海のそばの音楽少年~あの日のキミ

夏目奈緖

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 早瀬がシャワーを浴びきた。どうも疲れた顔をしている。そして、俺が握ったおむすびを食べて笑顔になり、用意して良かったと思った。ただし、酔っぱらっていることが判明した。いつもよりも賑やかだからだ。

「……おむすびが美味しいよ。卵焼き、冷やっこ、サラダ、味噌汁も」
「その味噌汁は、インスタントだよ?」
「君がお湯を注いでくれたんだ。美味しいに決まっている」
「ポットのお湯だよーー」
「お湯の量が絶妙だ。俺の好みを知っているんだね」
「あの……、褒めすぎだよー」
「褒めたらいけないのか?帰ったら君が迎えに出てきた。おまけに、夜食が用意されていた。向かいには君がいる。最高だ……」
「何かあったの?最近素っ気ないのに」
「俺が?いつだ?」
「ラインとか素っ気ないよ……」

 ハロウィンで呪いが解けた後、早瀬が少しずつ本性を現してきた。今まではマメに電話やラインを送ってきていたのに、その回数が減った。ぶっきらぼうな言い方をすることも増えた。もちろん、優しくて面白い人には変わりない。遠慮がなくなったということだろう。俺も同じだ。

「遠慮がなくなったということだ。君もはっきり言うようになって、可愛くなくなってきた。そういう子が、甲斐甲斐しくしてくれたんだ。デレデレもする」
「デデデ、デレデレ?」
「そう。可愛いから食べたい」
「大人しく寝てよーー」

 これ以上は危険だ。どんなに忙しくても、俺のことを抱くのは変化ない。夜にしたのに、朝っぱらから起こされる時もある。それだけ、エロいということだ。

「ゆうとくーん」
「……」

 早瀬からの誘いを無視して、珈琲を飲んでいる。でも、しつこくして来ないから物足りない。肩透かしを食らったということだ。寂しいという表現も当てはまる。すると、早瀬がおむすびのことを褒めだした。

「美味しいなあ。うまく握れている」
「ラップでご飯を包んで、丸くしたんだ。そうすると簡単に出来るって聞いたよ。大したことをしてないよ」
「そうやって聞いてくれたことと、行動に移してくれたことが嬉しい。留守番をさせることが増えるけど、時間を作るからね」
「無理しなくていいよ。そりゃあ、寂しいけど」
「へえー?」
「え……、あの……」
「悠人君はデザートだったのか。いただきます……」
「わわわっ。食べないでよ、ちょっとー」

 早瀬から手首を掴まれて、手の甲を舐められた。おまけに口の中に入れようとした。

「やめてよーっ。……そうだ!通販の番組で、いいものを見つけたんだ。小型のミキサーみたいなやつで、ジュースもみじん切りも、離乳食づくりとか、裏ごしもできるんだ」
「うまく逃げたな。どんなもの?」
「うん。これだよ……」

 さっき検索していた商品のページを見せた。噛みつかれないように、両手はテーブルの下にした。しかし、その心配はなかったようで、真面目に見てくれている。

「離乳食づくりか。お父さんのことを気にしてのことか?」
「さっき思い出したんだ。要らないかもしれないから、プレゼントには考えていないよ」
「会うのを迷っているだろう。どんな事で?」
「えーっとね……」

 父から、恋人の宮田さんが俺に会いたがっていると聞いている。そこで、素直に思っていることを話した。母のことが気になること、これからどう付き合うのかということ、赤ちゃんは悪くないから、可愛がりたいこと。そういう事をしてもいいのか?ということ。質問をされて答えていくうちに、母から嫌われるのが怖いということに気づいた。

「何でだろう?すごく嫌いで跳ねつけていたのに。両親や宮田さんとも、これから上手くやっていきたいって思っているよ」
「……大人になったね。俺が言うもの変だけど。……親が嫌っていうことを受け入れよう。好き嫌いの感情があっても、それは自然なことだ。そう思う自分を許そう。少しは気持ちが楽になる」
「そういう考え方があるんだねー」

 親を好きになったことがなくて、どうしていいのか迷っていた。一気にモヤモヤが晴れてきた。そんな俺のことを見て、早瀬が軽く頷いた。

「……その上で、最低限の付き合いをする。お互いに好感を持てば、行き来すればいい。もう親元にいなくていい環境だし、暮らすこともないだろう。その点はクリアしている。……お母さんに話さずに、お父さん達に会いにいけばいい。お母さんの方から恋人を紹介したいと言われれば、会えばいい。……へえ?こういう人なのかー?……それぐらいの、適当な感じだ」
「お父さんに連絡を取るよ」
「そうか。一緒に行こうか?」
「ううん。一人で行く。裕理さんも誘われたら来てね」
「ああ。分かった」

 早瀬が軽く頷いた。しんみりした空気を変えたくて、味噌汁のおかわりはどうするかと聞いた。そして、口にした直後に後悔した。堂々と言うことではない。自分で作っていないからだ。

「おかわりがほしい。入れてくれ」
「分かったよー。へへへ……。お湯の量は?」
「さっきと同じぐらいで」
「うん!」

 自信満々に頷いて、キッチンへ行った。インスタントの味噌を入れて、ポットのお湯を注いだ。休みの土日の間で、味噌汁の作り方を覚えると決めた。

 コト……。テーブルの上に置いたお椀からは、湯気と味噌の香りが広がった。それを美味しいと言って飲んでくれているから、胸が熱くなった。しかし、それは束の間で、エロい発言をされたことで幻滅した。少々のことなら笑って済ませるが、それも出来ない程度だから、あきれ返った。
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