181 / 259
14-10
しおりを挟む
それが黒崎との最初の出会いだった。拓海さんと同じく、背の高い子だった。黒崎が俺と同じ目線の高さに合わせた後、ラッピング袋を差し出してきた。
「……ユーリ。お菓子を食べないか?」
「いただきます」
「まあ、可愛い。黒崎君とは大違いね。これはどう?カボチャのクッキーよ」
「ありがとうございます」
沙耶が俺のことを褒めてくれた。年上の女の子と話す機会が無くて、緊張したのを覚えている。さっそく、受け取った菓子を父に見せた。
「お父さん、もらったよ」
「よかったな」
すると、黒崎が俺のことを見て、不思議そうに言った。
「ユーリ、食べないのか?ほら、バリバリ開けろよ」
「あ……、ここだと……」
「行儀がいいな?ここで食べろ。ほら、座れよ!」
後ろの椅子に腰かけると、黒崎が豪快に包みをあけた。遠慮をしていると、クッキーを口の中に放り込んできた。それを一生懸命に食べていると、拓海さんが黒崎のことを叱った。
「こら、食べるスピードを考えろ。お前とは同じじゃない」
「遠慮しているんだよ。こういう子には、無理にやったほうがいい」
「こら、だめだ。め!」
「いたっ。お兄ちゃん、叩くなよー」
「いいなあ……」
拓海さんが黒崎の尻を叩いた。仲が良いし、言い合いをしていることが羨ましかった。しばらく一緒に遊んだ後、帰る頃になり、拓海さんから手を握ってもらえた。
「爪を噛んでいるのか。ヴァイオリンを弾く時に痛いだろう?」
「クセなんです」
「これじゃ楽器が可哀想だ。怪我をしているのを、毎日見ているんだよ?」
「拓海さんは、楽器を弾くんですか?」
「ううん。何も弾かないよ。子供の頃に習ったけど、興味がないからやめた」
「許してもらえたの?」
「はっきり、NOと言ったからだ。圭一はピアノを弾いているけど、大好きだからやっている」
「そうなんだ……」
これが拓海さんとの最初の思い出だ。俺が中学二年生で、黒崎が高校三年生の春、拓海さんが首都高速道路の玉突き事故の犠牲になり、亡くなった。告別式に出た時、泣いている黒崎へ声を掛けることが出来なかった。
その次に黒崎に会ったのが5年後だ。大学入学後の、OBを含めた集まりの場だった。まるで別人を見ているかのようだった。笑顔を浮かべているが、いつも目が笑っていなかった。まるで自分を見ているかのようで、少しずつ心の内を話すようになった。
「ユーリか。懐かしいな。俺のことを覚えているか?」
「もちろんだよ。久しぶりだね」
「もう爪を噛んでいないだろうな?イベントの時、怪我をしていただろう。楽器が可哀想だと、拓海兄さんから言われていたな」
「そうだったね。今はエレキギターを主に弾いているよ。ハードロックをやっている」
「へえ。昔より笑うようになったな。よかった」
俺が笑うようになった代わりに、黒崎が笑わなくなっていた。その呪縛を解いたのが夏樹だ。お互いに呪いを解き合い、幸せにやっている。そんな2人ことが羨ましくなっていた。
その頃から、守ってあげる子が欲しくなっていた。どの相手とも上手くいかなかったのは、自分を縛り付けていたからだ。
そんな時に出会った悠人は、放っておけないタイプだった。面倒くさいのに、気がつくと世話を焼いていた。この子の面倒を見るのは、俺だけでありたいと思うようにもなった。
守ってやるだけでは足りない。デコボコ道を整える必要があった。両親との関係を整理させて整えて、歩きやすい道を作ろうとした。それが完成しつつあり、自分の仕事環境を整えれば仕上がりだ。
「もう少しだ……。高速道路みたいになる……」
頭痛が起きて寝返りを打った。夜の9時前になっている。いつの間にか眠っていたようだ。そろそろ悠人が帰ってくる頃だろう。
「……ユーリ。お菓子を食べないか?」
「いただきます」
「まあ、可愛い。黒崎君とは大違いね。これはどう?カボチャのクッキーよ」
「ありがとうございます」
沙耶が俺のことを褒めてくれた。年上の女の子と話す機会が無くて、緊張したのを覚えている。さっそく、受け取った菓子を父に見せた。
「お父さん、もらったよ」
「よかったな」
すると、黒崎が俺のことを見て、不思議そうに言った。
「ユーリ、食べないのか?ほら、バリバリ開けろよ」
「あ……、ここだと……」
「行儀がいいな?ここで食べろ。ほら、座れよ!」
後ろの椅子に腰かけると、黒崎が豪快に包みをあけた。遠慮をしていると、クッキーを口の中に放り込んできた。それを一生懸命に食べていると、拓海さんが黒崎のことを叱った。
「こら、食べるスピードを考えろ。お前とは同じじゃない」
「遠慮しているんだよ。こういう子には、無理にやったほうがいい」
「こら、だめだ。め!」
「いたっ。お兄ちゃん、叩くなよー」
「いいなあ……」
拓海さんが黒崎の尻を叩いた。仲が良いし、言い合いをしていることが羨ましかった。しばらく一緒に遊んだ後、帰る頃になり、拓海さんから手を握ってもらえた。
「爪を噛んでいるのか。ヴァイオリンを弾く時に痛いだろう?」
「クセなんです」
「これじゃ楽器が可哀想だ。怪我をしているのを、毎日見ているんだよ?」
「拓海さんは、楽器を弾くんですか?」
「ううん。何も弾かないよ。子供の頃に習ったけど、興味がないからやめた」
「許してもらえたの?」
「はっきり、NOと言ったからだ。圭一はピアノを弾いているけど、大好きだからやっている」
「そうなんだ……」
これが拓海さんとの最初の思い出だ。俺が中学二年生で、黒崎が高校三年生の春、拓海さんが首都高速道路の玉突き事故の犠牲になり、亡くなった。告別式に出た時、泣いている黒崎へ声を掛けることが出来なかった。
その次に黒崎に会ったのが5年後だ。大学入学後の、OBを含めた集まりの場だった。まるで別人を見ているかのようだった。笑顔を浮かべているが、いつも目が笑っていなかった。まるで自分を見ているかのようで、少しずつ心の内を話すようになった。
「ユーリか。懐かしいな。俺のことを覚えているか?」
「もちろんだよ。久しぶりだね」
「もう爪を噛んでいないだろうな?イベントの時、怪我をしていただろう。楽器が可哀想だと、拓海兄さんから言われていたな」
「そうだったね。今はエレキギターを主に弾いているよ。ハードロックをやっている」
「へえ。昔より笑うようになったな。よかった」
俺が笑うようになった代わりに、黒崎が笑わなくなっていた。その呪縛を解いたのが夏樹だ。お互いに呪いを解き合い、幸せにやっている。そんな2人ことが羨ましくなっていた。
その頃から、守ってあげる子が欲しくなっていた。どの相手とも上手くいかなかったのは、自分を縛り付けていたからだ。
そんな時に出会った悠人は、放っておけないタイプだった。面倒くさいのに、気がつくと世話を焼いていた。この子の面倒を見るのは、俺だけでありたいと思うようにもなった。
守ってやるだけでは足りない。デコボコ道を整える必要があった。両親との関係を整理させて整えて、歩きやすい道を作ろうとした。それが完成しつつあり、自分の仕事環境を整えれば仕上がりだ。
「もう少しだ……。高速道路みたいになる……」
頭痛が起きて寝返りを打った。夜の9時前になっている。いつの間にか眠っていたようだ。そろそろ悠人が帰ってくる頃だろう。
1
あなたにおすすめの小説
恋人はメリーゴーランド少年だった~永遠の誓い編
夏目奈緖
BL
「恋人はメリーゴーランド少年だった」続編です。溺愛ドS社長×高校生。恋人同士になった二人の同棲物語。束縛と独占欲。。夏樹と黒崎は恋人同士。夏樹は友人からストーカー行為を受け、車へ押し込まれようとした際に怪我を負った。夏樹のことを守れずに悔やんだ黒崎は、二度と傷つけさせないと決心し、夏樹と同棲を始める。その結果、束縛と独占欲を向けるようになった。黒崎家という古い体質の家に生まれ、愛情を感じずに育った黒崎。結びつきの強い家庭環境で育った夏樹。お互いの価値観のすれ違いを経験し、お互いのトラウマを解消するストーリー。
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。
今日は少し、遠回りして帰ろう【完】
新羽梅衣
BL
「どうしようもない」
そんな言葉がお似合いの、この感情。
捨ててしまいたいと何度も思って、
結局それができずに、
大事にだいじにしまいこんでいる。
だからどうかせめて、バレないで。
君さえも、気づかないでいてほしい。
・
・
真面目で先生からも頼りにされている枢木一織は、学校一の問題児・三枝頼と同じクラスになる。正反対すぎて関わることなんてないと思っていた一織だったが、何かにつけて頼は一織のことを構ってきて……。
愛が重たい美形×少しひねくれ者のクラス委員長、青春ラブストーリー。
新緑の少年
東城
BL
大雨の中、車で帰宅中の主人公は道に倒れている少年を発見する。
家に連れて帰り事情を聞くと、少年は母親を刺したと言う。
警察に連絡し同伴で県警に行くが、少年の身の上話に同情し主人公は少年を一時的に引き取ることに。
悪い子ではなく複雑な家庭環境で追い詰められての犯行だった。
日々の生活の中で交流を深める二人だが、ちょっとしたトラブルに見舞われてしまう。
少年と関わるうちに恋心のような慈愛のような不思議な感情に戸惑う主人公。
少年は主人公に対して、保護者のような気持ちを抱いていた。
ハッピーエンドの物語。
僕の恋人は、超イケメン!!
刃
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?
学校一のイケメンとひとつ屋根の下
おもちDX
BL
高校二年生の瑞は、母親の再婚で連れ子の同級生と家族になるらしい。顔合わせの時、そこにいたのはボソボソと喋る陰気な男の子。しかしよくよく名前を聞いてみれば、学校一のイケメンと名高い逢坂だった!
学校との激しいギャップに驚きつつも距離を縮めようとする瑞だが、逢坂からの印象は最悪なようで……?
キラキライケメンなのに家ではジメジメ!?なギャップ男子 × 地味グループ所属の能天気な男の子
立場の全く違う二人が家族となり、やがて特別な感情が芽生えるラブストーリー。
全年齢
はじまりの朝
さくら乃
BL
子どもの頃は仲が良かった幼なじみ。
ある出来事をきっかけに離れてしまう。
中学は別の学校へ、そして、高校で再会するが、あの頃の彼とはいろいろ違いすぎて……。
これから始まる恋物語の、それは、“はじまりの朝”。
✳『番外編〜はじまりの裏側で』
『はじまりの朝』はナナ目線。しかし、その裏側では他キャラもいろいろ思っているはず。そんな彼ら目線のエピソード。
人気アイドルグループのリーダーは、気苦労が絶えない
タタミ
BL
大人気5人組アイドルグループ・JETのリーダーである矢代頼は、気苦労が絶えない。
対メンバー、対事務所、対仕事の全てにおいて潤滑剤役を果たす日々を送る最中、矢代は人気2トップの御厨と立花が『仲が良い』では片付けられない距離感になっていることが気にかかり──
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる