海のそばの音楽少年~あの日のキミ

夏目奈緖

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 食事が終わった後、早瀬から支えられて、店の外に出てきた。全ての料理を平らげたから満腹だ。最後はデザートワゴンが出てきた。好きなだけ自由に選べるから、10種類も取った。その結果、珍しく胸やけがした。

「ひいいいーー。ふーー」
「トイレに行くか?」
「平気だよ……、うぇっぷ……」
「こっちへ座っておこう……」
「あの、見て頂きたいものがあります」

 宮田さんが父のスマホを取って、保存されている動画の一覧を見せてくれた。父が慌てているのが可笑しかった。全ての動画に俺が映っている。

「夏のコンサートの動画だねーー」
「本当に嬉しそうに見ていたの。私が用事をしていて、リビングに戻って来たら、こっそり見ていたから……」
「それは、やめてくれ」
「素直になってね。……早瀬さんに、お聞きしたいことがあります」
「どんな事ですか?」
「ハロウィンのステージに出演されていましたよね?ネットに写真が載っていました」
「はい。飛び入り参加をしました」
「じゃあ……」

 宮田さんが表情を輝かせた。そして、慌てた様子で、バッグの中から自分のスマホを取り出した。さらに焦った感じで操作をした後、画面を向けて差し出してきた。

「早瀬さんは、ユーリじゃないですか?アンディープのライブを何度か観に行きました。7年前に、一緒に写真を撮ってもらえました」
「えええ?マジで?見せてよ!」

 宮田さんから語られた思い出に興味深々だ。早瀬が焦っているが、それを阻止して画像を見せてもらった。

「ぷぷぷっ。何だよー、このメイク。悪魔風?」
「ゆうとくーん、見るな」
「いいじゃん。23歳ぐらいだよね?宮田さんは大学生なんだねー。へえ、これが佐久弥か……」

 それは、ライブの後でメンバーと宮田さんと友達とで撮った写真だった。その画像を見たところ、早瀬と佐久弥の印象が、今とは真逆だった。早瀬の方はメイクのせいなのか、毒々しい感じだ。佐久弥は大人しいイメージだ。今とは大違いなのが面白い。

「宮田さん、マジで好きなんだねー?」
「中学生の頃からよ。ヘヴィメタルから入ったんだけど。アンディープもメタルだし。悠人君の演奏は、ブルースよね?お父さんがヘンドリックスの曲を聴いているから、影響されたのかしら?」
「高校時代の演奏、あのフレーズが入っていた。なかなか良かったぞ……」
「げええええっ。早く言えよー」

 きまり悪そうにしている父と、人が悪そうに笑っている早瀬とが対照的だった。もう少し話したいと思いながらも、彼女の体調が心配だから、後日ということにした。お店の前で、お互いに手を振り合った。

「お父さん。宮田さん、またねー!」
「またね!」
「悠人、ありがとう」
「ばいばーい。明日、連絡するよ!」

 特に連絡するような用事はない。早瀬からそう言えと、耳打ちされたからだ。これは魔法の言葉だそうだ。

「さあ、帰ろう。どこかでスイーツを食べていこうか?」
「今日はいらないよ……」
「コンビニの肉まん、買って帰ろうか?」
「うぇっぷ……、言わないでよ」
「今夜は、ビーフシチューにしようと思っていたのにな」
「晩ご飯までに間に合わないだろ?」
「あのミキサー、買おうか?ジュースを作りたいんだろう?」
「うん。動けないから、引っ張ってよーー」

 腹が苦しいからという建前で、早瀬に抱きついた。本当は今日のことが嬉しかったからだ。いくら盾になるとは言われていても、ああやって守られると思っていなかった。けっこうカッコよかった。

「ゆうりさーん。もっと引っ張ってよー」
「はいはい。抱っこしてあげようか?」
「やだ、やだ、やだ」
「そうか、してほしいのか。素直になれ」
「げえええっ」
「……嘘をつけない子だ。嫌がっていないじゃないか」
「そんなことないよ……」
「寝たのか?」
「うん……、スーー」
「おやすみ。車に着いたら、さすがに起きてくれ」
「うん……」
 
 子供のように左腕で抱き上げられて、その肩にすがりついた。だから、泣いている顔を見られずに済んだ。
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