海のそばの音楽少年~あの日のキミ

夏目奈緖

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13-1 新しい家族への分岐点

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 11月9日、土曜日。午前0時半。

 ギターの練習を終えて、リビングでテレビを見ている。両膝を抱えてソファーへ腰かけるのが定番のスタイルだ。テーブルにはスマホ、教科書、ノート、タブレット型のパソコンを置いてある。毎日の勉強時間の後に、ギターの練習をやっている。これが習慣になって両立が出来ている。バイトは週2回の短時間で、時間も体力的にも無理をしていない。

「裕理さん、もうすぐ帰って来るかな?」

 今夜は会食があり、早瀬の帰宅が遅い。部長代理になった後は、もっと増えるだろう。夏樹から黒崎さんのスケジュールを教えてもらった。早瀬がどんな感じになるのか知りたかったからだ。アドバイスも受けた。

「おむすび、美味しくできてよかったなあ……」

 そのアドバイスに従って、今夜は夜食を用意した。温め直しが少なくて済むメニューだ。おむすび、卵焼き、冷やっこ、サラダ。これなら自信をもって出せる。

 カチ……。

 テレビをつけても、面白い番組をやっていない。チャンネルに変えると、通販番組をやっていた。今回は調理器具だ。

「……マルチに活躍。みじん切り。フルーツジュース。赤ちゃんの離乳食づくりにも便利……」

 海外の人がミキサーを使って、リンゴジュースを作っている。簡単に出来るのなら使ってみたい。画面が切り替わり、赤ちゃんが映し出された。

「……これなら、お子様にも好評です。裏ごしナシ。温かい食材でもOK。今から30分以内にお申し込みいただくと、もう一台、プレゼント。本日中のお申し込みなら……」
「へえー、便利そうだな。ジュース、好きだし……」

 おまけで付いてくる商品が紹介された。それには興味はないが、このミキサーがほしいと思った。最近になり、野菜ジュース専門店に立ち寄るようになった。フルーツが入っていれば美味しく飲める。ケールが入っていても。

「……んん?裏ごし。へえー。赤ちゃんが食べるから、柔らかくするのかー」

 スマホで商品を見つつ、裏ごしの意味を調べた。この赤ちゃんというキーワードで、父のことが頭に浮かんだ。再婚相手に子供が産まれるからだ。予定日は1月19日だと聞いている。

「順調にいけば、お兄ちゃんになるのかー。へへへ。女の子か~」

 再婚相手の宮田さんから、会いたいと言われている。駅で倒れた時のお礼と、母と俺から父を奪ったことの謝罪がしたいという。会いたいと思いながらも、母に悪いと思っている。恋人がいるのは、お互い様なのに。

 今では母との関係が良くなりつつあり、よく連絡を取っている。美味しいお菓子がある。勉強はどう?という内容のラインが入るだ。だからこそ、宮田さんに会うのを躊躇っている。

「裕理さんに相談しよう……」

 何でも話せと言われている。どんな風に話すのか?今後の付き合い方は?これぐらい自分で考えるべきだというのは、早瀬からすると間違いだという。妙な考え方へ進むぐらいなら、他の意見を聞けと言われた。もっともだと思った。

「あれ?遠藤さんから、ラインが入っていたんだー」

 遠藤さんの家に行った時、両親のことを思い出して泣いてしまった。リビングへお邪魔して、リクと遊ばせてもらった。

 詳しい事情は話していないのに、遊びに誘われることが増えた。奥さんの佳代子さんとの2人で、ランチに行くこともある。子供がいないし、親戚も遠方だと聞いた。夫婦だけでは会話がないから、俺がいると楽しいと言ってくれた。

「ふむふむ。来週の水曜日か。あ、帰って来た!」

 物音がしたから玄関へ行くと、早瀬が靴を脱いでいた。ほんのりと、酒の匂いがしている。それでも臭くないから、すごいと思う。

「おかえりなさい!」
「……ただいま。ゆうとくーん」
「わわわっ」
「んんー?いい子にしていたのかー?悪い子にはお仕置きだ」
「酔ったふりをするなよー。おむすびと、卵焼きがあるよ」
「君が用意したのか?」
「うん。夏樹から教えてもらったんだ。会食で遅くなる時、夜食を用意しているって。お酒がメインなら、エネルギーの補給にならないそうだよ」
「はあーー、可愛い。帰って来るのが楽しみだ」
「わわわっ」

 早瀬から抱きつかれて、体重を掛けられてしまった。それではキリがない。ケツを叩いて、キッチンへ連れて行った。
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