づきたくなってしまった。仕事モードをカッコいいと思えるようになった。それどころか、胸がキュンとしている。何かの呪いだと思う。
「裕理さん、呪いをかけるなよー」
「誘惑したいからだ」
「やっぱり架けているんだ?」
「これから歓迎会だ。唾を付けておく」
「わわわっ。んん……っ」
首筋に熱い息が掛かり、小さな痛みが左右に起きた。音を立てて唇が離れた後、今度は深いキスをされた。すると、早瀬の上着から着信音が鳴った。
それは枝川さんからで、俺たちの姿がなくなったからだった。すぐに店へ向かうと返事をして、手を繋いで歩道へ出た。
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