海のそばの音楽少年~あの日のキミ

夏目奈緖

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 そっと目を開けると、早瀬がいた。寝ている俺のことを、車に乗せたところだった。

「ふーー、起きてくれたか」
「ごめん、乗せづらかっただろ」
「いいや、もう少しで襲うところだった」
「ばかーー」

 近づいてきた早瀬のことを押しのけると、手の甲が自分の頬に触れた。濡れた感触があり、涙ぐんでいたことを思い出した。

「悠人君、どんな夢を見ていたんだ?」
「哀しい夢だったよ……」
「さっきまで笑っていたぞ?起きる直前に、ばいばい、またね!って。誰かに会ったのか?」
「うん。会いたい人達だったよ。もういないけど」
「そうか……」
「そうだよ……」

 そうだ。夢の中では存在している。現実には無いものでも、いつでも見られる。きっと心が弱った時に、誰かが見せてくれるのだろう。
 
「さあ、帰ろう。ブルーの人形、買ってあげようか?」
「何それ?」
「月夜のレンジャーのことだ。サイトを見ていただろう」
「あれは違うよ。次回の予告をチェックしていたんだ。人形はいらない」
「ますます買ってあげたくなった」
「いらないって」
「この辺りの玩具売り場は……」
「ひいいいい……」

 早瀬が車のナビにショッピングモールを表示させた。だからこう言った。どうせ買ってくれるなら、初心者向けの料理のレシピ本が欲しいと。もちろんOKの返事がもらえて、行き先が大型書店へ変更された。

 店に着いたとき、たくさん本があるから、どれがいいのか迷った。そこで、早瀬が選んでくれた。その後、月夜のレンジャーの絵本を買いに、売り場に連れて行かれた。恥ずかしすぎる。

 わあわあと言い合いをしながらそこでも本を選び、マンションへ帰り着いた頃には、早瀬のことで幻滅していた。浴衣を着崩したところを写真に収めたいと言われたからだった。せっかく今日は見直したのに、がっかりした。こうして一日が過ぎていった。
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