海のそばの音楽少年~あの日のキミ

夏目奈緖

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 夢の中にいるのだろうか?さっき早瀬から抱き上げられて、すがりついて目を閉じたところだ。今も規則正しいリズムで揺れているのに、目の前には、実家のダイニングがある。

「おばあちゃんだ……」

 ダイニングへと、亡くなった祖母が入って来た。その後ろを歩いて来たのは、小さな男の子と、その子の手を引いている母だった。その隣には父がいる。3人で椅子に腰かけると、男の子が誰かのことを呼んだ。

「おじいちゃーん」
「はいはい、おまたせ」

 その人は、自分とよく似た顔立ちをしていた。アルバムの写真で見たことがある、祖父だった。俺が産まれる直前に亡くなったと聞いている。それなら、目の前の光景は夢だろう。そして、男の子は俺だと思った。その俺が、何か欲しがっているようだ。母にすがりついて頼んでいるからだ。

「ブルーが欲しいよーー」
「ブルーって?」
「悠人が、ヒーロー物の人形を欲しがっているんです」
「買ってあげなさい」
「わーい。おじいちゃん、大好き!」
「だから、言うなと言っただろう」
「達弘は厳しすぎるの。こんなにいい子にしているんだから」
「いけません。たくさんあるので……」
「いいんだよ。達弘は頭がかたすぎる」

 俺が祖父の膝の上に抱き上げられて、腰かけている。そして、俺が無邪気に笑い出すと、みんなも笑い出した。

 もっと近づきたくて手を伸ばした。祖母のことに触れたかったからだ。それなのに、スッと向こうに突き抜けてしまった。そして、触れたはずの場所から、薄くなっていった。試しに呼んでみることにした。

「……おばあちゃん!」

 しかし、祖母には俺の姿は見えなくて、キョロキョロしている。

「悠人?ここにいるのに、悠人の声がしたわよ?さっき、おばあちゃんって呼んだ?」
「ううん?オムレツを口に入れていたもん」
「あら、空耳かしら……」

 そっか。
 俺のことは見えないのか。
 これは夢だもんな。
 それでもいいから、会えてよかった。

「おばあちゃん、ありがとう!」
「悠人?さっき、お礼を言ってくれた?」
「ううん?ビーフシチューを口に入れていたよ」
「あら……」

 2度目のことだから、みんなが笑い出した。それは自然な笑顔だった。夢でもこんな光景を見られてよかった。そう思っていると、自分の両手が透けてきた。きっと夢から覚めるタイミングなのだろう。みんなに向かって手を振った。

「ありがとう!またね!明日、連絡するよ」

 すると、男の子が俺に向かって手を振ってくれた。

「ばいばーい!またね!」
「うん、またね……」

 手を振り合った直後、車のドアが閉まる音がした。
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